第95話 任務完了
いったん王都に戻ってエリアに将軍のサインを渡したあと、もらった地図を頼りにおよそ4日かけてカイル帝国を見て回った。
散発的に発生するテロを鎮圧しているためか、軍隊は強力そうだ。
かといって練度で王国が劣っているとも思えないけど。
また、戦闘用の魔道具が発達している。
これは非戦闘員に魔道具を持たせて突撃させ、使い捨てにする戦術があるからだ。
王国だと戦闘用の魔道具は直接魔法を発動するより効果が弱い場合が多いし、非戦闘員を使い捨てるなどという非道なことはしないので、帝国ほど開発に力を入れてはいない。
せいぜいMPが切れた場合の非常用という意味合いしかもたない。
あと、帝国にはシビルカードはない。
冒険者ギルドや商業ギルドなどがあり、それぞれが独自にカードを発行している。
そのため一元管理ができておらず、なりすましなども簡単にできるようだ。
その辺の冒険者ギルドで試しに登録してみる。
さすがに魔力紋の登録は必要だが、今の僕は魔力紋を適当に偽装できる。
名前もフェイク、として登録しておいた。
ギルドの仕組みは王国とあまり変わらないが、王国の履歴と共通しているわけではないのでただの新人冒険者だ。
懐かしい。
ちょっと近くのB級ダンジョンを2時間で制覇してきた。
難易度はあまり王国と変わらないようだ。
ボスの魔石を納めると、期待の新人と騒がれたので適当に逃げてきた。
◇◇◇
そして皇帝のお膝元、帝都チェルウッド。
帝国の東に位置し、後ろに海を臨む。
これは初代皇帝が固有スキル【背水の陣】を持っていたことが由来のようだ。
このスキルは後がない状態に陥ると、指揮する軍のステータスが3倍に上昇したという。
帝都はとても美しく、白亜の都と言い換えてもいい。
帝都を囲う外壁すらも白い。
そのかわり、ここへ来るまでの街はほとんどが
帝国の富を帝都に集中させているからだ。
一極集中が効率的なのかもしれない。
王国は全体的な発展こそが国民のためになると考えているのとは大きく違う。
考え方の違いはどうしようもないが、王国の方が住みやすいのではないかと思う。
帝都の武器防具屋も充実しているが、その分お値段も高い。
家が軽く何件か建ちそうだ。
酒場は昼間っから繁盛している。
娼館もだ。
城下町の様子はほどほどにして、本命の帝城に近づく。
当然、入ることはできない。
だが、依頼の際に帝城を必ず見ておくこと、と念押しされている。
夜になるまで待って、【浮遊】で城壁を越えてお邪魔します、だ。
もちろん姿は隠している。
侵入者感知用の魔道具も、時空魔法により存在を隠せば役に立たない。
夜でも物々しい警備。
一応皇帝の執務室まではお邪魔しておく。
さすがに寝室まで覗くのはやりすぎだろうと思うので、やめておく。
大まかな見取り図を作ってから撤退だ。
明くる日、国境の街に転移して出国の手続きを行う。
そしてサウスタウンの手前まで転移し、入国の手続きを行う。
面倒くさいが国使であるうちは仕方がない。
ギルドでエリアに国使のメダルを返却して、依頼終了だ。
依頼という形ではあるが、貴族としての責務の一環なので目に見える報酬はない。
金貨程度はもらえるが。
◇◇◇
次は王国の地図作成だ。
僕が作れるはずないので、王宮の職人さんを浮遊させて国を見て回るだけのお仕事だ。
職人さんも最初は驚いていたが、慣れると宙に浮きながら地図を書いていた。
さすが本職。
一週間ほど地図職人のお手伝いをして、ギルド本部に戻るとエリアとヴェインさんがいた。
「よう、クラウス。早速だが、この間受け取った虹色の魔石だがな、王立魔術研究所が白金貨4枚でお買い上げだ。それと、S級の魔石は一度に納品を100個までにしてくれ」
「わかりました」
「しかしクラウスがエリアリア様と婚約とはなあ」
「あれ、ヴェインさん、エリアさんのこと知ってたんですか?」
「まあな。俺もマリー殿と同じくエリアリア様の護衛を兼ねていたんだよ。メイベルのギルドの他の連中に知られるわけにはいかねえから、ただの受付嬢として扱っていたがな。不敬罪でしょっ引かれるんじゃねーかって怖かったぜ」
「あらヴェイン、王家の名にかけてそのようなことはしないと伝えていましたわ」
「メイベルにいたとき、そんなことになってたんですね……」
メイベルにいたときエリアに対するヴェインさんの態度が時々不自然だったのはそのせいだったのか。
そしてギルドから家に帰ってくると、初老の執事のメイヤーさんから手紙を渡される。
メイヤーさんは、エリアと2回目の食事をしたときに僕たちを案内してくれた人だ。
元々王宮勤めで、エリアがメイベルにいた際も執事を務めていた大ベテランだ。
「クラウス様、ノーベルン侯爵家長男ブライト様から決闘の申込みがございました」
◆◆◆◆◆◆
いつもお読みいただきありがとうございます!
執事さんは第27話、第40話にほんの少しだけ出ています。
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