第115話 教皇派と聖女派
「さっすが『神の御子』ね! これだけ広範囲を浄化するなんて普通の人間には無理よねー。スパイトの呪いも解けるんじゃないの?」
さすがに無理なんじゃないかな。
何百年と続く怨念を解呪するなら、『神聖結界』を僕のMPとステータスで発動できたらいけるかもね。
でも、
「『神の御子』はやめてください」
僕の固有スキルは交換ができるだけで、光魔法の消費MPが半減するとかそういう特典はないんだから。
何というか、凡人を極める感じのスキルではないかと思っている。
「でもこんなの見せられたら神の御技としか思えないじゃん!」
「レティシア様、クラウスさんがそんなこと言われて嬉しそうに見えますか? ただでさえ見込みがないのにこれ以上心証を悪くしてどうするんですか?」
「うっ、きっついなーミストラル。聖女じゃなくなったからってそんな態度はないじゃん?」
「そういうわけではないんですが……」
「ミストラルさん、元聖女ってどういう扱いになるんですか?」
「民衆からは変わらず敬われます。後は国から年金が出ます。国への奉仕が条件ですが。政治に巻き込まれて非業の死を遂げることもあります。それらを除けば一般人と同じ扱いとなるはずです」
なんかちょっと不穏な言葉があった気がするけど。
「ということはレティシア様はティンジェル王国だと一般人なんですね」
「そうなりますね。教会関係者からは下にも置かない扱いになるでしょうが」
なんかいろいろと面倒そうだな。
「これが終わったら国へ帰って下さいね」
「何でそういうこと言うかな。何でもするからそばに置いてよぅ、クラウスぅー」
「何でもするとか簡単に口にしないで下さいよ……」
タケヤマから助けてもらった時に何でもすると言った僕が言えたことじゃないかもしれないが。
なんていうか、話がわき道に逸れるな。
「クラウス、そろそろ次へ行こうか」
「はい、マリー様。フロート!」
話を戻してくれる人は貴重だ。
それはともかく、全員に【浮遊魔法】をかけて教皇のいる大聖殿に向かう。
案内はミストラルさんだ。
◇◇◇
白を基調とし、あちこちに黄金が散りばめられた煌びやかな外観。
だが主張しすぎない黄金色で上品な雰囲気すら感じる。
これは勝手な思いだが、聖女とか教皇とかって慎ましやかな生活を送って信徒ともに世界平和を祈る、ってイメージなんだけど。
「他国から舐められないよう、わざと豪華にしているのですよ。女神メルティアは『真摯な祈りを捧げれば自分のために、ひいては世界のためになる』、としか言っていませんが」
「かつて信者の中に【アーキテクト】の固有スキルを持ってる方がいてね、今の大聖殿をデザインしたのよ」
ミストラルさんとレティシア様が説明してくれる。
「祈るだけなら豪華な場所とかいらないんじゃないんですか?」
「おっしゃる通りなのですが、集まって同じことをするというのも大事なのですよ。女神メルティアへの信仰という共通点があって、そこから集まったなかから商売相手を見つけるとか、恋人を見つけるとか、色々な役割を果たしています」
ミストラルさんが答えてくれるが、そんなものなのだろうか。
確かに、共通点があるとなれば人間関係はやりやすい面があるのかもしれない。
◇◇◇
地上に降りて大聖殿に近づく。
武装した僧兵が巡回をしている。
「夜まで待ちましょうか」
「それがいいだろうな」
マリー様も賛成してくれたことだし、夜まで時間を潰すか。
「クラウスさん、聖女派の宿屋で夜まで休みませんか?」
ミストラルさんの案内で、聖女派の信者が経営する宿屋に向かう。
途中では、教皇派が広場で演説をしていた。
「女神メルティアの聖なる教えを全世界に広めるのです!!」
「偽物の聖女に罪を償わせるのだ!」
「真なる御子によりメルティアに繁栄を!」
レティシア様は何かしたんだろうか?
「クラウスさん、別にレティシア様は何も悪いことはしていませんよ」
「そうよ、クラウス。あと、レティって呼んでいいよ。あたしとあなたの仲じゃない」
いったいいつどんな仲になったというのだろう……。
「教皇派と聖女派の対立というよりは、女神メルティアのみを唯一の神と考えるか、他の神も許容するのかという違いでしょうか」
「あいつらはね、メルティア教のみが世界を救えると考えているのよ。でもね、仮にそうなったとして、世界が平和になると思う? 人間が宗教だけを拠り所に生きているわけじゃないでしょう? 神以外を理由に争いを続けるだけよ。そんな夢物語を信じているのは下っ端の信者だけ。上の方は宗教を現世の栄達の道具としてしか見ていないわ」
「教皇派は信者から年収の何割かをお布施と称して納めさせています。本来の税収とは別に、です。そして、お布施の対価として『免罪符』を渡しています。『免罪符』を持てば持つほどレベルや光魔法に関連するスキルが上がりやすくなる、と宣伝すらしています。聖女派はそれをおかしいと主張していましたが、やはり金の集まる方に人が集まり、レティシア様は女神メルティアに逆らう不届き者とされてしまい、今のこの状況です」
ミストラルさんとレティさんが交互に説明する。
ここまで説明してもらってなんだが、結局のところ他国のことなのでメルティア教だけが正しかろうが他の神を許容しようがまあ構わない。
ティンジェル王国は様々な宗教を認めているので、どちらかというと聖女派の考えに近いのかもしれない。
内心をどう考えようが個人の勝手だと思うが、王国に侵攻してその上勝手に僕を祭り上げて理由にしているのは許さない。
内心は自由だが、それを元に起こした行動が自由で許されるかどうかはまた別だ。
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