第7話 リーシアの告白1

 

『――朝のニュースです。週末のひと時、皆様どのようにお過ごしでしょうか。残念ながら、今週も、新型炉心反対運動のデモ行進が予定されています。混乱が予想されますので、お出かけの際はご注意ください。予定コースは――』


 ラジオから、今朝のニュースが流れている。

 一昔前には、選ばれた地位の人物しか手に出来なかったという技術の結晶が、いまでは日用品だ。朝食の時間、無意識にスイッチに手を触れるほどの、身近な品である。

 これぞ、文明社会。

 メイリオはそう思いながら、エネルギー供給に関わる一人として、デモ行進に複雑な感情を抱いていた。

 あくまで、些細ささいな心配事項である。


「昨日の話しの続き、私のこと」


 トーストにかじりつきながら、リーシアが話し始める。捜査員が現れても、メイリオはリーシアのことを口にしなかった。なんら考えがあったわけではないが、リーシアは、事情を教えるべきとの誠意を見せてくれたのだ。

 それはうれしいのだが、メイリオの表情は、やや固い。リーシアの誠意であると分かっているが、覚悟が必要だったのだ。


「昨日少し話したけど、この制御版は中継施設の――って、言っても分からないよね」


 共に、紙袋を見る。

 中身が、問題だ。

 ただの紙袋なのだが、メイリオにとっては、とてつもない威圧を放っていた。それはもう、このまま窓からほうり投げたい誘惑に駆られるほどだ。

 メイリオは虚勢を張るため、余裕をぶって笑った。


「はっ、はっはぁ~、あまり馬鹿にするものではない。オレだって、エネルギー供給網の補修整備員なんだぜ。三級だけど、大体は分かるさ~、まぁ、大体は………」


 馬鹿にするなといいながら、言葉はしぼんでいく。余裕ぶった大笑いから、馬鹿にしてくれと言わんばかりの自己紹介だ。

 それでも、専門家の端くれには違いない。目の前の紙袋の中身が、メイリオごとき下っ端では、手にすることも許されない部品であると、知っている。

 ただいまリーシアの手にある、手のひらサイズの本の形状の、金属の塊である。


「何だ、分かるならいいね。これは中央制御装置のための、ニセモノなの」


 メイリオは、食べる手を止めていた。

 お願い、待ってくださいリーシア様と、土下座をしたい気分だ。先ほどの、大人ぶった自分を蹴飛ばしたかった。

 ヤバイと、だれに聞くまでもなく、ヤバイと。


「パパの足を引っ張りたい人が、事故をわざと起こすように作ったの。これを使うと、間違った命令が送られるの。都市全体が、真っ暗にされちゃう。ここまでは昨日話したよね」


 メイリオは、うなだれた。

 手元のカップに、情けない自分の顔が映る。どうか、巻き込まないでくださいと、懇願している気がした。

 リーシアにも、メイリオの情けなさが伝わっていることだろう。かといって、今更取り繕う意味があるのだろうか。開き直ると言うか、明るい性格のメイリオは、気分を切り替えた。

 疑問が、あった。


「うん………でも、保安局もダメって………リーシアちゃんのお父さんはすごい人なのに、誰も頼れないのが、なんていうか………」


 昨夜もふと思ったことだが、やはりおかしかった。

 黒幕が何者かは、わからない。だとしても、リーシアには偉い方々の知り合いが多いはずだ。なぜ、頼れないのか。誰が、メイゼ博士のご令嬢の言葉を無碍にするのか。

 リーシアは、答えた。


「騒ぎたいだけのおバカさんたちが、パパの足を引っ張っちゃったの。パパが馬鹿な連中をたきつけてるって、最近は偉い人の中からも………この町に引っ越したのも………」


 ちょうど、足を引っ張るおバカさんたちの話が、ラジオから流れていた。


『――デモ行進の最大勢力は、メイゼ博士の名前を冠している『メイゼ連合』であり、かのメイゼ博士の意向を汲んだと宣言、年々勢力は拡大しています。以前より博士本人はこの団体との関係を否定していますが――』


 つらそうだった。

 誰も信じられないなどと、子供が口にしていい言葉ではない。それが大人の勝手な決め付けだと分かっていても、メイリオはそう思った。

 何か出来なければ、大人として情けないと………そして、思い至る。

 本当に、そうだろうかと。


「でも、リーシアちゃんがこの独身寮を選んだのって、本当は期待してたんじゃないの。話が通じる大人を頼って、何とかしたいって」


 看板に書いてあるのだ。都市整備士独身寮と。

 メイリオのような、エネルギー供給に関わる下っ端の住まいなのだ。上はだめでも、あるいはと思ったとしてもおかしくない。

 リーシアは、続きを話してくれた。

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