4.星降る里
息を切らしてたどり着いた先にあったのは、建物の残骸だった。
里の中心が大きくえぐれている。
シェルーリアとソーレは茫然と立ち尽くす。
クリストファは周囲に目をやり「逃げているといいんですが……」と呟く。
ジックはあのドラゴンがいないか周囲を見渡す。
「とりあえず、ドラゴンの脅威はなさそうだ」
からからと風によって4人の足元に可愛らしいお菓子の箱が転がってくる。
その箱に見覚えがあった。
レイアがみんなに配ったマカロンの箱だ。
「とにかく無事な人がいないか探すっす……」
ソーレは嫌な予感から目を背けつつ、こわばる手足を動かして周囲を探す。
その言葉に無理やり気持ちを奮い立たせて、3人も手掛かりがないか目を凝らしながら歩き回る。
「なにか痕跡はないっすか」
血眼になって捜すソーレを見て、強く口を結びジックは静かに言葉をこぼす。
「里の外に向かって移動している足跡は……。ない」
それを意味することを知るジックは目元を押さえる。
受け入れたくないシェルーリアは「に、逃げたのかも……」と周囲を探すその体は震えていた。
そして彼女は自分で書いた血文字が書かれた葉っぱを発見する。
震える手でなんとか拾い上げたそれを絶望の面持ちで見つめる。
ソーレはそんな3人に気づかずに小さい体でがれきを押しやり、自身に擦り傷などが付くのも厭わず探して回る。
「そうっす。みんな、どこかにいるはずっす!」
自分に言い聞かせるように大きな声を出す。
そこに幾人かの人の影が寄ってくるのを感じる。
一瞬、里の人たちが戻ってきたのではと振り返る。
しかし、そこにいたのは見慣れぬ商人や冒険者と思われる姿の人々だった。
「巨大なドラゴンが去っていくのを見て、様子を見に来たんだが……」
そう言う冒険者の顔は、この惨状を見て悲しみに彩られる。
「これは、ひどい……」
ジックが前に出て彼らに声をかける。
「誰かすれ違わなかったか?生存者を探しているんだが」
その言葉にハッとなり、シェルーリアも口を開く。
「こ、この里の人たちが逃げおおせたか、知りませんか!?」
彼らはお互いに顔を見やり、首を振る。
代表して1人、重たい口を開いた。
この場にいる人としか会わなかったと。
「この里に知り合いがいる人はいないっすか!?どこかに隠し部屋とか!」
その問いに対して、この里によく通っているという商人が答えるが、聞いたことはないと希望の芽がつぶれていく。
ジックは自分たちのことを説明して情報交換を申し出る。
彼らはその提案を快く受け入れる。
総合すると、ふらついた巨大なドラゴンが里の方に降りて、衝撃音が聞こえたかと思うと、そのドラゴンが空高くまで登り去ったということだった。
「情報ありがとうございます。あなた方も、ここから離れた方がいい」
それに彼らは頷き、この情報を国などに伝えなくてはと、この場を次々に去っていく。
「危険なドラゴンだ。次はどこを狙われるかわかったもんじゃない」
と誰かがぼやいていたのが聞こえた。
「私が、この子を拾った、から……?」
シェルーリアがぽつりとこぼした。
「余計なことを考えるな。シェルーリア」
ジックは前を見ながら言う。
でも、とシェルーリアはさらに口を開こうとするが。
「今は見るべき現実があるはずですよ」
クリストファがそう言って止める。
「.....まだ里のみんなが見つかってないっす。もしかしたら何処かで待ってるかも知れないっす」
希望を捨てたくないソーレのその言葉にシェルーリアはこくりと頷く。
その後4人は心身ともに疲れた体を無理やり休ませ、日が登ると共にギルドに戻るべく出発する。
ギルドへ到着した4人を労わるように支部長が温かく迎える。
「話は聞いた。とりあえず疲れただろ。ゆっくり休め」
「後のことはオレがやっとく」
支部長はよく生きて帰ってきたと言うように4人に優しく言葉をかける。
「話が早くて助かる」とジックは少し肩の力を抜く。
「力になれず、申し訳ありません……」
クリストファは依頼を達成できなかったと肩を落とす。
それに対して支部長は、この結果を予測できなかった自分のミスだと口にする。
「……ありがとう、ございますっス」
心ここにあらずといった様子のソーレに支部長は心配そうな眼差しを向ける。
「俺は寝るぞ。お前達も、今は休んでおけ」
「あれは一介の冒険者がどうこうできる問題じゃない。アンタのせいでもないさ」
ジックは3人に向けて声をかけた後、次にクリストファと支部長に声をかける。
「そうですね……。今は休みましょう」
その横をシェルーリアは思いつめたような表情で通り抜けていく。
シェルーリアの後ろを心配そうな声をあげながら竜の子が追いかけようとする。
その様子を見かねたジックが竜の子を拾い上げて「お前は俺に付き合え」とカウンターに座る。
シェルーリアはその様子を横目で見て部屋へ向かう。
「仕事が終わったら酒だ。お前には、ちょっと早いか」
ジックはシェルーリアを目の端で見送りつつ竜の子を構う。
『ままぁ』と竜の子はジックに甘えるように抱き着く。
「ままじゃねぇ」と突っ込む
その様子を見てクリストファは静かに近づく。
『ままぁ』
「こいつ、ままは鳴き声なのか?」
「きゅう?」首を傾げながら竜の子はジックを見上げる。
「おちょくられている気分だ」
ジックがジトと竜の子を見ていると、クリストファが横に座り、竜の子の頬をつつきながらつぶやく。
「しかし、なんなんですかねぇこれは……」
竜の子はクリストファの手に甘えるように頭をこすりつける。
「わかんないっす」
「さあな」と酒をあおる。
クリストファのつぶやきにソーレとジックが答える。
(パーティとか言って……。浮かれてたのかな)
暗く沈んでいく者。
「所詮、この世は弱肉強食だ。どうしようもなかったんだよ……」
酒を飲み干し遠い目をする者。
零れ落ちる希望を掴もうと足掻く者。
呑み込んで諦観する者。
いずれにせよ、深い傷跡を心に刻み込まれたのだ。
宵の明星OP URL↓
https://youtu.be/4kXA2OrMHUo
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