第129話 不死者の行進 

 エリアに呼ばれて転移した先は陛下の執務室。


 不死者とか不吉なワードが聞こえたから聖女のレティ様にもついてきてもらう。


 陛下、宰相様、スタン侯爵様、エリアが待っていた。



 宰相様が話し始める。


「クラウスよ、前置きはなしだ。サウスタウンが不死者の行進イモータルパレードに襲われておる」


「宰相様、不死者の行進イモータルパレードとは一体……?」


「ダンジョンから魔物が溢れるスタンピードは知っておろう? スタンピードを構成する魔物の大半がグールなどのアンデッド系統の場合は特に不死者の行進イモータルパレードと呼び慣わされるのだ。しかし今回のは過去の文献とは異なり、魔物たちが目に見えるほどの瘴気に覆われておりそれが攻撃を弾いているそうだ。瘴気を貫いて攻撃してもすぐに再生して限りがなく数を減らせない。さらに魔物により殺された者は不死者となり数を増やしていく」


 一つもいいところがないじゃないか。


「どこかのダンジョンから出てきたのですか?」


「いや、そこまでは分かっていない。判明しているのはスパイト王国から来ていることだけだ。また、人語を解する強力な魔物もいるらしい。大丈夫だと思うが、気をつけるように」



◇◇◇



 レティ様といっしょにサウスタウンの街境まで転移する。


 そこでは神聖結界が薄く広く展開されているがその向こう側には不死者が群をなしており、最前列のグールやスケルトンなどが体当たりなどの攻撃を繰り返していた。


「プリン! 無事!?」


 レティ様が神聖結界を展開している『光輝の聖女』プリンさんのそばに駆け寄る。

 彼女はレティ様の後任の聖女だ。



「レティシア様! サウスタウンに不死者の大群が押し寄せていると聞いて急ぎ駆けつけましたわ! しかしこれ以上の侵攻を防ぐので精一杯で…… レティシア様がきて助かります」


「ええ。みんなを守って、神聖結界!」


 レティ様も短い詠唱で神聖結界を展開し、プリンさんの結界に重ねる。


「レイニィスターアロー!」


 少し離れたところで大量の光の矢が雨のごとく降り注ぎ、魔物の足を止める。

 この声は……


「ミストラルさん! ミストラルさんも来ていたんですね」


 ミストラルさんはレティ様と入れ替わりに僕のパーティを抜けて今は聖女プリンさんの補助をしている。

 応援に来てくれたんだ。


「クラウスさん! 必ず来ると思っていました。この場はもう安心ですね」


 なら期待に応えないとね。


「あるべき場所に還れ、ターンアンデッド!」


 不死者の群れの足元から浄化の光が立ち昇り包んでいく。

 魔物を覆っている紫の瘴気が消え、本体も消滅……しなかった。


「そんな…… クラウスさんの魔法でも倒せないなんて……」


 ミストラルさんが信じられないという顔をしている。

 消滅しかかっていた不死者は浄化の光が収まるとすぐに消えかかっていた本体が再生を始め、瘴気を再び纏う。


 恐ろしい耐久力と再生力。

 一度では浄化しきれないか。

 仕方ない。


「あるべき場所に還れ、ターンアンデッド! 瘴気を祓え、ターンアンデッド!」


 上級光魔法を間髪いれず連続で行使する。

 エルフの魔法技術だ。

 

「グゥオァァァァァ……」


 そして、群がっていた魔物は消滅していった。


「さすがクラウスさんですね。魔法の連続発動なんて実用化されていない机上の空論のはずでしたが」


 安心した様子のミストラルさんが呟く。


「クラウス、また魔物が向かってくるわ。私にも出番をちょうだい」


 そういうとレティ様が僕のところに来て僕からMPをもっていく。

 神聖結界の発動に使った分を補充して発動するのは聖女にしか使えない魔法。


「祈りを捧げ、穢れし魂を浄化する、ソウルピュリファイ!」


「ギギャァァァァァ……」


 後からやってくる不死者の群れに今度は空から聖なる光が降りそそぎ、魔物は瘴気もろとも浄化されていった。


「さすが聖女レティシア様だ!」


「引退してもなお神々しい!!」


 プリンさんやミストラルさんが援軍として連れてきていた神官たちが喝采をあげる。



「どうクラウス、見直した!? 婚約してあげてもいいわよ!」 


 ドヤ顔のレティ様。


「レティシア様、そういうところですよ」


 ミストラルさんが呆れた顔をする。


 さすが聖女様。

 一度の魔法で不死者を浄化したのはすごいけど、次発動するには自分のMPを前借りをするか、僕からMPを借りないといけないんだよね。


 

 


「ウオォォォ…… ヴァイスめ…… 裏切りオッテ…… 憎イィィ…… 生気をよこせェェェ!!」


 少し緩んだ空気を斬り裂くようにして現れたのは、大剣を携え血のように赤いマントを翻した首無しの騎士。


「クラウス、怖いよ…… 何なのコイツ……」


 レティ様が恐怖で震えている。

 いや、レティ様だけでなくプリンさんやミストラルさんも真っ青だ。


 こいつは……

 ステータスが見える。

 宰相様が言っていた人語を解する魔物か。


 名前はギンディ。

 種族はデュラハンナイト。

 【上級剣術Ⅳ】【ストロングⅢ】などがある。

 それよりも気になるのはさっき聞こえた裏切りおって、という言葉。


 記憶を覗いてみる。


 スパイト王国での将軍主導のクーデター。

 クーデターの失敗。

 グールパウダー。

 【錬金魔王】ヴァイスの裏切り。


 特にこの【錬金魔王】ヴァイス=レザードってやつがやばいな。

 ティンジェル王国を苦しめてきた『ヴァリアブルケージ』『モンストーラー』『シールドキラー』は全てこいつが作成。


 極め付けは『グールパウダー』。

 この粉を吸引した者は不死系の魔物へと変じ、しかもその強さは通常の魔物よりも遥かに強い。


 どうもこのギンディはスパイト王国軍の副将だったけど、ヴァイスとともに将軍のクーデターを阻止。

 だがその後用済みとしてグールパウダーを吹き付けられデュラハンナイトへ魔物堕ち。

 ヴァイスはグールパウダーの効果を確認し、今までの軍に変わって不死の魔物の軍団を作ることにしたようだ。



 こいつも哀れな犠牲者。

 せめて一瞬で終わらせてやろう。


「光の魔法剣、テトラスラッシュ!」


「グゥゥゥゥ…… スパイトに呪いあれぇぇぇ!」



 ギンディは呪詛の言葉を吐きながら消えていった。




◆◆◆◆◆◆


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