第94話 話し合い(物理) 

「使者殿、どうぞこちらへ」


 先程とは打って変わって丁寧な態度で、指揮官室に案内される。


「お初にお目にかかります。ティンジェル王国の使者、クラウス=オルランド伯爵と申します」



「貴殿が王国からの使者か。確かに使者の証のメダルも持っておる。だが……若すぎるな。しかもたった一人で来るとは! ティンジェルはよほど人材に窮しているとみえる。そうは思わぬか、お前達!」


「ふふ、ははは、さようでございますな、将軍閣下」


「……こちらがザンボー将軍宛ての書状でございます」


 外務大臣から将軍宛てに預かっている書状を手渡す。

 将軍はぞんざいに片手で受け取り中を一読する。



「……ふふっ、はははっ、王国はおかしくなったのか? やはり平和ボケした国はいかんな。そう思うだろう、お前達も」


 そう言いながらザンボー将軍は隣の副官に書状を渡す。


「…………。国全体で夢でも見ているのではないでしょうかね。『魔の聖域を横断する街道を整備するから承知いただきたい。交易の条件の詳細については開通後協議されたし。我が国に其の国への侵略の意図はなし』と。お笑い草ですな」


 副官も蔑むように書状の内容を簡単な読み上げひとしきり仲間と共に笑う。

 

 少しして、ザンボー将軍がこちらを見る。


「さてさて、使者殿よ。このような世迷言を弄しに参ったのか? このような内容とてもではないが皇帝陛下に奏上できぬわ。急ぎ帰られると良かろう。途中で魔物に食われぬよう気をつけると良いぞ」



 部屋中にクスクスと嘲笑がこだまする。

 

「私の任務は我が国王陛下の書状をザンデ皇帝陛下にお届けすること。それが果たせなければ帰れません。それに黙って聞いていれば我が国への侮辱の数々、ただでは引き下がれません」


「ではどうするというのだ?」


「力を示せば良いのでしょう? 砦の者が死んでもこちらの責任は問わないと一筆したためて下さい」


「そんな必要はない。貴様の力など見る必要はない」


 次の瞬間、僕はメタルブレードを将軍の首に後ろから当てていた。


「動くと将軍の首と胴体がお別れです」


 タイムストップで少し世界の時間を止め、ディメンジョンボックスからメタルブレードを取り出して将軍の後ろに移動して、タイムストップを解除した。


 みな唖然としていたが、いち早く状況を理解した副官が叫ぶ。

 

「……閣下!」


 副官が叫ぶと部屋が一瞬で殺気に溢れ、部屋にいる者たちが武器を抜こうとするが、



「動くな!」



 と【威圧】スキルを発動する。

 将軍以外は金縛りにあったように動けなくなった。

 将軍から交換したスキルがすぐに役に立った。

 これは使用者のレベルに依存する。

 僕のレベルは255だから、確実に効果を発揮してくれた。

 



 しかし僕に隙ができたと思ったか、将軍の右手に動きが見えた。

 ので、右腕を胴体からお別れさせた。

 血が飛び散って書状が汚れると困るので火魔法を付与して傷口も焼いておく。

 そして再び将軍の首に剣を添える。


「ガアァッ! ……グッ」


 さすが戦闘に慣れてるだけあって、呻き声をすぐに抑え込んだようだ。


「馬鹿な! 閣下の【神速の抜剣】スキルが通用しないなんて!」


「僕の話を聞いて下さい」


「……っ、わかった。話を、聞こう」


「ではみなさん、動いていいですよ」


 【威圧】を解く。

 僕はゆっくりと歩いて、元の場所に戻る。


 動けることを確認した副官が、


「閣下、すぐにお手当を!」


「その必要はないです。フェアリーヒール」


 将軍の上から光の羽が舞い降り、右腕が元に戻る。

 フェアリーヒールはセレスティアルヒールの単体用だ。

 あ、逆かもしれない。

 フェアリーヒールの全体版がセレスティアルヒールなのかも。



「まず、先程あったことはみな忘れてもらいます。いいですか?」


「「「「「…………」」」」」」


「不服な人がいるみたいなので、もっと力を見せます」


 僕はある軍人に向き直り、


「テトラスラッシュ、ファイアボール」


 バラバラに斬った後、初級の火魔法を一瞬だけ展開し焼き尽くす。

 この世からお別れだ。

 ふいに窓から風が吹き、わずかに残った灰もどこかへ消えていった。


「僕がなぜ一人で来たかというと、だからです」


 転移で移動できるから旅費があまりかからないってのもあるけどね。


「わかった。もうやめてくれ。これ以上戦力を減らされると皇帝陛下からお預かりしているこの地を守れなくなる」


 将軍が何か言ってくるので、


「なら次は戦力として減ってもいい人を将軍が指名して下さい」


「もうわかったと言っているだろう! お前達も先程のことは全て忘れるんだ、いいな! ニクソンのことも含めてだ」


「「「はい! 将軍閣下!」」」


 先程犠牲になったニクソンは、砦の三番目の実力者。

 ザンボー将軍に心酔しており、この場が終わったら背後から僕を襲って殺そうと考えていた。

 一番の実力者である将軍が手も足も出ないのに、どうして僕を殺せると思ったのだろう。



 僕は剣を納めて、話したかったことを続ける。


「では、この書状を皇帝陛下に届けていただきたい。それと、書状を受け取ったことと、皇帝陛下にお届けすることを確約するこの書面に将軍のサインをお願いする」


「わかった。必ず皇帝陛下にお届けしよう」



 ザンボー将軍のサインをもらい、国王陛下の書状を手渡して(今度はちゃんと両手で受け取ってくれた)、これで終わりだ。


「ありがとうございます。ではこれで失礼します。次は敵として会わなければいいですね」



 僕は砦を去る。



 あ、国や僕を侮辱されたこと謝ってもらってなかった。

 でももう砦を出てきてしまったしもういいか。

 彼らの心も折れてたし。




◇◇◇




(なんなんだあの化け物は……)


(完全回復魔法も使っていたぞ。教皇クラスの魔法じゃないのか)


(敵として会ったら全力で逃げよう……)


「…………。お前達、忘れろ。ニクソンは任務中に名誉の死を遂げたのだ」



 指揮官の部屋では残された者たちが沈んだ雰囲気のなか、それぞれがクラウスに恐怖していた。




◆◆◆◆◆◆


 いつもお読みいただきありがとうございます!


 たまにはクラウスに悪役をやらせたいなー、と思いました。

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