第127話 不浄の王国 1 

side スパイト王国


「歴史は繰り返すのか…… だが私こそは死なんぞ……!」


 スパイト王国の国王ロスルド=スパイトはクーデターの知らせを受けていた。


 かつては自分も同じくクーデターを起こし力で王位を簒奪さんだつ

 前王とその一族、側近らは全て粛清した。

 そして前王も同じ経緯で王位についていたのだ。

 さらにその前も。

 この国は一度たりとも王の血統が続いたことはない。

 天寿を全うできた王はいなかった。

 そして血塗れの歴史のみが積み重ねられていく。

 その度に歴史書は現王に都合よく編纂されており、何が真実なのかを知る者はもはやいない。



 かつてこの国は流刑地であり、罪人たちの怨嗟、執着が染み付いたこの地では農作物の育ちが悪い。

 鉱石などの資源も乏しく採取できてもその品質は粗悪であった。


 当然対策は講じられてきた。


 聖メルティア教国から聖人や聖女を派遣してもらい、国土の浄化を試みたが一向に浄化されることはなかった。

 どころか派遣した聖人や聖女が悉く体調を崩すこととなる。

 やがて教国からは派遣の依頼を断られるようになった。

 慈悲、慈愛を掲げる教国も匙を投げざるを得なかったのだ。



 ほとんどの者は気がつかなかった。

 スパイト王国で王の交代が起こるたびに粛清された者たちの無念、絶望、嘆きがさらに国土の浄化を困難にしていったことを。


 それが『スパイトの呪い』と称され、スパイトを侵略を試みる者たちに災いを振り撒いていたものの正体であった。

 皮肉にもその呪いにより他国からの侵略を防いでいたのだ。



◇◇◇



 そうした状態が建国以来続いているが、幸か不幸かスパイト王国に固有スキル【錬金魔王】を持つ者が誕生した。

 本来であればティンジェル王国でシビルカードを発明したサファイアが有していた【錬金王】のスキルのはずであったが、国土の汚染に影響されて【錬金魔王】となっていたのだ。



 【錬金魔王】をもつ王国貴族のヴァイス=レザード。

 彼はそのスキルにより、魔物を捕獲する『ヴァリアブルケージ』、捕獲した魔物を操る『モンストーラー』を作り出していた。

 これによりスパイトの北に広がる魔の聖域のS級の魔物を捕えることに成功。


 ロスルド王は考えた。


 ティンジェル王国やカイル帝国と比べて貧弱な戦力しか有していない。

 他国に打って出るなど夢のまた夢であったが、この魔道具を使えば……。

 【錬金魔王】が配下にいる自分は幸運だ。

 貧しいこの国には見切りをつけ豊かな国を征服するのだ。



◇◇◇



 ちょうどいい実戦の機会が巡ってきた。

 ティンジェル王国で開催される王国武闘会。

 普段は王都にいる国王がこのときは地方都市メイベルに滞在する。

 使い捨て要員のノトリーにこれらの魔道具をもたせ、S級の魔物を放ち国王ほか居合わせる重鎮を殺害するのだ。

 成功すればよし、失敗しても知らぬフリをしてノトリーに押しつけるだけだ。

 ヴァリアブルケージ、モンストーラーともに作成したヴァイスしか解析できる者はおらず、万が一王国に奪われても対策を取るのは不可能。

 それこそティンジェル王国に昔いた【錬金王】を持つサファイアのような人材がいない限り。


 結局、ノトリーは捕らえられティンジェル国王の殺害は失敗。

 当然ティンジェルからは抗議がくるがノトリーのことは知らぬ存ぜぬで通す。

 どうせ奴らは報復行動をとることはできんのだ。

 『スパイトの呪い』がある限りな。 

 案の定、抗議だけがありそれ以降特にティンジェル王国に動きはなかった。

 


◇◇◇



 しばらくすると、ティンジェル王国へのスパイト人の入国が厳しく制限されることとなった。


 さすがにそのくらいのことはするか。

 侵入して内側から攻撃することは少し難しくなった。

 となると外から攻撃するしかない。


 そこで目をつけたのは魔の聖域。

 最北には魔界と繋がるアビスゲートがある。

 アビスゲートは固く封印されているが、ちょうどヴァイスが結界や封印を切り裂く『シールドキラー』を開発していた。

 やはり私は幸運だ。



 魔法兵に『シールドキラー』を持たせてアビスゲートに向かわせる。

 途中には強力な魔物が跋扈しているがヴァリアブルケージにより捕獲していくから問題ない。

 アビスゲートに近づくのにあたって辺境軍は邪魔だ。

 そのためティンジェル王国と魔の聖域が接する辺境の地サランディアにて捕らえた魔物を大量に解放してスピネル率いる辺境軍の壊滅を目論んだ。

 辺境軍が壊滅すれば解放したアビスゲートから出てくる魔物が一番近くのティンジェル王国へ向かいやすくなるであろう。


 しかし、向かわせた兵は帰ってこず、持たせたシールドキラーも戻ってこなかった。

 後から調べさせたが、シールドキラーではさすがにアビスゲートの封印を解くことはできなかったようだ。

 報告ではアビスゲートのそばに封じられていた魔界の魔物の封印は解かれていたようだ。


 その割に辺境軍が壊滅したという話は聞かない。

 まさか、大量のS級魔物や魔界の魔物を辺境軍が撃退したというのか?

 噂では正体不明の『神の御子』が現れて魔を退け全てを癒したという。


 バカバカしい。


 そんな者がいるなら我が国の呪いを祓ってほしいものだ。





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