第134話 スパイト浄化作戦  

(ヴァイス・レザードを撃破し、スパイト王国を制圧したクラウスと聖女たち。魔物化したヴァイスが残した賢者の石をめぐり、レティシアはクラウスにスパイトの浄化に賢者の石が使えるかもしれないと言う。エルフのクラウディアに相談した後、国王陛下にも相談することに。そこであらためてスパイト王国の過去のいきさつを聞かされることになる)



「スパイトの現状は我らの祖先が行ってきたことにも原因があったのかもしれぬ。だがな、当時の判断として重罪人を隔離することは一般国民の治安のためには間違っていなかったであろうし、はるか過去の出来事を蒸し返して今を生きる人間に責任を問うことはできん」 


 まあ、そうか。

 百年以上前に流刑はなくなったし、その時のこと今更蒸し返せるなら永遠に責任を取らされるもんね。

 これだといったん被害者を名乗るのに成功すれば加害者に永遠にゆすりたかり続けることができる。


「しかしそれとは別に、この件は解決すべきだ。さもなければまた同じ悲劇が繰り返されるからな。これは現代の為政者として未然に防がねばならぬ。しかも聖女が協力して解決の可能性があるならばなおさらだ」


 第二、第三の【錬金魔王】が出てくる素地をつぶしておきたいということか。

 それはまさしく今を生きる人間が後世のためにやっておくべきことだろう。


 そして宰相様が問いかけてくる。


「してクラウスよ、『賢者の石』を持っておるそうだが念のため見せてくれまいか?」


「はい、宰相様」


 僕はディメンジョンボックスから賢者の石を取り出して見せる。


 3人とも見入っていた。


「これが『賢者の石』……。確かに恐ろしいほどの魔力を感じるな。これを二人の聖女が力を合わせて使えばスパイトの浄化が可能、ということか」


「いえ、宰相様。賢者の石は3つありますので、聖女様には1つずつ使用していただくつもりです」


「クラウスお主、今何と? 3つ? 国を揺るがすようなアイテムが3つもあると?」


「ええ、一つは『ロックドライブラリー』にレッドラインが発生した時のボスから。そして魔物に変貌した教皇が落としたもの、3つ目は【錬金魔王】が残していったものです」


 そういって僕は残り2つの賢者の石もディメンジョンボックスから取り出す。


 一瞬だけだったけど、陛下の目が飛び出さんばかりに開かれた。


「んん…… お主といると常識がなくなりそうだ…… 待て、S級ダンジョンはスタンピードが起こらないのではなかったか?」


「千年に一度ほどのペースで起こる可能性があるそうです。エルフに教えてもらいました」


「すると何か、S級ダンジョンのスタンピードも未然に防いでおったのか?」


「ええ、まあ一応」


「クラウス、今から侯爵に昇爵させよう」


「陛下、落ち着いて下さい! 確かにそれに値する功績ですが、証明することができません」


 真顔で昇爵を告げる陛下とそれを諫める宰相様。

 ん、余計なこと言っちゃったかな?


「他に隠していることはないであろうな?」


「いまのところ思いつく限りありません」


「わかった。であれば次の任務を与える。聖メルティア教国の聖女と協力してスパイトの地を浄化せよ」



◇◇◇



 2ヶ月後。

 スパイトの王都から北に行き魔の聖域との境にあるS級ダンジョン『屍霊術師の塔』。



「陰気な塔ねえ〜」


「私はダンジョン初めてです」


「またクラウスとダンジョンに潜れるなんて思ってもみなかったの」


「よろしくお願いしますね、クラウスさん」


 今回のパーティは、レティ様、プリンさん、トルテさん、ミストラルさんだ。

 僕以外の全員は『試練の指輪』、『聖衣ミスティアローブ』を装備している。


 ウォーレンさん達とパーティを組んでた時以来の5人パーティだがこれには理由がある。


 まず、レティ様とプリンさんは聖女だから参加必須。

 クラウディアさんからは、レベルを最大に上げないと賢者の石の力に耐えられないだろうということでレベル目標は最大の255。

 そしてプリンさんの補佐役であるミストラルさんも参加。

 

 そうなると聖メルティア教国が力を持ちすぎるという懸念がティンジェル王国から出てきた。

 そこで王国からも誰か人員を、ということで選ばれたのは僕の元パーティメンバーであるトルテさん。


 数が足りない『試練の指輪』は、僕が【錬金術マスター】を持っているので王国の錬金術施設を借りて作成した。


 そして、レベル上げ最中に何かあったら困るので作ったのは『聖衣ミスティアローブ』。

 聖メルティア教国の代々の聖女の中でもっとも退魔の力が強かったと言われる大聖女ミスティアの名を冠したローブは、聖女が魔力を浸し続けた糸で編まれる。

 本来は量産できるはずもないが、レティ様が僕からMPを借りながら延々と糸に魔力をこめ続けて人数分だけ用意し、教国で作成した。

 優れた魔法防御に光魔法を増強する効果を併せ持ち、溢れ出る魔力が物理ダメージも軽減するという最高級防具だ。


 ついでに僕の装備も更新した。

 S級ダンジョン『竜の箱庭』で永遠の回廊に挑まないときの龍煌姫のドロップ品の竜鱗で鎧を作ってもらった。

 竜鱗の鎧は物理と魔法防御が高くて、四大属性攻撃を軽減し軽くて動きやすい。

 竜鱗を持ち込んで鎧の作成を依頼した王都で一番の鍛治師は、素材を見て涙を流して感動していたよ。




 そんなわけで目指すのはパーティ全員レベル255。


 この2か月の準備期間中で、僕は既にここを何度か踏破して4人を連れても大丈夫だろうという目途は立っている。


 聖衣ミスティアローブや竜鱗の鎧ができるまでの時間もあったので、魔の聖域の開拓も南側を主に拡大してスパイトとの国境の目印となる程度の森を残しほとんど終わらせた。

 北側はさすがにアビスゲートがあるから念のためまだ開拓せずにおいている。


 さあ、みんなでダンジョン探訪と行こうかな。


◆◆◆◆◆◆


 いつもお読みいただきありがとうございます!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る