第101話 帝国との交渉 

 街道の整備が8割ほど済んだところで、国王陛下の書状を皇帝陛下に直接届けることになった。

 ちなみに、街道のちょうど中間には両国のトップが会うための建物を作っている。

 陛下はこの交易が成功すると確信しているようだ。

 なんせ利に聡いトーマス商会も莫大な金を注ぎ込んでいる。



 今度はさすがに僕一人ではなく、外務大臣のボストン卿と交渉役の官吏3人、護衛役として僕とマリー様がつくこととなった。


「よろしく頼むぞ、クラウス」


「オルランド伯、よろしく頼む」


「はい、ボストン卿、マリー様」


 まずはサウスタウンにゲートで移動して、出国の手続きを行う。


 やはりというか何というか、ボストン卿は絶句していた。



「陛下から『驚くでないぞ』と笑顔で告げられておりましたが、驚くなというのが無理ですな」



 そして、すぐにカイル帝国の国境の街まで転移し入国の手続きを行う。


「そういえば、スパイト王国での入出国手続きをしていないんですが、いいんですかね?」


「スパイト王国だとな、賄賂を渡さんと数日も待たされるぞ。帝国への入国には国使のメダルのみ有れば足りるから、気にしなくてよい。むしろスパイトを通らなくてよいから都合が良いくらいだ。交渉に成功すればそもそもスパイトが不要になるがな」


「さて、どうしますか? このまま帝城前まで跳べますけれど」


「いや、入都の手続きをした方がよいだろう」


「わかりました、ボストン卿」


 というわけで、帝都前までゲートで移動。


 帝都への入場門でも特に問題なかった。


 帝城の受付にて、皇帝への謁見を申し出る。

 謁見には少なくとも一週間は必要とのこと。

 書状の内容をあらかじめつづった文書を先に渡して、その場を辞する。


 帝都の最高級宿泊施設『白き狼』で滞在だ。

 アホみたいに宿代が高いが全て王国が持ってくれる。

 まあ、一国の大使なので見栄は必要だ。


 その晩、早くも帝城から呼び出しがかかる。

 特別に皇帝が会うとのことだ。

 一週間後じゃないんだろうか。

 


「カイル帝国ザンデ皇帝陛下におかれましてはご機嫌麗しゅう。今宵は謁見の栄誉を賜り誠に光栄の極み。ティンジェル王国国王クロスロード=ティンジェルの名代として不肖ボストン=ヴァレスティが国王陛下からの書状を持参いたしました。どうかお納めください」



「うむ。大儀であった」


 それだけ言うと、豪華な椅子にふんぞり返った皇帝陛下は目を閉じる。


 実際に書状を受け取るのはもちろん臣下の者だ。


 しかし、ただの謁見だというのに左右にズラリと兵が並んでいる。

 僕達を逃すまいとしているようだ。


 定型的な儀礼が終わった後、皇帝陛下自らがポツリと問いかけてくる。


「問おう。魔の聖域を横断する交易路は如何にして開通させたのか?」


「恐れながら皇帝陛下、我が国の軍事機密に属するゆえ、ご容赦願いたく。ただ、王国に領土の野心はなく、両国の健全なる発展を願ったものであることをご賢察いただけるものと確信しております」


「ふむ」


 でもその言い方だと、魔の聖域を簡単に制圧できる軍事力を持ってますよ、と言っているのに等しいのでは。



 僕とマリー様は一言も発することなく、ボストン卿のみが終始発言していた。


 にしても、ザンデ皇帝はあっさりしていたな。

 市井で聞いた暴君という感じはしない。




 そして、今夜は帝城の客室において宿泊することとなった。




◇◇◇




「陛下、やはり魔の聖域を開拓した方法は聞けませんでしたな」


「当然だ。はなっから答えを期待しておらんわ。が、強大な軍事力を手にしたのは間違いな。侵略の意図がないと強調しているあたり、必ず裏付けがあるはずだ」


「はっ。その方法については王国に放っているスパイも掴めておりませぬ。街道の整備工事に従事しておる者に聞いても、【賢者】が古代魔法を使って一晩のうちに切り開いたというおよそ与太話にしか聞こえぬ話ばかり」


「最初の書状は様子見にしていたのだがな。まさか本当に交易路を整備しているとは。『暴れん坊将軍』とも言われるザンボーが妙に大人しく、王国を侮ってはならぬと忠告する始末。王国と通じているかとも思われる程だ」


「交易路を整備したのは王国で間違いなく、費用回収のため当面の間の通行料と関税を要求しております。それでも、スパイトの通行料より遥かに割安なのは間違いありませぬ。それに当分の間商人のみ出入国の条件をお互い緩和するなどの提案もあります。王国はよほど自信があるようですな」


「そうだな。魔の聖域を開拓した秘密が分かれば交渉をこちらに有利に出来るかも知れぬ。宰相よ、準備は出来ているだろうな?」


「もちろんでございます」


 ザンデ皇帝と宰相は執務室で企む。




◇◇◇




 深夜、草木も眠る時間。


 ボストン卿に随行してきた官吏は夢を見ていた。


(……ここは? この七色のフィールドは一体?)


(うふふ、ようこそ私の【ドリームワールド】へ……)


(貴女は一体……?)


(ここは夢の中。私とあなたは戦うの。負けたら私のいうことを一つ聞かなければならない)


(私は文官だぞ。卑怯者め!)


(そんなことは関係ない。【ドリームワールド】にいる限り私には逆らえない)


(うわあぁぁぁぁ……)






(さあ、魔の聖域を横断する交易路をどうやって開拓したのかその方法を教えなさい)


(知らない。噂はいろいろあるが、本当のことは国でも限られた者しか知らないはずだ)


(私の支配する【ドリームワールド】で嘘はつけない。外れか。まあいい、夢から覚めればこのことは覚えていないのだから)





◆◆◆◆◆◆


 いつもお読みいただきありがとうございます!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る