第100話 援助
「クラウス、またお父様から依頼よ」
「今度はなんでしょう?」
「帝国のレジスタンスに物資を定期的に融通してほしいの」
「なぜなの?」
「帝国の国力を下げたいの。交易路が開通すれば、そこから攻めてくる可能性があるわ。内政の不満を侵略で逸らすためにね。そうならないように、レジスタンスを隠れて支援するの。転移で物資を渡せば王国が支援していることはわからないわ。レジスタンスが帝国を転覆すれば、恩に着せて後の外交に有利になる」
「そんなにうまくいくの?」
「ええ。私たちが支援しなくてもレジスタンスは規模を拡大しているの。まだ帝国打倒には至らないけど、遠くない未来にはそうなる。今回の支援はその期間を短くするだけ。短ければ短いほど王国への危険は少なくなる」
「なるほど」
「今の帝国は危険よ。エウレカ殿下に指導者になってもらった方が今より政治は安定する」
そんなもんなのかな。
とりあえず、ディメンジョンボックスにマジックバッグを詰めていく。
食料だけでなく魔道具なんかも大量にあるようだが、そんなに渡してもいいのかな、って思う。
「なに言ってるの、クラウスが大量に魔石を持ち込むから魔石を元にした魔道具が大量に余っているのよ。この程度渡したところで何の影響もないわ」
ああ、僕のせい? なのか。
とりあえずレジスタンスのいるダンジョンに転移して持っていこう。
◇◇◇
「こんにちは」
「貴様、クラウスか! 何しに来た! というかどうやって入った?」
転移した先で真っ先に会ったのはシラーさんだ。
嘘をつけないから、慎重に言葉を選ばなきゃ。
「リーダーに会わせてもらえませんか?」
「覚悟しろ」
シラーが剣を抜く。
丸腰の僕に対して躊躇なく斬りかかってくるが、さっと躱して手首を叩き剣を落とさせる。
落とした剣を拾い上げ、僕は少し後ろに下がる。
剣先を地面につけて攻撃する意思がないことを示すが、向こうの殺意が消えない。
「体術か。無詠唱魔法だけではないのか」
どうしよう。
話を聞いてくれない。
というか僕が殺す気ならそれこそ無詠唱魔法でカタがつくんだけど。
「ダンジョンマスターが命じる、この者の退出を禁ずる」
騒ぎを聞きつけて集まってきた中にダンジョンマスターがいたようだ。
試しに転移してみる。
景色が変わりムーラン山脈に出る。
再び転移してレジスタンスの拠点に移動する。
「! 消えたと思ったらまた現れた。どうなっているんだ?」
「とりあえず話を聞いて下さい」
さすがに今回は誰かをこの世から消すわけにはいかない。
援助の申し出にきているんだからね。
「依頼によりきています。証拠を残さないため身分の分かるものなどは持参しておりませんが、ご容赦ください」
「黙れ。撃て!」
「フレイムブラスト!」
「スプレッドショット!」
「ウインドカッター!」
様々な魔法が向かってくるが、全て僕に辿り着く前に消えていく。
魔法結界を展開しているからだ。
なんか、守るばっかりだとあんまり面白くないな。
剣や斧、槍などでも攻撃されるが、防御結界により僕の攻撃が全て手前で止まる。
「シラー様、どれも効果がありません!」
シラーの部下が焦った様子で何か言っている。
僕への攻撃はほっといてエウレカ殿下を探すが、【ステルスサーチ】でも見つからない。
シラーの思考を読むと、僕が来る少し前に外に出ていったらしい。
まあいいか。
「リーダーがいないようなので、用件だけ言いますね。今からマジックバッグを置きますので、中の物を自由に使って下さい。あなた達への援助とのことです。空になったマジックバッグは後日取りに来ます」
「そんな怪しい物受け取れるか」
「危険な物は入っていません。あなたのスキルなら僕の言っていることの真偽がわかるのでしょう?」
「……なぜ俺たちを援助するんだ? 何もしないと言っていただろう」
シラーが聞いてくる。
当然の疑問だ。
「僕は冒険者でもあります。そしてこれは依頼です。じゃあ、しばらくしたらまた来ます」
◇◇◇
「リーダー、クラウスがやってきていました」
「そのようだね、シラー。そして置き土産、と」
「まだ開けていません」
「有り難くちょうだいしようではないか」
「大丈夫なのですか?」
「ああ、クラウスはあの若さでごく最近叙爵されたティンジェル王国の新興貴族だ。準男爵から伯爵という特異事例。もとはただの平民でなぜか準男爵になったあと、ブラックギルド壊滅の立役者などの功により伯爵だ。しかも同時に第三王女の婚約者候補。そのうえ、あの国王が珍しく他の貴族に何の根回しもせず行うという肩入れぶり。これらの物資は国王の差し金でまず間違いない。魔の聖域を通る交易路を開通すると、間違いなく兄上は王国を攻めるだろうからな。それを防ぎたいのだろう」
「利用できる物は利用しますか。ですが、王国に借りを作ることになるのでは?」
「いや、クラウスは冒険者として依頼を受けてきた、と言ったのだろう? 王国の援助と明言せず。つまり、向こうも恩に着せる気はないし、バレてしまって内政干渉と言われたくないのだよ。要は王国の一方的な都合によるものだから、我々が気兼ねする必要はない。それと、クラウスに手を出すなよ。魔の聖域をたった一人で防衛し開拓したとの噂だ。そうでなくても【ダンジョンマスター】の権限が通用しないのだ」
「ですが、彼からこの居場所が漏れるのでは?」
「いや、ないな。それならとっくに【ダンジョンマスター】が捕まっているはずだ。それに、王国からすれば今の我々は利用価値があるはずだ」
「分かりました」
「私の【天性のカリスマ】を持ってしても引き入れられなかった。おそらく考え方が中立的なのだろう。味方にもならんが敵にもならん。理を持って接すれば話はわかるタイプだろう」
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