第124話 ワースト侯爵の屋敷 1 

「覚悟せい! 真龍拳!」



 固有スキル【ドラゴングローリー】により繰り出される必殺の拳。

 中段正拳突きなんだけど、彼女から発せられるオーラが乗っていてそのオーラだけでも岩を砕けそうなほどだ。

 極めたる技術はシンプルなものに落ち着くのが世の理なのかもしれない。



 それに対抗するのはディアス流剣術の奥義、『屠龍夢斬とりゅうゆめきり』。

 対ドラゴンを想定した奥義だ。

 また他にもディアス流剣術は対悪魔や対巨人など様々な相手を想定した奥義がある。

 創始者は一体何と戦っていたのか、興味は尽きない。

 


 神器レーヴァテインを構え、剣身が白く光る。


「人の身にて龍を討つは儚き夢。されど大願はここに成就せり! 屠龍夢斬とりゅうゆめきり!」



 突進してくる桃色ドラゴンの拳の軌跡を見切り、躱しながら紙一重の距離で横一文字の斬撃を放つ。

 すれ違いざまに拳にまとわれているオーラによるダメージを受けるが、これは想定の範囲内だ。



 『屠龍夢斬』は、いわゆるカウンター技。

 人間では到底太刀打ちできないパワーを持つ龍系に対してディアス流剣術の答えは、そのパワーを利用すればいい、だった。

 カウンター技なのでタイミングを間違えたら自分が大ダメージを受けるんだけどね。

 詠唱、というか技の前口上はなくてもいいんだけど、あったら成功率が上がるようだ。



「極限の一撃、見事であった。私から得られる『鍵』を持っていくとよい。……さらば」


 よかったねマスタング、誉められてるよ。

 僕はこの奥義を試してみたかっただけで失敗してもまあいいかぐらいにしか思ってなかった。

 自力でこれを修得したマスタングの才能はとんでもないな。

 というか素晴らしいスキルや才能ほどろくでなしに与えられるのは何でだろうね。



◇◇◇



 桃色ドラゴンが光の粒子となって消えていったあと残ったのは桃色の鍵と大きな魔石。


「クラウス、何が起きたの? あの龍煌姫とすれ違ったあと勝手に消えていったんだけど……」


「相手の力を利用するカウンター技で倒しました。一撃で倒せるということはあの突進はかなりの威力があったみたいですね。余波による衝撃はありませんでしたか?」


「ええ、ちょっと凄い風、というか圧が飛んできた気はしたけど……」


 戦いに慣れていない人の感想なんてそんなものだろう。

 その余波で大ダメージを受けないように結界を展開しているんだけどね。


「あらクラウス、少しダメージを受けているみたいね。邪悪なる傷を癒せ、『スターライトヒール!』」


 僕の体が優しい光に包まれる。

 ああ何か気持ちいいな、と思ったらMPも少し回復していた。

 さすが聖女様。

 ただの回復魔法にも追加効果があるのか。



「ありがとうございます、レティ様。さあ帰りましょうか」


「あのドラゴンどれぐらい強かったのかわからなかったんだけど……」


「そうですね、僕の0.5人前といったところでしょうか」


「よくわからないわ」


「ま、まあ、帰りましょう。カイ様に武器を返さなきゃいけませんし」



◇◇◇



「おお、久しぶりにご主人様を乗せることができましたぜ!」


 御者がうれしそうにしている。


 僕は今馬車の中にメイヤーさん、レティ様といっしょにいる。

 カイ様に神器グングニルを返しに行くためだ。

 僕の移動は専ら転移なので馬車はほとんど使っていない。

 

 月一回エリアに会うために王城に登城する時も馬車は使っていない。

 本来なら入場者のチェックが必要だが、僕相手だと意味がないからだ。

 いろんな意味で。



 そして今回行く先は普通の貴族様のところなので事前に連絡もしているし、移動手段は転移じゃなくて馬車だ。

 転移で慣れている身としてはもどかしくてしょうがない。



◇◇◇



「ようこそおいで下さいました、オルランド伯、聖女様」


「…………」


 お出迎えに来てくれた2人の男。

 片方は恭しく礼をするホークスさん。

 『ドラゴンバスター』の斥候役だが、ここではどうやら執事らしい。


 隣に仏頂面して立っているのは、屋敷の主。


「ふん、うちの娘を死の淵から救ったそうだな。礼は言わせてもらうぞ。我が娘たっての希望ゆえに迎え入れているのだ。勘違いするでない」


(なぜだか鑑定の宝珠が砕け散ったこの小僧。忌々しいスタンの子飼い。しかし愛娘を救った者を無下にもできぬ。ぬぅぅぅ……)


 お屋敷の主は、ワースト=ノワール侯爵。

 僕が伯爵に任ぜられた叙任式で僕に鑑定の宝珠を向けて粉々に壊れたので陛下に叱責され、そのあとのパーティには出られなかったので挨拶とかしていない。


「これは主自らのお出迎え痛み入ります。クラウス=オルランドでございます。この度はお招きいただき光栄の至り。宮廷政治にはうとく此度はしがらみもなくお話しできるかと存じます」


「……ふん」



◇◇◇



 ワースト侯爵は反王族派の筆頭。

 対立する王族派のスタン侯爵様とは犬猿の仲だ。

 なので僕は目の敵にされている。

 

 叙任式では、ぽっと出の僕を敵情視察しようとして失敗した。

 実はその後も僕の屋敷に何人か忍び込ませようとしてことごとく失敗している。

 屋敷の使用人として潜り込ませても僕が必ず面通しをするのでその時点でバレる。

 実力で忍び込んだ者は僕の探知結界に引っかかり、結界に仕込んである眠りの魔法『ウンディーネスリーブ』で必ず眠りこけることに。

 無事に返すつもりはないのでディストーションで吸い込み、王族派の有する施設へ放り込む。

 最初はディストーションで吸い込んで魔の聖域深部に吐き出していたのだが、スタン侯爵様から使える人間ならなるべくスカウトをしたいという要望があったので施設に放り込むことになった。

 

 そんなこんなで流石に反王族派も人材がいなくなったのか最近はほとんど来なくなった。

 たまに壊滅した闇ギルドの生き残りが復讐に来るくらいか。



 何となく気まずい感じがするが、主自ら出迎えてくれるくらいの礼儀があるみたいだ。

 それでもさっきみたいな葛藤があったみたいだけれども。



◆◆◆◆◆◆


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