第85話 叙任式 1
スタン侯爵様のお屋敷で貴族の礼儀作法を教えられ、その合間にクロエ様の剣術の稽古につきあいつつ、ミストラルさんとS級ダンジョンに潜る忙しい日々が続いた。
近くのS級ダンジョンは『ロックドライブラリー』。
B級ダンジョンの『封印されし野望』のS級ダンジョン版だが、こちらは固有スキルに加えてステータス上昇系のスキルも効果を発揮しなくなる。
また、S級ダンジョンにはプレイスメントがない。
なので一度入れば帰還石を使うかボスを倒すまでは出られない。
そのためか階数はおよそ60階前後とA級ダンジョンよりは控えめだ。
僕の場合、ステータスがだいたい2/3くらいに落ちる。
それでも十分高いはずなので暇を見つけては転移で移動して少しずつ攻略してきた。
ここの敵は本型の敵が多い。
属性別に色がついている本で対抗する属性攻撃でないと倒せない。
メタルブレードに各種セイバー魔法をかけて本を切り裂いていく。
本好きからしたら耐えられない光景だろうけどれっきとした魔物なのだ。
上級魔法をバンバン撃ってくるし、近づいて本が開くと凶悪な歯並びの口を開けて噛みつきにくるのだ。
耐久力はあまりないくせに属性がバラバラなお陰で魔法で一掃しづらいのも面倒だ。
20階ほど進んだあたりで一旦やめて叙任式を迎えることになった。
◇◇◇
スタン侯爵様と同じ馬車に乗り王城に入る。
心臓がドキドキする。
「お主でも緊張することがあるのだな」
「からかわないで下さいよ、侯爵様。ついこの前までただの平民だったのですから」
「こんな若さと速さで正式な爵位を得る平民なんぞ初めて見るわ。時代の変わり目なのかのう……」
この日のために設えた貴族用の服が心なしかキラキラしている。
専用の個室でしばらく待つ。
中には専用の衣装係が控えていて、手際よく僕の服装や髪型を手直ししていく。
じっとしているのも結構しんどいものだ。
そして、スタン侯爵様と共に呼ばれる。
大広間に続々と貴族達が集まってくる。
僕は王様のいる側から見て右側に並ぶ。
もちろんキョロキョロすることが許される訳ないので、顔を拝見することはできない。
◇◇◇
「ランダル子爵、そなたを伯爵に任ずる」
そして宰相様から右肩に、ついで左肩に剣が軽く置かれ、ランダル伯爵が忠誠を誓う。
この人の次が僕だ。
「クラウス準男爵、前へ」
思わずはい、と言ってしまいそうだが、この場合は無言で目線を上げることなく所定の場所へ進むのが正解らしい。
呼ばれても返事してはいけない、というのは未だに慣れないものがある。
そして、膝まづいて頭を下げたまま宰相様の言葉を黙って聞く。
「……よって、これまでの功績に鑑み、伯爵に任ずるものとする」
そして、宰相様ではなく国王様が儀礼用の剣を携えて降りてきた。
ざわ…… ざわ…… ざわ……
場がざわめく。
男爵、子爵を飛ばして伯爵だ。
何に叙爵するかは事前に教えてもらえなかったので、多分僕を驚かせたかったのだろう。
せいぜいのところ男爵に上がるものと思っていたので驚いてはいるが、厳しい訓練の賜物か顔に出すほどのことではない。
そして国王様が降りてきて僕の右肩に、ついで左肩に軽く儀式用の剣を置く。
「我が国の繁栄を希求し、月と剣の紋章に絶えざる忠誠を誓う」
事前に教わった言葉をそのまま紡ぎあげる。
「面を上げてよいぞ」
国王様が小声で僕に告げる。
事前に教わった手順にこれはなかった。
ていうかこの声どこかで聞いたことがあるような……
あせった僕にテレプレート経由でこっそりエリアが語りかけてくる。
(そのまま言うことを聞いて。顔をゆっくり上げるのよ)
顔を上げるとそこには、髪の毛を逆立てて決め顔のカイゼル髭のダンディがいた。
ん、これってエリアのお父さんなのでは……
「驚いたか。そのまま目線のみ少し左へずらしてみよ」
できるだけ顔を動かさず、左を見るとそこにはエリアがいた。
(エリア、なぜそこにそんな笑顔で? 僕の目の前にいるのはエリアの父上?)
(そうよ。驚いたでしょ。声を上げなかったのはさすがスタンおじさまの訓練の賜物ね)
そう、2週間の訓練で一番厳しかったのが何があっても余計なことをしゃべらないことと顔に出さないことだったからね。
「宰相、続けよ」
「はっ。クラウス準男爵は、伯爵位を授かったことにより、オルランドの名と領地として『魔の聖域の一部』を与えられる。これより、クラウス=オルランド伯爵と名乗るべし。我が国に繁栄と安寧をもたらすことを期待する。最後に、クロスロード国王陛下より皆にお言葉がある」
「ティンジェル王国第三王女、エリアリア=ティンジェルの婚約者第一候補として、クラウス=オルランドを選定する。以上」
え?
(今度こそ顔に出たわね。クラウスを驚かせようと思ってお父様に交渉したかいがあったわ)
◆◆◆◆◆◆
いつもお読みいただきありがとうございます!
一話から引っ張ってきたエリアの正体がクラウスにとってここで判明しました。
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