第114話 神罰の塔崩壊 

 スタン侯爵様が失望するなよ、と言っていた聖女様に会ってから次の日、性懲りもなく帝国軍がまたちょっかいをかけようと辺境に戦力を集めているという連絡が入った。

 もう一度ドレミーさんの【ドリームワールド】でレジスタンス入りを加速させる。


 ていうか、無駄だってわかんないのかな。

 【ドリームワールド】がなくったって僕のエアウォールを突破するのは多分無理だろうに。

 無理やり突っ込めば風の刃で微塵切りだ。


 そういえばウォーレンさんとサレンさんは無事だった。

 帝国軍の侵略のとき、たまたま王都にいたからね。

 もしウォーレンさんに何かあったら帝城まるごと焼き尽くしていたかもしれない。



◇◇◇



 ドレミーさんを酷使して2日後、聖メルティア教国へ王国軍が攻め入ったので、それとあわせて『神罰の塔』の側へ転移する。


 今回のメンバーは、僕とマリー様、ミストラルさん、レティシア様だ。

 聖女様は強引に着いてきた。

 

 どうやら、王国と聖女様の間で終戦後の話をつけたようだ。

 聖女様は交代、次期教皇は聖女派から選出し、王国と和睦。

 現教皇とその一派は戦死か、教義に背き両国を混乱に陥れた罪で公開処刑。

 そんなところらしい。




「いやー、転移魔法って凄いね! 教皇に勝ち目なんかはなっからなかったね! クラウスがいれば奇襲、暗殺何でもありじゃん。広範囲完全回復魔法も使えて防御結界も。軍人や食糧の輸送コストゼロ、大陸統一もできるよ。神聖クラウス大帝国!」


 レティシアさんはやたら僕を持ち上げてくる。

 が、僕に統治能力はない。

 統治できる人間を雇えばいいんだろうが、そもそも僕にそんな気はない。


 だいたいレオン王がこれ以上領土を広げても統治できないと判断し、そこから今の王国の規模で安定しているのにそれ以上とか無理だ。

 王国よりも領土が広い帝国は、国の体を保ってはいるが、地方で頻発するテロに手を焼かされている。

 無理やり大陸統一というよりは、安定したそこそこの規模の国の間で緩やかな連合を作ってそこの長になるほうがまだ現実的な気がする。



「すみませんクラウスさん。婚約者候補といっても事実上の婚約です、と説明しても聞いてくれなくて。側室でもいいと言って聞いてくれません」



 ミストラルさんが慌ててレティシア様を止めようとしている。



 別に配偶者を持つのに制限はない。

 ただ、経済的な問題と、そもそも複数の配偶者がいてどうやって家庭を運営していくのか、全然想像がつかない。

 妻同士で仲たがいとかしたらどうするのか。

 世の中は広いから対応するスキルもあるのかもしれない。

 見たことないけど。

 


◇◇◇



 それはおいといて、今は神罰の塔だ。


 まずは、『挟撃結界』を展開して神罰の塔をぐるりと囲む。

 その結界の中で、【地魔法マスター】のノームショックを発動し、地面をぐちゃぐちゃに掘り返しそこから次々と岩の塊を突き出させ建物を壊していく。


 この魔法は周りへの影響が強すぎるので、挟撃結界で範囲を限定しないと辺り一帯の景色が変わってしまう。

 また、本来広範囲が対象の魔法を無理やり範囲を縮めた分威力が高まる。



 しばらく地響きが続いたあと、円筒状に展開した挟撃結界の中には瓦礫が積み上がっていた。


「空より飛来せし破滅の炎、エンシェントフレア!」


 ちょっとだけ詠唱を加えた【火魔法マスター】で炎の塊を挟撃結界の中に落とす。

 挟撃結界の中が赤く染め上がり、ちょっと目に痛い。


 炎が消えると、ドロドロのマグマのような何かが残っていた。


「これだけやれば中に埋め込まれていた魔道具も壊れているでしょう」


「クラウス、次は私の出番ね!」


 僕の魔法を見慣れているミストラルさんとマリー様はともかく、これでも全く動じないレティシア様は、なんというか貴重な人材かもしれない。


「祈りを捧げ、穢れし魂を浄化する、ソウルピュリファイ!」


 聖女様にしか使えない浄化魔法だ。

 これも挟撃結界の中に発動してもらい、神罰の塔が建っていた土地ごと浄化してもらう。


 溢れんばかりの神々しい光が挟撃結界の中を満たし、神罰の塔で死んでいった者達の苦悩や無念が晴れていく。


 膝をつき手を組んで祈りを捧げるレティシア様の姿もまた神々しい。

 確かに、汚すのが躊躇われる姿だ。

 信者じゃないけど、その気持ちはわかる気がする。



 やがて光が消えていき、挟撃結界の中が晴れていく。

 これで一番ヤバいところの浄化は完了だ。

 あとは、神罰の塔から漏れていた瘴気やら何やらで穢れている周囲の土地だが、これは僕がなんとかすることにする。

 ソウルピュリファイは、最上位の光魔法だけあって消費MPが100を超える。

 レティシア様が発動できたのは、聖女の特性である光魔法の消費MP軽減があるからだ。

 一度使えば、前借りとかしない限りしばらくは発動できない。



「【MPバースト】、ピュリフィケーション!」


 ピュリフィケーションはソウルピュリファイより下でアンチカースより上の【光魔法マスター】の魔法だ。

 つまり、普通の人間が使える最高の浄化系魔法だ。


 解呪だけならアンチカースで十分だが、この地の穢れは呪いと言う負の感情の攻撃的な部分だけでなく、悲哀や絶望などの静的な部分も持っているため、ピュリフィケーションを使わないと浄化しきれない。


 【MPバースト】がなくてもいけそうな気はするが、レティシア様のソウルピュリファイを見てしまったので、負けたくないと思ったので追加してみた。


「さっすが『神の御子』ね! これだけ広範囲を浄化するなんて普通の人間には無理よねー」



◆◆◆◆◆◆


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