第120話 人間には使えないスキル 

「俺が滅ぼした国から奪ったんだよ! だから俺のもんだ!」


「ならあなたから奪えば僕のものですね。返しません」


 というわけでこの神器は僕のもの。

 S級になったからには黒騎士カイさんみたいな神器が欲しかったんだ。


「この野郎……! 八つ裂きにしてやる……! んん?」



 ブチギレて僕に攻撃しようとしてきたマスタングだが、体の違和感に気付き行動に躊躇する。

 達人であればあるほど、レベルが上がるなどしてステータスが変化すると、そのステータスに応じた動きを再構築するために苦労するらしい。

 マスタングもその境地には至っていたようだ。

 ここでステータス落ちてますよ、と教えると早くその状況に適応されてしまうかもしれないから彼の変化については黙っておこう。

 

 一瞬だが戸惑いを見せたマスタングに対して、僕はタイムストップを発動。

 彼の後ろに回り込んでタイムストップを解除し、首の後ろにトンッ、と手刀を切る。

 【捕縛術】の手加減を使った。



「グッ……」



 マスタングはそのまま気絶した。

 メタルブレードも回収して、後は連れて帰って帝国との交渉材料にしてもらうだけだ。


 いや、その前に懲りずにやってきた帝国軍にも帰ってもらわないといけない。

 転移でレインボーシールを越え帝国軍の前に移動して、


「ファイアボール」


 帝国軍の真ん中の隊列が残るように、左右の隊列に向けてそれぞれファイアボールを放つ。

 ファイアボールの進路上にいた兵士は全て蒸発して消滅した。

 何が起こったかわからない兵士たちは少し動きが止まっていたが、僕が詠唱して魔法を放つフリをすると、みんな我先に逃げ出していった。


「化け物だー!」


「逃げろー!」


「『焔の剣聖』もやられちまった!」



 そうそう。

 僕の恐怖を誇張込みで伝えてほしい。

 そしたら侵攻なんて考えないだろうし、このあとの王国と帝国の交渉も有利に進むかも。



 また転移で元の場所に戻ってきて、マスタングをバインドチェーンで拘束する。

 スピネルさんに引き渡し、彼の今のステータスを伝えておく。


「クラウスにかかれば『焔の剣聖』も赤子の手を捻るようなものか……」


 スピネルさんがつぶやくが、それは言い過ぎかもしれない。

 いろいろ有用なスキルを交換させてもらったし、流派と神器まで譲り受けたのだから。




 戻ってきてスタン侯爵様にここまでのことを報告する。

 もうなんか侯爵様に報告するのは半ば癖みたいになってる。


「神器レーヴァテインを見せてもらってよいかな?」


「ええ、構いませんよ」


 ディメンジョンボックスからレーヴァテインを取り出してみせる。


「確か炎の大剣と聞いていたが……」


「持ち主に最適な形を取るようです。マスタングの場合は炎の大剣となり、彼の剣術と炎魔法につき大幅な威力上昇の効果をもたらしていました」


「お主の場合は?」


「僕の場合は、いつも使っていたメタルブレードに近い形になっていて、特にこれといった意匠はありません。効果は全能力50%上昇です」


「なるほど」


「侯爵様、それでは結界の補修に向かっても良いでしょうか?」


「構わぬぞ。シールドキラーによってあちこち結界が傷ついておるようだしの」


「ええ。さすが【錬金魔王】が作ったシールドキラーですね」


「んん、【錬金魔王】とな?」


 あ、やべ。

 クラウディアさんが伝えてないんだった。


「今のはなかったことに……」


「……未だに王立魔法研究所の錬金術師が解析できない魔道具だからな、そんなスキル持ちがいるだろうとは思っていたが。聞かなかったことにしておく」


 僕が慌てた様子をみた侯爵様が空気を読んでくれた。




◇◇◇




 侯爵邸を辞して、交易路に転移する。


「どうしたんですか、レティ様。全然話をしなかったですが」


 先ほどのスタン侯爵邸でもレティ様は一言も喋らなかった。


「クラウス、あなたにはやはりついて行かないといけないわね」


「どうしたんですか、今さら」


「あなた、呪われた【暗黒魔法】を使っていたわよね。精神が無事でいられるとは思えない。何かあったら私があなたを浄化する」


 何かを勘違いしていないかな。

 精神が無事でないのはスパイト王国民のほうだ。

 国土そのものが強力に呪われ汚染されているからね。

 というか、僕に何かあったら一番先に被害を被りそうなのはレティ様なんだから、僕についてこない方がいいんじゃないかな。


「レティ様、【暗黒魔法】といってもスキルの一つに過ぎませんよ」


「なぜ言い切れるの?」


「どうして僕が正常でないと言えるんですか? 聖女なら邪悪な気配を感じられるでしょう。なんならソウルピュリファイを僕に使ってみたらどうですか?」


「あなたから邪悪な気配はしないわ。でも魔物にしか使えないはずの【暗黒魔法】を使っているのが恐ろしいの」


「……僕はエルフの魔法技術を持っています。その経験から特に問題ないと分かっています。人格に影響を与えるスキルがないとは言い切れませんが」


「エルフ? 伝説上の存在でしょ?」


 ああ、そこからなのか。


「人間には修得できない【時空魔法】が使えるのはエルフの魔法技術のおかげなんです」


「クラウスの固有スキルなんじゃなかったの?」


「当たらずとも遠からず、というところでしょうか」


「……とにかく、ついていくわよ」


 ちょっと面倒くさいなあ。

 【暗黒魔法】を使ったくらいで。

 でも聖女ですらそんな懸念を持つくらいだから普通の人に見られたらどう思われるか。

 気をつけよう。




◆◆◆◆◆◆


 いつもお読みいただきありがとうございます!


 【錬金魔王】についてはエルフのクラウディアが国王に話していないと、クラウスに語っていました。第69話を参照です。

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