◾️閑話 ロイヤルファミリー
叙任式で事もなげに陛下が発表したエリアの婚約者発表。
「ティンジェル王国第三王女、エリアリア=ティンジェルの婚約者第一候補者として、クラウス=オルランドを選定する。以上」
僕が分かっていたのはエリアがそれなりに家格の高い貴族の御令嬢であろうこと、エリアの父上は軍の要職についていること。
王国武闘会テロ事件のあとエリアに招かれ陛下とお会いした時に思っていたことだ。
でなければ僕が拠点を王都に移したと同時にエリアが異動するなどあるわけがない。
ギルドは実質的に軍の下部組織だから。
エリアが何も明言しない以上僕は特に尋ねたりはしなかった。
貴族には貴族の考えがあるのだろう、と。
蓋を開けるとエリアは第三王女殿下で、父上は国王陛下だった。
予想より遥か上の地位の御方だったわけだけども、あまり抵抗がなかったのはスタン侯爵様との繋がりがあって多少は貴族というものと関わりがあったからだろう。
◇◇◇
貴族というのは平民からすると遠い存在だ。
目に見えて分かりやすい違いはシビルカードの色だけど(平民は黒、貴族は白)、住むところも違うし直接関わる機会はあまりない。
冒険者ギルドも含め、商人ギルドや錬金術ギルドの本部幹部クラスであれば別かもしれないけど……。
貴族というのは平民とは違う視点を持っているんだろうな、と思っている。
そんな貴族の仲間入りした僕だが、伯爵位を授かっている。
ウォーレンさんとサレンさんが調べたところによると、王族の婚約者となるには最低でも伯爵位かその直系であることが求められるらしい。
明文があるわけではないが、暗黙のうちにそれくらいの地位は必要ということのようだ。
身分違いの恋、というのは物語としてはウケがいいけど現実としては生きてきた価値観が違いすぎて上手くいかないことがほとんどだ。
王子が見そめた平民の娘は王子の重責を分かち合うことに耐えられない。
王女と懇意になった平民の騎士は王女の生活レベルを維持できない。
双方にとって高い壁が聳え立つのだ。
◇◇◇
「うう、緊張するなあ……」
「大丈夫よクラウス、身内だからそこまで形式的な儀礼を求めるわけじゃないし、人としての礼節を持っていればいいのよ」
エリアの婚約者候補となった僕は、王城に呼ばれていた。
エリアの親族と顔合わせ、ということだ。
めちゃくちゃ緊張するんだけど。
エリアにエスコートされるまま、王族専用の部屋に入る。
そこには、陛下のほかやんごとなき方々が揃っていらっしゃった。
部屋に入るなりすぐ僕は片膝をつき頭を垂れる。
「クロスロード国王陛下、クラウス=オルランドお招きに預かり参上いたしました」
「……ふむ、楽にして良いぞ。ここには身内しかおらぬゆえ」
「はっ」
そして、エリアの口から他の方の紹介が行われる。
「お父上の隣にいるのが母上のクローディア王妃、そして父上の兄君のカーネル様、王太子のロジャー兄様、クーラ姉様よ」
陛下はニ男三女がいらっしゃる。
第二王子殿下は公務、第一王女殿下は既に嫁がれておりいらっしゃらないとのことだ。
武人然としたカーネル様はこちらを睥睨する。
服の上からでも筋肉がわかるほどの偉丈夫だ。
「お前がオルランド伯か。叙任式でも見たがいささか威厳に欠けるな。ちゃんと飯を食ってんのか?」
「カーネル大将軍であらせられますね。『王都の守護者』の勇名はお伺いしております」
「ほう…… 俺の【威圧】を受けても微動だにせんとは。まずは合格といったところか」
陛下の実兄にして軍の総大将たるカーネル殿下は本人が自ら前線に立つ軍人であり、軍から圧倒的な人望を集めている。
圧をかけられているのはわかったが、ヴェルーガの経験を持っている僕からすればそよ風にもならない。
「伯父様、これは軍の入隊試験ではないのですわ。【威圧】などなさらないで下さいませ」
「すまんなエリア。つい癖でな。力なきものにそもそも民はついてこぬ。武力か知略かはともかくな。精進しろよ」
「はい」
「あなたが史上最年少でS級冒険者となったクラウスね。エリア、この時のために婚約者を定めなかったの?」
続けてクローディア王妃様のお言葉だ。
金髪がふわふわしたお上品なご婦人。
「結果としてそういうことになりましたわね、お母様」
「この歳になってもまだ婚約者を決めないからいき遅れるかと思ってハラハラしていたわ。たとえそれがスキルによるものでもね」
「母上、まだ婚約者候補なのですよ! この者に明かすわけにいきますまい」
ロジャー王太子殿下が慌てるように咎めるが……
「ロジャー、人の話に割り込むものではありません。そのような躾をした覚えはないのだけれど」
「申し訳ありませぬ、母上」
あらためて王太子殿下はこちらを向く。
爽やかな短髪で、もし街ですれ違えば十人中十人の女性が目を奪われるであろう眉目秀麗ぶり。
「君がクラウス=オルランド伯か。私はロジャー=ティンジェルだ。オルランドの名はな、『戦神』とまで讃えられた勇猛果敢で知られた一族のものだったのだ。既に途絶えてしまっているがな。君がその名を背負えるか見定めさせてもらう」
「その名に恥じぬよう努めてまいります」
そう応える僕を見る殿下の目つきは鋭い鷹のごとしだ。
「クラウス、あまり気張るなよ。ロジャーはかつて冒険者に憧れておってな、クラウスが羨ましいのだよ」
「伯父上、昔の話です!!」
カーネル殿下が王太子殿下をからかっている。
王太子殿下は冒険者になりたかったのか……。
「んん、冒険者を志そうと思ったことは確かだ。クラウスよ、行き詰まったら私を頼るのだ。『永遠の回廊』に関する一般にない蔵書も個人的に有しておるゆえな」
「ありがとうございます!!」
うん、いい王太子殿下だ。
僕の隣でエリアが苦笑していたが、気にしてはいけない。
「男の子はいつまでも変わらないものねえ……。私はクーラ=ティンジェルよ。もうすぐ名前は変わっちゃうけどね。エリアのことよろしくね」
「はっ、命に代えましても」
いささか大袈裟かもしれないが、本音だ。
第二王女殿下は近々公爵家へと嫁がれるらしい。
◇◇◇
一通り自己紹介が終わったあとは、優雅な軽食会だ。
男性陣はときどき過去にあった事例を出してきてお前ならどうする、みたいなことを聞いてくるので僕は考えたことを答える。
女性陣はエリアの幼少時のエピソードを話してくれたり、僕の話を聞いたりしてきた。
食事を交えると本音が出やすくなるものらしい。
硬軟織り交ぜて設定されたこの場は、さすがに貴族の慎重さが伺われる。
とりあえず乗り切ったが、これから毎月一度は顔合わせをするという。
僕には貴族としての積み重ねがないから多分時間かかるんだろうな。
もし僕が貴族の家に生まれていれば省略されていたはずの時間だ。
なお、全員のステータスは見えなかった。
僕のスキルは知られているはずだから当然か。
まだしばらくは婚約者に相応しいかどうかの確認が続くのだろう。
今はまだ婚約者の候補。
そういえば聞いてなかったな。
「エリア、僕以外に婚約者の候補はいるの?」
「いないわよ。過去にもいなかったし、そしてこれからもね。申し込みはあるのだけれど全てお断りしているわ」
それはよかった。
伯爵位は持っているけど、財力や家の歴史では他の貴族には勝てないからね。
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