第96話 決闘 

『クラウス=オルランド伯爵 殿


 まずは其の方の実力により若年にもかかわらず貴族に叙爵されたこと、誠に感服いたしております。華麗なる貴族として日々精進されていることと存じます。

 つきましては貴殿の実力を我が身を持って確かめたく、決闘を申し込ませていただきたい。

 此度の件は王より裁可をいただいておりますゆえ、決闘を受け入れていただけること確信しております。


 決闘の条件は以下の通り。


・武技スキルのみ使用可

・立会人として第三王女殿下にお願いする


ブライト=ノーベルン』



◇◇◇



「メイヤーさん、僕初めて決闘状なんて見ました」


「さようでございますか。私めも近年はとんと見ておりませんな。説明させていただいてもよろしいですかな?」


「ええ、お願いします」


「決闘ですが、貴族間における力比べ、知恵比べなどの総称でございます。決闘で賭けることができるものは、でございます。暗黙の了解として、致命傷を与えた場合は敗者となります。決闘には両者の了解と陛下の承認が必要であり、揃っていない場合はただの私闘として処罰の対象となります。ですので、断ることは可能でございます」


「なるほど」


「昔は財産や結婚相手を略奪する名目としても行われることが頻繁にあったようですが、レオン王の時代に第三者を目的とした決闘は禁止されております。なお、ブライト様は現在19歳でございます。幼少時よりエリアリア殿下をご存じであり、今でもお慕いしているようです」


「ああ、それでこの決闘なのか……」


「おそらくクラウス様が予想されている通りかと」


 決闘はあくまで実力の確認だが、エリアの目の前で僕をボコボコにして婚約者候補にふさわしくないとし、僕に勝った自分こそがふさわしいと名乗り出るつもりなのだろう。


 どうしよう。

 受けていいものか。



(エリア、今ちょっといいかな?)


(『ああ、どうか私のために争わないで……』)


(……どうしたの、エリア)


(平民に流行っている娯楽本にそのような場面があるのですわ。それはさておき、ブライトのことでしょう。あなたとの決闘の裁可を求めてきて、お父様が面白がって認めたのよ。あとはあなた次第というわけなの)


(エリアでもそういうの読むんだ。なんか意外だ)


(息抜きにちょうどよいのですわ)


(うーん、受けてもいいかな?)


(かまいませんが、結果がどうなろうと婚約者候補に変更はありませんわ。お父様にも確認済みです)


(わかった。この決闘、受けるよ)



「メイヤーさん、この決闘受けます」


「でしたら、こちらの承諾書にサインを。……明日、私めが王宮に持参いたします」


「お願いします」



◇◇◇



 三日後、僕は王宮の外にある第三練兵場にエリアと共にいた。

 決闘場に指定されている場所だが、時間よりはまだ早い。

 でもやることがあるのだ。


「生命結界!」


 練兵場全体に結界を展開する。

 これは王国武闘会で使われる『ライフフィールド』と似た物だ。

 違う点は、命の指輪がなくてもいいことと、致命傷を与えることができないだけ、という点だ。

 ちなみに魔物がいると効果を発揮しない。



 少しして、観戦者が集まり始める。

 僕の側は、スタン侯爵様、マリー様、クロエ様、ヴェインさん、ナナさん、アーチェさん、ウォーレンさん、サレンさん、トルテさん、ミストラルさんだ。

 貴族と平民が同じ場所にいるが、僕という共通点のために咎める者はいない。

 スタン侯爵様がかまわん、と鶴の一声を出したかららしいけど。



 対するブライトさんの側は、おそらく家族と使用人、それと貴族の御令嬢が7人ほど。

 あとは、特にこの件に関係ないが、久しぶりの決闘をどこからか聞きつけてきた人たちだ。



 決闘前のブライトさんは、連れてきたと思われる令嬢とにこやかに会話をしている。

 どんな人かと思ったが、金髪の整った顔をし、無駄のない筋肉のスラリとした姿をしている。

 決闘状からして嫌味な奴かもしれないと思ったが、とても爽やか系だ。

 しかも侯爵家次期当主だという。

 


 令嬢達はブライトさんの勝利を疑っていないようで笑顔だったが、一人だけ浮かない顔をしている子がいた。


(エリア、あの一人だけ心配そうな顔をしている子が誰か分かる?)


(ええ、レーン伯爵家次女のジェラートよ。ブライトの幼馴染だったはず。どうかしたの?)


(その子だけステータスが見えないんだ)


 他の令嬢は僕のことを邪魔者と思っているのかステータスが見えるのだけど、ジェラートさんだけは見えない。どうしてだろう。


(きっと決闘相手のことより何よりブライトの事が心配でたまらないのよ)



 決闘の承認をした陛下はいらっしゃらない。

 エリアいわく、『面白いから許可したが、結果のわかるものをのんびり見るほど暇ではない』だそうだ。



◇◇◇



 時間になる。

 両者に決闘専用の殺傷力の比較的低い武器と軽鎧が渡される。

 僕は片手剣と短剣、ブライトさんは槍だ。




「逃げずにきたではないか。誉めてやろう」


 しょっぱなからこれだよ。


「クラウス=オルランドです。今日は良き闘いとなるよう願っています」


「……ブライト=ノーベルンだ。その余裕、セイン流免許皆伝の我が槍で打ち砕いて見せよう」


 セイン流といえば、槍術の実戦派で最も有名な流派だ。

 ウォーレンさんも少しだけ習っていたという。



「立会人を務めるは、エリアリア=ティンジェル。両者、準備はよろしいですか。いざ尋常に勝負!」





◆◆◆◆◆◆


 いつもお読みいただきありがとうございます!


 茶番が始まります。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る