第116話 教皇
夜になったので、大聖殿に侵入する。
警邏する僧兵をディストーションで吸い込んでいく。
ミストラルさんの案内で大聖殿奥にある教皇の間に向かうが、ここは空振りだった。
次は教皇の寝室だ。
寝込みを襲うのは何となく気が引けるが、そうも言ってられない。
ドアには当然鍵がかかっている。
【トラップシーカー】で解錠しようとしてみたが、スキルが不発となった。
魔法的なガードがかかっているようだ。
『アンチカース』を発動する。
すると、カチャッと音がする。
神罰の塔の入り口と同じかな、と思って試してみたらその通りだった。
入ると、二人の男女が大きな布団でくつろいでいた。
「きゃあ!」
女が悲鳴をあげ、シーツで体を隠す。
「なんだ貴様らは? ん、レティシアか? 神罰の塔でとうにくたばっているはず。アンデッドか、幻覚か?」
「どっちでもないわよ。あんなもん壊して抜け出したの」
「バカなことを。あそこには『闇の処刑人』ラルゴがいるはず」
「
「なんだ貴様は」
「あなたが勝手に『神の御子』と名付けた者ですよ」
「お前がクラウスか? ちょうどいい。ここで能力を見せてもらうぞ。【浮遊】スキル持ちだが、完全回復魔法も使えるらしいな」
そう言って目の前の教皇インノティウスは鑑定の宝珠を取り出して、魔力を込めると砕け散った。
「何で王国に侵攻したんですか?」
「なぜ宝珠が砕けたのだ……?」
僕の話を聞いていない。
宝珠が砕けたのは僕のステータスを測ろうとしたからで、そんなこと教える義理はない。
「女神メルティアを唯一神として、従わない地域を悪と断じて支配地域を広げる。そのため適当な理由をつけて王国に派遣した教会関係者に一斉蜂起をさせる。在位30年の間信者から巻き上げた財産と暗殺者集団、僧兵達を使えば長らく戦争を経験していない王国なら与し易いと考えた。ですよね?」
「ふっ、その通りだ。まるで心を読んだかのようだ。だが、我が野望の邪魔はさせん! 貴様らは既に我が『衰弱結界』の中にいるのだ。下調べもせず乗りこんできたことを後悔しろ」
衰弱結界の中にいることは分かっていた。
寝室のふかふかで分厚いカーペットの下に展開されていたのだが、僕には効かないので無視していた。
いちおう効果は全ステータスが40%減少。
「アンチマジック!」
僕は【中級闇魔法】の魔法効果解除用の魔法を放つ。
黒い雫が僕の手からこぼれ落ち、黒色の波動が地面に広がっていく。
わずかな間の後、『衰弱結界』が消えた。
これでレティさん達のステータスは元に戻っているだろう。
「なぜその程度の魔法で『衰弱結界』が消えるのだ、ありえん!」
ステータス差がありすぎるからだよ。
「小賢しい、闇魔法なら私のほうが上だ! 闇に飲まれよ、イービルスフィア!」
大きなベッドの上に立った教皇は【闇魔法マスター】の攻撃用闇魔法を唱える。
直前まで女を侍らせていてさぞやだらしない体をしているかと思いきや、ローブの上からは筋肉質な感じが伺える。
よく見れば若作りした外見もイケオジの部類だ。
◇◇◇
インノティウス教皇、固有スキル【イビルポープ】を持つ。
闇魔法の威力上昇、闇魔法の成長率特大、ある種の人間を引き付ける【悪のカリスマ】を包含するいかにもなスキルだ。
汎用スキルには【上級光魔法】【闇魔法マスター】【高速詠唱Ⅳ】【上級体術Ⅲ】などもある。
体を鍛えているのは、
体力があれば女もたくさん抱けるし、美味しい食事もたくさんできる、ということだ。
この教皇、固有スキルが発現する前はかなり貧しかったらしくその反動で贅沢に憧れをもっているようだ。
客観的に見れば十分裕福だと思うのだが、いつまでも渇きが癒されない、と本人は思っている。
「ライトプロテクション!」
教皇から次々と発射される闇色の球体を光属性の結界で防ぐ。
【闇魔法マスター】の攻撃魔法だけあって、多分まあまあの威力だ。
「やっちゃえ、クラウス!」
「やかましい小娘が。その貧相な体で誑し込んだか? ……クラウス、貴様は私になびかぬようだな。飢えや渇望が感じられぬ。気に入らん」
【イビルポープ】により僕を引き込もうと考えたようだが、残念ながら僕はそういった側に適性を持っていなかった。
「確実に仕留めるしかないか。もったいないがな。エリーよ、その命使わせてもらうぞ」
「え、教皇様、それはどういう……」
教皇はそばにいる女の了承など得ることなく、忌むべき魔法を発動する。
「呪い呪われし深淵の闇へ沈め、『カース・オブ・デス』」
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