第88話 交易路確保の準備
「ほう、確かにここはサランディアの前線基地。これはなかなかに便利ではないか」
「さようでございましょう、陛下。クラウスがいればカイル帝国も怖くありますまい」
「スタンおじ様、戦争にならないようにお願いしますね」
僕は辺境の地サランディアの前線基地に陛下、エリア、スタン侯爵様をゲートで連れてきていた。
これから僕はここである作業をするのだが、それをこの目で確かめたいといってついてきたのだ。
僕の【時空魔法】をみて全く動じずにさも当然のようにゲートをくぐったのは、さすが王様だと思う。
そこへスピネルさんがやってくる。
「陛下。此度は辺境の地への労い、誠に感謝申し上げます」
「よい。王国の安全はお主達により代々確保されてきたといってもよいのだからな」
「もったいないお言葉にございます」
「ふむ。では、案内せよ」
「はっ」
そして予定の場所に向かう。
向かう場所は魔の聖域を挟んで王国とカイル帝国の最短ルートと思われる地点だ。
奇しくも僕がスピネルさんを助けた場所だった。
僕が木々を薙ぎ倒した場所は綺麗に整地されていた。
スタン侯爵様がスピネルさんに尋ねる。
「この辺りのみ整地されているのはなぜだ?」
「はっ、クラウス殿が魔物大量発生の際に【中級風魔法】にてS級の魔物どもを一蹴した跡地を整地いたしました」
「……なるほど。ではクラウスよ、始めてくれ」
「はい。『防御結界』! みなさん、念のためそこに結界を張りましたので動かないようにお願いします。……では、グランドシェイカー、ウインドカッター、ディメンジョンボックス、ファイアボール、コールグラウンド」
中級の地魔法を使って地面を揺らし、木の根ごと地面を掘り起こす。
巻き込まれて倒された大量の魔物の魔石とドロップアイテムが僕のディメンジョンボックスに次々と集まってくる。
さらに、放たれる薄緑の鋭い風の刃で、掘り起こした木々を切り払う。
ウインドカッターで切り出し、特に使い道のない根っこ以外は木材として後で使うためディメンジョンボックスに回収していく。
残った根っこはファイアボールで焼いて灰にしていく。
最後に、グランドシェイカーでぐちゃぐちゃになった地面をコールグラウンドで固くしておく。
ディメンジョンボックス以外は、【MPバースト】をつけて発動範囲を無理矢理拡大し、15メートルほどの道幅を確保している。
「「「「…………」」」」
「どこまでできたか見てきますね」
僕は浮遊魔法で空へ舞い上がり魔の聖域を見下ろしてみる。
だいたい3/5くらいは進んだと思う。
「次は、『対魔結界』!」
薙ぎ払った土地を囲うように、魔物が入れない薄青く透明な結界を張る。
そして仕上げは、
「ストーンブレイク!」
地面に3メートルほどの穴をあけ、その中に結界維持の魔道具を置いてくる。
この結界維持の魔道具こそが一番苦労した点だ。
◇◇◇
対魔結界を展開するだけなら簡単だ。
しかし、それを長期間維持する方法がない。
まさか定期的に結界を張り直すわけにもいかない。
【時空魔法】のエキスパートであるクラウディアさんに聞くと、強力な魔物の魔石を使って結界維持の媒体を作ればいいとのことだった。
「この魔石でいいですかね?」
「うん、これは……魔界の魔物の魔石?」
「はい」
「ということはアビスゲートが開いたの?」
「開きかけていましたが、再度封印しました」
「……そうなのね。アビスゲートは、かつて【魔王】のスキルを持った者がこの世を地獄に変えようと魔界とこの世界を繋ぐために作ったもの。【魔王】と魔界の者が手を組み作り出したアビスゲートは、【結界師】と【勇者】と【英雄】により固く封印されたの。その後、【勇者】と【英雄】は【魔王】を倒したけど、【魔王】が倒れる際に【魔王】スキルの全てを使って、【勇者】【英雄】のスキルを道連れに破壊したわ。だから今これらのスキルは存在しない」
「そんなことがあったんですね……」
「アビスゲートが開けば、この世の危機。ユグドラシルもこの時だけは領域を拡大し、エルフと人間が協力して魔界の魔物を倒さなければならない。でも今回はすぐに再封印されたから、ユグドラシルに反応がなかったのね」
「ユグドラシルは枯れかけていたんじゃなかったんですか?」
「あれはヴェルーガの破壊に伴う一時的なものだったわ。いまは正常に機能している。そういえばユグドラシルから落とし物があったからあげるわ。世界樹の葉よ。持っていれば一度だけ死を免れるわ」
「ありがとうございます」
というわけで、アビスデーモンの魔石で【上級錬金術】を使って結界維持の媒体となる魔道具を作成したのだ。
クラウディアさんによると、元の魔力が強い上、魔の聖域の豊富な魔力を取り込む性質があるため、これでおそらく数百年は結界が保つだろうとのことだった。
これが魔の聖域の特性を逆手に取ろうと思った理由だ。
◇◇◇
これで今回の作業は終わりだ。
「陛下、本日の作業はこれにて終了でございます」
僕が国王陛下に終わりを告げるが、少し反応が遅い。
ややあって、返事が返ってきた。
「おお、ご苦労であった。あとは少しの間この区間の様子見であるな。ところで、【浮遊】のスキルは他人にも作用するのか?」
「はい。よろしければお試しなさいますか?」
「ふむ。他の者はどうだ?」
スタン侯爵様とスピネルさんは希望したが、エリアは首を横に振った。
(エリア、遠慮しなくてもいいんだよ)
(スカートなのよ。また後日お願いするわ)
……そうか。
そりゃ仕方がない。
「……では御三方、よろしいですか。『フロート』!」
僕を含めた4人が地面から少し離れる。
そして、少しずつ高度を上げていく。
「魔の聖域とはこのようになっているのか!」
スタン侯爵様が少しはしゃぎ気味だ。
初めて僕が浮いた時もそんな感じだったなあ。
北に行くに従って緑が少しずつ濃くなっている。
北端から向こうは魔物の暴れ狂う海だ。
反対に南に行くと少しずつ緑が薄くなっていく。
南端はスパイト王国に接することになる。
やがて降りてきた僕たち。
「ふむ……。貴重な体験であった。後ほどいくつか依頼を出すゆえ、受注するのだ」
「わかりました」
この後、前線基地でもてなしを受けて夕方には陛下達を連れてゲートで王都へ帰った。
◆◆◆◆◆◆
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