S級昇格編

第84話 S級昇格 

「よう、クラウス。今日からS級だぞ」


「あれヴェインさん、久しぶりですね」



 2週間後にある叙任式に先立ってギルドに行くとS級への昇格を知らされた。

 それを僕に通知したのはメイベルにいるはずのヴェインさんだった。


「もしかしてヴェインさんも異動になったんですか?」


「そうだ。ワーズワースの野郎が俺を後任に指名していきやがったのでな。訳のわからんままここに来て最初の仕事がお前のS級昇格通知だったんだぞ」


「ワーズワースさんを知っているんですか?」


「元パーティメンバーだ。俺と前衛を張ってたんだ。やつの拳は魔物を粉砕していたよ」


「マッハパンチですか?」


「そうだ。音速の拳を受けて無事でいられたやつはいなかった。勢い余って俺の盾をぶち壊したこともあったな」


 まあ確かにあの威力ならあり得るな。




「さすがクラウス君、もうS級なんて。ギルド本部に異動を願い出た甲斐があったわ」


 アーチェさんも一階の受付にいた。

 異動してきたようだ。

 でも次からは2階のお世話になるんだよね。

 そして多分受付はエリアになるのだろうから、僕を追いかけても無駄だと思う。



「あ、あとな、A級ダンジョンに潜るのは控えてくれよ」


「はあ、どうしてでしょうか?」


「クラウスが魔石を短期間で大量に納品するもんだから、魔石の買取価格を下げざるを得なくてな。他のA級から誰がそんなに納品してやがるんだって言われてるんだよ。さすがに現役のA級だとワーズワースといえども抑えるのが大変だったらしくてな。クラウスのことはバレてないと思うが、一応気を付けてくれ」


 そんなことになってたのか……。


「異例のS級昇格はそういう理由だったのかもな。S級なら金に困らねえし、貴族でもあるしな。魔石で国に納める税金の代わりにもできるから、S級ダンジョンならじゃんじゃん稼いでいいぞ」



◇◇◇



 とりあえず2階に上がって受付に行く。

 もちろん、エリアがいる。

 S級には一人一人専属の担当がつくとのことだ。

 当然エリアを指定する。



「クラウス、叙任式が控えているわ。だから、王宮での作法を覚えてもらわないといけないの」


「やっぱりそうなるよね……」


「そうでなくてもS級は貴族なのだから、ある程度貴族社会のことは知っておかないとね。そういうことのために推薦した貴族のところで礼儀作法を学ぶことが必須になっているわ」


「ということは、僕の場合スタン侯爵様だね」


「そう。2週間で覚えこむのは厳しいかもしれないけど、いざとなれば秘密兵器があるわ」


「?」


「あなたがくれたテレプレートよ。おかしなところがあればすぐさま私が指示するからね」


「ありがとう、エリア」


「どういたしまして」



◇◇◇



 2階から降りていこうとしたとき、今度はナナさんに会った。


「やっほー、クラウス君、久しぶり。さあ、ここにいるってことはどれだけ強くなったのかな…… うそ、どういうことなの……?」


「ナナさん、どうかしたのですか?」


「意味がわからないよ。クラウス君のステータスが見えないよ。私の【鑑定】が封じられた? いや、そういうわけじゃなさそう。どういうことなの、説明して!」


「説明して、と言われても…… 別に何もしてません」


「こうなったら実力ででも……」


「ナナさん、あなたのステータスとスキルが見えてますよ」


 警告の意味を込めてナナさんに告げる。


 固有スキル【陰陽術】【鑑定】【最大MP2倍】と。

 【陰陽術】の『心象操作』で僕のことを一時的に操って秘密を聞き出そうとしているらしい。

 ただし、相手のステータスが高すぎると効かないようだ。

 他には『魔力吸引』もあって、MPを相手から吸収できるとある。

 あいも変わらず異世界人のスキルは強力すぎる。



「えっ、あっ、やばっ! 私のスキル見えちゃった? ごめんね、何もしないから。内緒にしといてよ! でも【鑑定】が通じないのは何でかな? こんなの初めてだよ」


 そういうとすぐにナナさんのステータスとスキルが見えなくなった。

 切り替えの早い人だ。

 ステータスはS級だけあって高かったが、僕と交換できるほどではない。


「【鑑定】が通じない理由は僕にもわかりません。僕は【鑑定】持っていないですし」


「……そう、残念。じゃあまたね」


 あまり納得していないようだが、僕にもわからないからしょうがない。



 そうだ、クラウディアさんなら何かわかるかも。

 スタン侯爵様の屋敷に行く前にちょっとクラウディアさんの家に転移してみた。





◇◇◇





「あー。それね。人間が修得できる【鑑定】って、精神が5000までの人間しか見えないからだよ。それ以上の相手だと何も見えなくなるよ」


「そうなんですか。万能スキルだと思っていたんですが」


「人間基準なら万能だと思うよ。5000以上いた人間なんて私が知る範囲なら過去に一人いたぐらい。【レベル限界突破】を持っていて、人生の全てをレベル上げに費やした変人が死の間際に5000超えてたんじゃないかな。ついでに【必要経験値減少】だったかのスキルも持っていて、最後はレベル700ぐらいになってたと思う。人間のレベル限界は255だから、そいつも人外だったよね」


「いろいろなスキルがあるものですね……」


「何を他人事のように言ってるの。【MP限界突破】のほうがよほど人外だよ」






◆◆◆◆◆◆


 いつもお読みいただきありがとうございます!


 エリアがテレプレートでクラウスの挙動を見て指示できる、ということは叙任式に立ち会えるほどの地位にいるはずだろうと予測がつくかもしれませんが、残念ながらクラウスは気がつきません。

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