第122話 竜の箱庭 

 S級ダンジョン『竜の箱庭』の入り口で僕たちが見たのは、半壊したパーティと死にかけている黒騎士カイさん。


「頼む! 早く回復しないとカイ様が…… そうなると私はお館様に顔向けができん……」


「わかりました、セレスティアルヒール!」

 

 とりあえず範囲全快魔法で回復させる。

 カイさんの右肩から先の欠損がみるみるうちに治り、パーティメンバー全員もきっちり回復させる。


「う、うう…… ここは? 私は生きてるのか……?」


 程なくして意識を取り戻したカイさん。

 トレードマークの黒いフルフェイスの全身鎧はあちこち砕かれていて、胸部も見えているがサラシが見えた。


「クラウスぅ、黒騎士カイ様って、女……?」


「そうみたいですけど……」


「えーそんなぁー! 憧れの黒騎士様が女だったなんてぇ!」


「はあ……」


 ちょっと呆れる僕を見て、先程助けを求めた人が複雑な顔を見せて告げてくる。


「この度は助けていただき感謝する。申し遅れた、私めはカイ様のパーティ『ドラゴンバスター』の斥候役、ホークス=レンジャーと申す。これほどの回復魔法、クラウス=オルランド伯爵殿とお見受けいたします」


「ええ、クラウスよ!」


 なぜかレティ様が自慢げに僕に代わって返事している。


「失礼ながら、そちらのお嬢様はレティシア様でいらっしゃいますか?」


「そうよ! 私この国でも有名なのね!」


「ええ、クラウス殿のパーティメンバーに教国の前聖女様、『結界の聖女』が加わったことはいささか衝撃的でしたからな。自由奔放な方とは存じませんでしたが……」


 僕もそう思うよ。


 そして、黒騎士が立ち上がり僕に話しかけてくる。


「貴殿がS級で準男爵から伯爵に陞爵したクラウス殿なのだな。武闘会でのテロ事件で力を見せた少年に救われるとはな、感謝する」


「いえ、どういたしまして。あの差し支えなければ、どうして治療が必要な状態になっていたのか教えていただいてもよろしいでしょうか? それと、カイ様は見たところ武器がないようですが」


「命の恩人の問いであるからな、お答えしよう。この『竜の箱庭』のボスの問いに対して永遠の回廊に挑む、と回答して対峙したのだが、力及ばず敗北したのだ。右腕を吹き飛ばされた際に神器グングニルも吹き飛ばされ、やむを得ず帰還石で戻ってきたのだ」


「なるほど……。ボスはなんだったんですか?」


龍煌姫りゅうこうきだ。永遠の回廊に挑まない場合はドラゴンの形態なのだが、今回は人型に変化してな、ドラゴンの形態よりも遥かに強力で太刀打ちできなかったのだ。回復アイテムを使い果たしてしまった」


「S級でも勝てないくらい強いんですね」


「ああ、強かった。グングニルは竜族特攻がありドラゴン形態なら勝てるのだが」


「分かりました。ありがとうございます。参考にさせていただきますね」


「まだこれで恩は返したと思ってはいない。また、いずれな」


「ええ」


 5人を見送るさい、ホークスさんが最後去る前に、


「申し訳ないが、カイ様の性別については極秘で頼みたい。それも報酬に重ねるゆえ」


「私にも秘密がありますので、それは大丈夫と思っていただければ」


「かたじけない」



◇◇◇



 今度こそカイさんたちを見送り、僕らは『竜の箱庭』に挑む。


 一階からいきなりワイバーン。

 しかも炎に特化した赤い表皮を持つフレアワイバーンだ。


 ここで試すのは、


「氷晶閃!」


 マスタングから交換した『ディアス流剣術』で使えるようになった技を披露する。

 横一文字に振るった剣から水属性の三日月形の剣閃がフレアワイバーンに飛んでいき、そのままワイバーンを真っ二つに斬り裂いた。


 このディアス流剣術は極めるとセイバー系の魔法を使わなくても属性を攻撃に付与できる。

 もっとも本人が修得している魔法属性のみだが。

 僕は全属性をもっているので何でも属性を乗せれるが、時空魔法だけは対応していないようだ。

 もともと人間には修得できないしね。


 強力な分MPの消費が多いけどそれは普通の人間ならの話で、MP限界突破していてかつ【フルムーン】による高速自動回復、【攻撃時MP回復Ⅴ】、【撃破時MP回復Ⅴ】のおかげでだいたい無限に撃てるといってもいい。


 フレアワイバーンが吐き出してくる深紅のブレスも氷晶閃がかき消してなお本体を斬り抜けていく。


「あーこれミストラルの気持ちがわかるわあ。遠距離でも一撃で撃破、ドロップと魔石は自動回収。尽きないMPに上級の剣技。クラウスくんの人格がまともでよかった。これなら古の魔王にすら勝てるんじゃない?」


「んーどうでしょうね? ただ、僕は王家からスキルを悪用するなと釘を刺されていますからね。それに……」


「それに?」


 僕は小声で話す。


「おそらく王の暗部が僕のことをいつも見張っています。逆に僕が潔白であることを証明してもらえると思ってそのままにしていますが」


「そうなの?」


「なので、たぶんレティ様もついでに見張られていると思います。国に仇なすと見なされればどうなっても知りませんよ。気を付けてくださいね」


「はあ…… わかったわよ。もともとそんなつもりないけど」



 実は今も2人ほど僕から離れた場所にいる。

 ただ僕に対する対策は徹底しているようで、こっそり視界に入れてもステータスが見えない。

 悪意を持たないよう指導されているのだろう。

 僕が転移であちこち移動してもしばらくしたら誰かしら気配がするのでそれなりの人数を動かしているのか、または追尾するためのスキルがあるのかもしれない。



◇◇◇



 階を進むにつれ、ワイバーンの上位種のグレートワイバーン、竜種のホワイトドラゴンなども出てきはじめた。

 これらを狩っていて素材や魔石を売り払えば伯爵家の財政もまだまだ支えられるだろう。

 僕の領地で頑張って働いてくれる文官さんたちの給料を払わなければ。




◆◆◆◆◆◆


 いつもお読みいただきありがとうございます!


 もしもスキルを悪用した場合については、◆番外編 暗黒街の皇子 6 を参照です。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る