第113話 結界の聖女 

 スタン侯爵にとりあえずは帝国軍を退けたことを報告する。


「……そうか。こちらもサウスタウンはほぼ取り返した。聖女も目を覚ましているようだ。会いに行くとよい。それと、3日後にはメルティアに進軍する。それにタイミングを合わせて『神罰の塔』を破壊せよ。あとはメルティアの中心である大聖殿に侵入し、教皇を捕縛するのだ。抵抗する場合は捕縛にこだわる必要はない」


「わかりました。帝国軍は大丈夫なのですか?」


「あまり大丈夫とは言えんな。とりあえず交易路はしばらく封鎖だな。サランディアの辺境軍に守らせよう」


「やっぱりしばらく封鎖ですよね。交易路の東側には侵入できないようエアウォールを常時張っておきましょうか」


「結界ではないのか?」


「ええ、帝国軍が結界解除の魔道具シールドキラーを持っていましたから。スパイトからの貴重品だったのでもう一つあるとは考えにくいですが、念のためです」


「魔法とはそんなに持続するものだったか?」


「いえ、持続性に特化した結界と違って一時的ですが、触媒を用意すれば継続させられます。もともとウォール系は持続時間が長めですし」


「お主と話すと常識が分からなくなるのう。触媒を用意しても長くても2日や3日しか保たぬはずだがな」


「注ぎ込むMPの量が違うからでしょうね」


「お主のMPはいったいいくらあるのだ?」


「4299です。あと【フルムーン】により常時MPが回復しています」


「……聞かなかったことにしよう」


「とりあえず聖女様に会いに行ってきます」


「そうだったな。だが、会っても失望するなよ」


「? はい、わかりました」



◇◇◇



 王宮に転移して聖女様のために用意された部屋を訪ねる。

 最初は僕の屋敷で寝かせていたが、聖メルティア教国で民衆から人気のある聖女様を一貴族の下に置いておくのはいろいろとまずいらしく、回復した今は王宮で賓客扱いだ。



 部屋の前の護衛の人に声をかけて聖女様の部屋に入る。

 聖女様とプリンさん、ミストラルさんがこちらを見る。


「あなたがクラウスねー。助けてくれてありがと。私は『結界の聖女』レティシア。ミストラルから手紙で聞いてたけど、可愛いねー。お礼にミストラルの代わりに同行するからよろしくねー」


「と言って聞かないんです。クラウスさんよろしくお願いしますね」


 えらく物分かりがいいけど、それでいいのかミストラルさん。


「レティシア様、聖女の御役目はどうするんですか!?」


「プリン、あなたが引き継いで。あの陰険な教皇から偽聖女って言われたしー。あなたはもう能力は私と同じくらいだから大丈夫よー。頑張ってみんなに愛想振りまいてね」



 ……とても命をかけて神聖結界を張り続けた人物と同じとは思えない。


「聖女様、なんですよね……」


 とつい聞いてしまう。


「ええ、クラウスさん、間違いありません」


 ミストラルさんがそういうなら間違い無いんだろう。

 神罰の塔から連れて帰ってきた人と見た目に違いはないし。


「聖女様、無事に回復されたようで何よりです」


「うんうん、クラウスのMP回復の結界魔法がなければ危ないところだったよ〜。こう見えても感謝してるからね。だから今度は私がクラウスの役に立つためについていくし。『永遠の回廊』に挑むんでしょ。ミストラルにできないこともできるから役に立つし、いろいろと。あと、レティシアでいいよ。もう聖女じゃないし」


 そう言って聖女様が胸を張る。


「ない胸を張ってもダメですよ、レティシア様。たぶんこの人色仕掛けは通じないですよ」


「女は胸じゃないのよ、プリン。経験と包容力なのよ」


「すみませんクラウスさん、レティシア様は年下好きなんです。叶ったことはないですけど。経験もないですし」


「いや、経験ある、あるしっ!」


「レティシア様はね、聖女として能力が高すぎてみんな敬遠するもんだから、告白しても恐れ多くて無理です、って毎回言われるのよ……」


「クラウスはそんなことないよね? ね?」


 聖女様がぐいぐいっと迫ってくる。

 僕はメルティア教信者じゃないから、そういうことはないけど……


「あの、僕はこの国の第三王女様の婚約者候補ですので、ご期待には沿えられないかと」


「え…… 売約済なの? あっ、婚約者! じゃあまだイケるよね!」



 なんか聖女っていうからこう、お淑やかな感じかと思ってたけど、先入観を持ってはいけない、ということなんだろう。

 でもあの神々しい『神聖結界』を見てしまっているから、目の前の女性とのイメージが合わなくて正直どうしていいかわからない。


「ミストラルさん、聖女様って辞められるものなんですか?」


「次代の聖女候補が十分な力があると皆に認められれば可能です。皆といっても教国全員に聞くわけにはいかないですから、実際は教皇が認定します。今は、レティシア様が教皇によって聖女であることを否定され、クラウスさんが『神の御子』として認定されていますから、クラウスさんが聖女なんでしょうね」


「次の聖女は【光輝の聖女】を持ってるプリンに決まってるんだから。あのじじい何をとち狂ったんだか……」


 口の悪さも聖女に必要なんだろうか。






◆◆◆◆◆◆


 いつもお読みいただきありがとうございます!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る