第112話 クラウスの暗躍 

「何だあの黒い渦は!?」


「人が落ちてくるぞ!」


「おい、大丈夫か!?」



 帝都チェルウッドにある帝城の庭では、不思議なことが起きていた。

 


「これは…… 確かティンジェル王国に派兵されていた者たちではないか。みな下着姿なのはどういうことだ?」


「おい、大丈夫か? 何があったんだ? あの黒い渦はなんだ? 装備はどうした?」


『ううぅぅぅ…… 怖いよお…… ドラゴンが襲ってくる…… 助けてくれぇ……』


「なんだと? どこにドラゴンがいるんだ? ティンジェル王国にいたのか?」


『アンデッドが来る…… 刺しても刺しても死なないよう…… 俺も食われるぅぅぅ』


『えへへ、アンリちゃん…… 俺といっしょに朝まで遊ぼうぜぇぇぇ』


『給料はまだかな…… 早く彼女と結婚したいのに…… 別れるなんて言うなよぅぅぅ……』


「なんだこれは? どいつもこいつも正気を失ってやがるのか! 目にハイライトがないぞ」


『うわあ、うわあ、くるな死神め! どけぇぇぇ!』


「お、おい暴れるな! 早くそいつを拘束しろ!」


「まだ人が落ちてくるぞ!」




 時間差で次々と下着姿の兵士達が黒い渦から落ちてきて、帝城の庭はさらに阿鼻叫喚の地獄と化していた。




◇◇◇




 こんなものかな。

 

 僕はディストーションで闇に落とした者達に、さらに『上級闇魔法』のナイトメアを発動させていた。

 一時的に幻覚を見せ相手を惑わせるが、ナイトメアに晒され続けるとやがて精神が壊れる。

 なので、ディストーションで閉じ込めている間、精神が壊れるまでナイトメアを見せ続け、終わったら帝城の庭に解放するようディストーションにいろいろ細工したのだ。

 ナイトメアは効果に個人差が激しいため多分時間差で順番に解放されていくだろう。


 これだけ機能を持たせたあげく、対象人数が多いとさすがにMPが持たない。

 いちいち七曜の魔女から青い珠を貰うのも面倒なので、次はあまりMPを消費しない方法を考えよう。


 なんだか精神的に疲れたので、スピネルさんにメイラを引き渡した後屋敷で休む。

 眠りに入る直前に、もっといい方法を思いついた。

 陛下の真似をすればいいんだ。





 朝になると、ドレミーさんが起こしにくる。


「おはようございます、ご主人様」


「おはようございます、ドレミーさん」


 ドレミーさんはメイド服をきっちり着ている。


「僕の準備ができたらいっしょについてきてください」


「承知しました、ご主人様」





 ゲートで交易路の東側に転移する。

 そこには侵略の第二陣が待機していた。


「ウンディーネスリープ!」


 僕は【水魔法マスター】の眠りに誘う魔法を発動する。

 水でできた女性のシルエットが帝国兵のただなかを通り過ぎると帝国兵が次々と眠りに落ちていく。

 僕の知性なら必中だ。


「ドレミーさん、お願いしますね」


「わかりました。ご主人様。【ドリームワールド】!」



 ドレミーさんが目を瞑り、スキルを発動する。

 【ドリームワールド】の発動中は無防備なので、誰かが守ってあげないといけない。

 本来なら敵の目の前で使えるようなスキルではないので僕はドレミーさんの傍から離れず待機する。




 やがて、ドレミーさんが目を開ける。


「ご主人様、手前の10人が終わりました」


「ありがとう。アウェイク!」


 地魔法で10人を起こす。

 彼らは起き上がると僕たちを見ても特に反応することなく帝国内へ戻っていった。


「ドレミーさん、一つ聞いていいですか?」


「はい、何なりと」


「帝城で僕たちに【ドリームワールド】を仕掛けたとき、まとめて相手しなかったのはなぜですか?」


「はい、最大10人まで相手にすることができますが、消費MPが大きくなるからです。時間がかかりますが、一人ずつ相手した方がMP効率がよいのです」


「ああ、そうなんですか。……ということは、『月癒結界』!」


 ドレミーさんが薄い黄色の結界に包まれる。


「ご主人様、これは一体……?」


「MPの自然回復を早める結界です。それでもいつかはMPが切れると思いますので、そのときは僕が持ってきたMPポーションを飲んでください」


「わかりました。では、続けます。……【ドリームワールド】」




◇◇◇




 一日がかりで【ドリームワールド】を使ったドレミーさんを屋敷に返した。

 気丈に振舞っているものの明らかに疲れが見えているので、今日はもう休むように命令する。


 そして、少し準備してからレジスタンスのアジトに転移する。

 今度はちゃんとリーダーのエウレカ殿下がいた。




「こんにちは。支援の物資を持ってきました」


「……いつも前触れなく現れるんだな」


「いちいち【ダンジョンマスター】の許可を得るのは面倒ですから。それと今回は物資以外の土産もあります」


「ほう、なんだ?」


「帝国兵の一部をレジスタンスに寝返らせました。皇帝への忠誠心を取り除いているので、あなたの【天性のカリスマ】なら確実に魅了できるでしょう。いずれレジスタンスを訪ねてくると思うので、仲間にしてやってください。今回の物資はそれを見込んで多めに持ってきています」


 ドレミーさんに【ドリームワールド】で勝った場合の命令内容を『皇帝への忠誠心を捨て去り、レジスタンスに従うこと』と指示していた。

 これでレジスタンスはさらに強化されるだろう。

 なにせ加わるのは帝国の正規兵だからね。





◆◆◆◆◆◆


 いつもお読みいただきありがとうございます!


 【ドリームワールド】の効果については第102話を参照です。

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