第97話 決闘の結果
まずは、二人とも軽く様子見だ。
適当に打ち合う。
言っては悪いが、技量以前に埋められないステータスの差がありすぎる。
向こうは達人だろうけど、僕は達人ではないので手加減が上手くできない。
なので【捕縛術】スキルの手加減を常時使っている。
ちょっと遊んでみるか。
「直刺剣!」
【初級剣術】のスキル。
最短距離で突きにいく。
「甘い!」
僕の予想に反して直刺剣はあっさり躱され、素早い振りの槍が襲いかかってくる。
「旋風槍!」
ガキン、と無理矢理引き戻した剣で槍を受け止めた後、僕はバックステップで距離を取る。
「フッ、その構えディアゴルド流だろう? 僕もよく知っているよ。しかし構えが半端で美しくないな」
うるさい。
そんなこと分かってる。
冒険者なんだから生き残ればいいんだよ。
端正な顔の彼が言うと余計腹が立つ。
「直刺剣とは舐められたものだ。最短距離で突きにくるなら動きのパターンは自ずと決まってくる。対人向きではない。素人か?」
彼はエリアを意識してか、少し大きな声で話してくる。
「行くぞ、隼迅槍!」
目にも止まらぬ槍の二連撃が繰り出されるが、僕の素早さからするとかわすのは簡単だ。
「清流剣!」
これは躱されなかったが、槍で防がれている。
「くっ、重い……」
腹立ったから少しだけ力を込めたしね。
その後も何度か打ち合い、【初級剣術】と【中級槍術】を交える。
だが、そろそろMPが切れる頃だろう。
案の定、
「このまま時間を潰すのは観客に悪いし、美しくない。お互いの最大の技で華麗に決着をつけようじゃないか」
ときたので、
「いいですよ。どのタイミングでいきましょうか?」
「立会人の殿下にお願いしよう」
「では、五つ数えます。ゼロになったら技を繰り出しなさい。よいですか。……五、四、三、二、一、ゼロ!」
「セイン流奥義、迅雷疾風槍!」
「鳳凰滅刃!」
風と一体化したような速さで緑のオーラをまとい槍を構えて突進してくる。
僕は赤いオーラを纏わせた剣を振り下ろして迎え撃つ。
激突する緑と赤のオーラ。
技同士の衝撃によりあたりに火花が舞い散り、観客たちは息をのむ。
勝負は一瞬でついた。
「ぐはっ! …………」
上級剣術の鳳凰滅刃から生じる赤い衝撃波に打ち負かされボロボロになったブライトさんは後ろの壁まで吹き飛び全身を強打する。
そして気絶したようだ。
「それまで、勝者、クラウス=オルランド!」
エリアが宣言し、それまで無言で観戦していた僕の陣営から喝采があがる。
◇◇◇
「くっ、まだだ……」
どうやら目が覚めたらしい。
少し時間が経ったとはいえ驚異の回復力だ。
彼の元へ壮年の男性がやってくる。
慰めるのかな、と思いきや冷たい目をして彼を見下ろしている。
「愚か者め。約束通り、次期当主の座は剝奪だ」
ん?
決闘って賭けるのは本人の名誉だけのはずだよね。
勝ったはずの僕は思わず聞いてしまう。
「決闘にそのような事項はなかったはずですが?」
とたんに現侯爵家当主がこちらを向いて一瞬で笑顔になり告げる。
「これは、オルランド伯。叙任式のパーティでお会いして以来ですな。我が愚息が迷惑をおかけしなんと詫びればよいのやら。この愚息は殿下のご婚約候補者のことを知るや否や伯と決闘すると騒ぎ出しましてな。止めましたが、私の目を盗んで陛下に決闘状を提出し許可されてしまいました。そこで、決闘に負けた場合は次期当主の座を降りることを約束させたのです。すなわち決闘外での出来事であるゆえ、口出し無用に願いたい」
「クラウスよ、これはノーベルン家の問題である。お主が気に病む必要はない」
「はい、侯爵様」
スタン侯爵様が重ねて教えてくれたので、もう何も言わない。
そして、ブライトさんについてきた令嬢たちが次々と帰っていく。
「待てお前達、なぜ……」
「もう次期当主じゃないんでしょ」
一人が冷たく言い放つ。
そう、この令嬢たちはそれぞれの当主に言われて次期当主のブライトさんの気を引いていただけなのだ。
そんななか一人の令嬢がブライトさんに近付く。
「ブライト……」
ジェラート嬢は上等な服が汚れるのに構わず、ブライトさんの前に膝をついてその手を取る。
「ジェラート…… なぜ残っている」
「清き水精、癒しの力を我に与えよ、アクアキュア!」
みるみるうちに水色のオーラがブライトさんの傷を癒していく。
あれは【上級水魔法】の回復魔法だったはず。
「どうして…… 私はもう次期当主ではないのだぞ」
「そうじゃないの。陰で訓練している貴方が好きなの。怪我をしてこっそり私のところに治癒の依頼に来てくれたの、とても嬉しかった。人前では優雅さや華麗さを前面に出すのに、それを維持するため裏で人知れず頑張ってるあなたの姿が好きなの。私はあなたのために水魔法を修得して、セイン流の免許皆伝となったあなたに追いつけるよう【上級水魔法】も使えるようになったの」
そういうとジェラート嬢は座ったままでブライトさんに抱き着いた。
「あなたが殿下のことを好きなのは知っている。だって私があなたを見る瞳と同じなんだもの。でもいいの。それでもいいからあなたの傍にいたいの」
「……すまなかった。立てるか?」
「ええ」
二人は立ち上がる。
ブライトさんは僕に向かって、
「クラウス殿、すまなかった。私はすぐ近くにある大事なものが見えていなかったようだ。目が覚めたよ」
「はい」
「この詫びはまたいずれ。帰ろう、ジェラート」
二人は練兵場の出口に向かう。
ジェラート嬢はブライトさんの後ろを歩こうとする。
「ジェラート、私の隣に来てくれないか。私の傍にいていっしょに歩いてほしいのだ」
「はいっ!」
◆◆◆◆◆◆
いつもお読みいただきありがとうございます!
唐突に甘々でベタな恋愛ものを書きたくなった。
てか番外編のほうがよかったかもしれない。
ブライトはそこそこ強いです。
同年代なら敵はいないくらいに。
相手が悪すぎるんだよ……
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