第126話 ワースト侯爵の屋敷 3
「パワーバランスの件ですが、ワースト侯爵様に陛下から伝言をお預かりしております」
「聴こう。だが、陛下に重用されすぎではないか? 叙任も第三王女の婚約者の件も唐突であったし……」
一言多い侯爵様だ。
曲がりなりにも陛下の言葉を聞くのだから余計な一言はいらないだろうに。
「あらお父様、非公式とはいえ陛下のお言葉ですわ。謹んで聴くべきでは?」
イザベラ様が代わりに言ってくれた。
「すまんな。して陛下は何とおっしゃられたのか?」
「『クラウスは中立である。ゆえに舵取りを誤らぬようにな。スタン侯爵も同じ認識である』とのことです」
「なんとお主それほどに強いのか。アビスゲートの魔物を倒せるくらいに強いとは聞いているが」
「お父様、彼は力を隠しています。正確には抑えこんでいますね。クラウスさん、武に疎いお父様のために力を少し解放していただけませんか?」
「この場所でいいんですか?」
「構わなくてよ。責任は問いません。その前にグングニルを渡していただこうかしら」
「はい」
僕はホークスさんに渡そうとするが、イザベラさんはそれを制し直接僕から受け取った。
「お父様、私の後ろにいてください。守って差し上げます」
ワースト侯爵は黙ってイザベラ様の後ろに立った。
親子の力関係が垣間見えた気がしたが黙っておこう。
それとメイヤーさんには遠く離れてもらう。
「それではいきますよ」
僕は少しずつ抑えている魔力を放ち始める。
遠ざけたテーブルの上のティーカップがカタカタと音を立てて揺れる。
ホークスさんがこちらに険しい顔を向けてくる。
イザベラさんはグングニルを持ったまま涼しい顔だ。
今度はテーブルがガタガタと揺れ始めた。
ちなみに給仕係のメイドさんたちも遠くに避難させられている。
「む……」
さらにホークスさんの顔が険しくなる。
しばらくして綺麗に揃えられている花壇の花がパンっと弾け始めた。
魔力の奔流に逆らえなかったのだ。
「心地よい緊張感ですわ」
イザベラ様が呟くが、ホークスさんは膝をつきそうになっている。
「このへんでよいですか?」
「もう少し出力を上げてくださる?」
「わかりました」
そしてテーブルがガタン、と倒れた。
魔力が吹き荒れるが、見えるわけではないので他人からすれば圧が感じられるというものだろうか。
僕はさらに魔力の抑えを緩めていく。
「ぐっ……」
イザベラ様がグングニルを構えた。
「空翔壁!」
たまらずイザベラ様が防御用の【中級槍技】を発動する。
槍を一振るいして前面に空気の壁を作り出す技だ。
「えっと、ここまでにしておきましょう」
そして僕は垂れ流しの魔力を自分の外に出ないように再び自分の中で循環させ始めた。
嵐が止んだ、とクラウス以外は感じていた。
◇◇◇
「お父様、これで彼の実力がおわかりかと」
ワースト侯爵は全身に冷や汗をかいていた。
「そうだな、これほどの圧を感じたことはないな。イザベラが遮ってなおこれほどの圧とは。クラウスよ、先ほどのは全力か?」
「いえ、4割といったところです」
「この技術を修得する方法はあるのかしら?」
「魔力の操作に長けていないと無理だと思います。『ロックドライブラリー』のボスですらできていませんでしたから」
エルフの中でも優秀だったヴェルーガでさえこの方法に気づいて実際に修得するのに数百年かかったのだから、人間には無理な気がする。
「陛下もとんでもない者を手懐けたものだ。『このワースト、陛下の忠告しかと承った』と伝えてほしい」
「わかりました」
「聖女様、大丈夫ですか? 顔色が悪いですよ? 少しお休みになられますか?」
「だ、大丈夫よ! クラウスのダンジョン攻略についていってるんだからこれくらい平気なのよ!」
イザベラ様の配慮に対して強がったレティ様だったけど、みんなそれ以上何も言わなかった。
一応レティ様にはあまり魔力が向かないように配慮はしていたんだけど、やはり影響は受けてしまったのだろう。
それと、いつの間にやらワースト侯爵のステータスが見えなくなっていた。
好意を持たれているとは考えにくいから悪意から中立になったのかもしれない。
◇◇◇
僕が実力を見せた後、再度テーブルなどが設置されお茶会が再開された。
「イザベラよ、本当に黒騎士はやめるのだな?」
「ええお父様。クラウスがいますから安心して後進に席を譲ることができますわ。長らくご心配をおかけしました」
ワースト侯爵がイザベラ様に再度確認していた。
「ホークスも、これまでイザベラの守護ご苦労であった」
「旦那様、もったいなきお言葉でございます」
「そしてクラウスよ、あらためて礼を言おう。我が娘の命を救ってくれたことを感謝する。さすがに家宝のグングニルは渡すことはできぬが、この『パミラの秘薬』をそなたに譲る。もちろん派閥とは関係なく純粋に感謝の品と考えてほしい」
「はい、ありがたく頂戴いたします」
「『パミラの秘薬』はな、スキルのレベルを上昇させることができるレアアイテムだ。冒険者であれば
「あらお父様、いつの間にこんな物を……」
「私とて人の親。子を案ずるのに手を尽くすのは当然だ。反王族派の筆頭としてよく思われていないのはわかっておるが、血も涙もないわけではないぞ」
◇◇◇
ちゃんと神器を返して、貴重なお礼の品も受け取ってワースト侯爵邸を辞してきた。
馬車で自分の家に帰ってきてからレティ様といっしょにスタン侯爵様のところに転移して、ワースト侯爵邸での話をしておく。
「ふむ…… ワースト侯爵のステータスが見えなくなったか。あれでも反王族派の筆頭。しばらくは問題ないかな」
「そうだといいですね」
これで一息ついた。
もう今日は休みにしようかな。
が、そんな休息を許してもらえることはなくエリアからテレプレートで連絡が入る。
(クラウス、サウスタウンが
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