第123話 龍煌姫

 竜の箱庭の55階層あたりから、ドラゴンキングが出現し始める。

 一応地水火風のブレスを使い分けられる上位種のドラゴンだが特に問題ない。

 唯一レティ様に相手の攻撃の余波が来ると困るので、物理防御、魔法防御結界を常時レティ様に展開している。



 僕が。



 レティ様が『そんなに手厚く守ってくれてうれしい❤️』、とか言ってたがそうではなくて、仮にも元聖女なのでレティ様に何かあるとせっかく和睦した聖メルティア教国との関係が悪くなりそうだからだ。


 じゃあ連れてこなければいいじゃん、という話だがミストラルさんから世話を頼まれているので断れなかった。

 一応何かあっても自己責任で僕の責を問わないとは言ってくれてるが。



◇◇◇



 角の生え方が王冠みたいに見えるドラゴンキングの分厚い首をただの剣閃で斬って落としていく。

 ディアス流剣術なら力を込めて剣を薙いで放つただの剣閃でも必殺の技となる。

 範囲は狭いが飛距離もそこそこ。

 魔法ほどは射程がないけれど。


 せっかくマスタングからもらったディアス流剣術だ。

 使い慣れておかないともったいない。



◇◇◇



 そうして到達した最奥の70階。


 ドラゴンにしては小柄な桃色の龍が待っていた。


「永遠の回廊へ挑戦する者か?」


 人語を喋る龍。

 ロックドライブラリーのボスも一応喋っていたからあまり違和感はなかった。


 どうしようか。

 確かカイさんが『はい』と答えてやられたんだよな。

 かたき討ち、というわけではないが挑んでみよう。


「永遠の回廊に挑戦します」


「ならば私の試練を受けよ。弱き者、まかりならぬぞ」


 そういってドラゴンが徐々に人型に変身していく。

 数瞬後には桃色の鱗に覆われた女性の人型が現れる。


 そしてステータスが見える。

 ロックドライブラリーの時はダンジョンの制限のせいで七曜の魔女のステータスは見えなかったんだけど。


 固有スキルは【ドラゴングローリー】。

 種族独自の竜魔法を使用可。

 汎用スキルには……

【全技能マスター】【ムーンⅤ】【全属性強化】【フォースレジストⅤ】【エレメントレジストⅤ】などなど。

 ステータス強化系も軒並み最高レベルだ。

 ちょっと変わったやつだと【人化】【自己再生】がある。



 それと種族特性として【竜鱗】がある。

 物理、魔法ダメージ大幅軽減で、この特性に対抗するのが【ドラゴンスレイヤー】だ。

 また、体術のみ強化するという性能もある。

 ちなみに自分を見てみたところ、人間には種族特性が特にないようだ。


 



 桃色ドラゴンのステータスは大体4000前後といったところ。

 軽くS級のステータスの3倍近くある。

 しかも汎用スキルの【自己再生】。

 これは受けたダメージの50%を即座に回復して、3分ごとに残り10%ずつ回復していくという壊れスキルだ。

 長期戦は絶対無理で、超火力で畳み掛けなければならない。


 これではカイさんがS級だろうと無理だろう。

 グングニルの竜族特攻が効かなかったと言っていたが、そうではなくてステータスが高すぎて特攻があっても効果的なダメージが与えられなかったということだろう。

 

 パーティの人数を増やしたところでそもそもステータス差がありすぎる。


 そして、桃色ドラゴンの手には槍が握られている。

 その槍にはどこか見覚えがある。

 そう、王国武闘会テロ事件の時だ。

 あれは、確かカイさんが持ってたはず……。



 僕がじっと槍を凝視していることに気がついた桃色ドラゴンが口を開く。


「どうした、人間。そんなにこの槍が気になるか?」


「それをどこで手に入れたのですか?」


「少し前に我に挑んできた人間が持っていてな。捕獲したのだよ。まさか取り返しにきたのか? やめておけ。我の本領は拳。槍をわざわざ使うのは我の情けだよ。様子見ともいうがの」


「それはどうも。別に取り返しに来たわけではないんですが、いらないなら返してもらってもいいですか?」


「できるものならな」


「じゃあ」


 僕はいったんレーヴァテインをディメンジョンボックスに収納する。


「? どういうつもりじゃお主? 我と拳で戦うつもりか?」




 僕は黙って武器の【交換】を行う。

 次の瞬間、槍が僕の手に収まっていた。


「……ほう。稀なスキルを持っておるようだな。何をされたか全くわからなかったぞ。だが、悪手だな。せっかくのハンデを手放すとは。後悔するぞ」


「しませんよ。にしてもよく喋りますね。七曜の魔女はほとんど喋らなかったのに」


「他のダンジョンのことは分からぬよ。我らはここから出られない呪いをかけられておるでな」


「それはいったい…… ! レティ様離れて!」


 もう話はする気はないとばかりに桃色ドラゴンがこちらに向かって殴りかかってくる。



 とっさにレーヴァテインを出して右ストレートを受け止める。

 さすがにちょっと痺れを感じる。

 

 それでも、本来の威力よりは低いはずだ。

 わずかな間の会話だったが必要な【交換】は全て終えてある。


スキル

【全技能マスター】(←【剣術マスター】)

【全属性強化】(←【上級体術Ⅰ】)

【自己再生】(←【中級盾術Ⅳ】)

【クイックⅤ】(←【クイックⅢ】)

【コンプレクスⅤ】(←【コンプレクスⅡ】)


スキル統合

【オールマイティ】

(【ストロングⅤ】【バイタルⅤ】【クイックⅤ】【コンプレクスⅤ】【クレバーⅤ】【メンタルⅤ】は消滅)



 めぼしいのはこのあたりかな。

 ちょうど僕に足りなかったクイックとコンプレクスの最上位スキルを持っていたからそれでステータス上昇系は全て最高になった。

 と同時に統合できるようになったので迷わず統合し、【オールマイティ】(全ステータス+50%)となった。

 神器レーヴァテインも同じ効果だが重複するのはいい感じだ。





「ほう。口だけではないか。妾の拳を防ぐとは。だがまだ序の口だ。マッハ・ラッシュパンチ! オラオラオラオラァッ!」


 いつだったかワーズワースさんが放ったマッハパンチをさらに強化した拳が流星のごとく飛んでくる。



 一撃でも喰らえば武器が消し飛びそうな勢いなパンチのラッシュだが、果たして本人自身はその威力に耐えられるのか。


「反射結界!」


 

 僕の前に薄く青い結界が展開され、マッハ・ラッシュパンチの衝撃が桃色ドラゴンに跳ね返る。

 だが、跳ね返ってくる衝撃に対して桃色ドラゴンは正確にマッハ・ラッシュパンチを当ててきれいに相殺していた。


「うむ…… なかなかのスキル。よほどの研鑽を積んだと見える。それでは本気で行くか。覚悟せい! 真龍拳!」


 




◆◆◆◆◆◆


 いつもお読みいただきありがとうございます!


 【オールマイティ】は第100話でドレミィが夢の中で有していたスキルです。

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