第79話 辺境からのSOS

「【浮遊】スキルをお主の固有スキルということにしておいたらどうか、ということになっておってな」


 ブラックギルドのマスターを捕まえてから数日後、僕はスタン侯爵様の執務室に呼ばれていた。


「ブラックギルドを誘き出す際にヘルコンドルを容易に狩れるという設定のため、【浮遊】スキル持ちということにしておいた。これだけでも十分強いから本当のスキルを誤魔化せるだろう」


 それでもいいか。

 風と地の魔法をマスターすれば誰でも使えるんだけど、偽装するにはちょうどいい気がする。


「はい。いいと思います」


「この件が片づけば、陛下に叙爵を奏上しよう。今しばらく待ってくれ」


「わかりました」


 侯爵邸を辞して、次は軍に協力だ。


 ブラマス達の記憶を読み、洗脳されてしまった人や、ブラックギルドと知りつつ協力した人間の一覧をすでに軍に渡し、僕も捕縛に参加している。


 その中で、洗脳されていた人間をこっそり『アンチカース』で治すのが今日のお仕事だ。

 一応ギルドを通じた依頼になっていて、A級ダンジョン一つ分をクリアした扱いと、白金貨をもらえることになっている。


 洗脳されていた人間はなるべく罪を軽くして処断するそうだ。

 とはいえ、金銭的な賠償は免れない。


 加担していた人間のうち、主要な人物は極刑だ。

 その者たちの資産で被害者に補償することになる。


 ワーズワースさんは洗脳されていたが、最後にブラマスを助けに行こうとしたこと以外は特に悪事を働いていない。

 その脱獄の手助けも僕が阻止している。

 しかし、本人は納得せず何らかの刑に服するべきと主張しているらしい。

 既にギルド本部の統括部長は辞めている。

 


◇◇◇



 ブラックギルド関連もようやく一息ついたあたりで、ダンジョンの続きだ。


 ミストラルさんからは、


「今度はどんなに強くなったんですか?」


 と聞かれたが、正直そこまでの成果はなかった気がするので、


「【目利き】が手に入りました」


 とだけ答えておいた。

 あ、【リボン】のこと伝え忘れたけど、また今度。



 そして、二人でメイズフォレストの90階に転移し、そこから森を一直線に焼き払いつつ最後の120階に到達。

 一応プレイスメントを使っておいた。


 ここのボスは、エインシェントトレント2〜4体。

 わさわさと葉を茂らせ、大きな幹の木目が年を経て賢そうな人間の顔に似ているので、森の賢者とも言われ固有の樹木魔法を使ってくる。


 今回は3体出てきた。

 見た目と違いそれなりに移動でき樹木魔法により分裂したりHPを吸い取る種攻撃があるが、トレント系の例に漏れず火魔法に弱い。


「ファイアボール」


 初級の火魔法を真ん中のエインシャントトレントに当てると、その魔法の余波で残りの2体もほぼ同時に燃え尽き、魔石とドロップの古木の杖を残していった。


 

 ギルド本部で納品したあと、宿舎に戻ると布団が新品に代わっていた。

 ヘルコンドルの羽毛100%の超高級布団だ。

 軽くて布団の重みをまったく感じない。

 また、使用者の体温に応じて自動で暖かさを調節してくれる。

 ぐっすり眠ることができた。



 翌朝、朝一番でギルドに行き手持ちのヘルコンドルの羽毛を納品する。

 ウォーレンさんとの約束だからね。


 その後は、メイズフォレストの120階に転移し、ボスをファイアボールで焼いて、また外に転移して、また120階に転移して、を繰り返した。


 翌日も同じことを繰り返して、レベルが120まで上がった。



 そして、僕が記憶を読むために会ったブラックギルドの犯罪者の中から適当にレベルの低い人と交換する。





 ふと、テレプレートに反応がある。


(クラウス、お願いがあるの。今すぐ私のいる場所に来てもらえないかしら?)


(わかった。今から行く)


 ミストラルさんに断りを入れて、すぐにエリアのところに転移する。

 転移した先は、スタン侯爵様の執務室だった。

 なんか最近このパターン多いな。



 エリア、スタン侯爵様、マリー様がいる。


「……エリアさん。何かあったのですか?」


 うっかりエリアと呼び捨てにするところだった。


「儂から話そう。辺境軍から緊急の連絡があってな。『魔の聖域』で急激に大量のS級モンスターが発生し、あの精強な辺境軍が救援を求めてきた。早馬で来ているから、2、3日前の状況だ。今はもしかすると辺境軍が崩壊しているかもしれん。そこで、クラウスに急ぎ向かってもらいたい。ここに王からの書状を預かっておる。スピネル卿に見せれば自由に動けるだろう」


「【浮遊】スキルもありディメンジョンボックスもあるからまずは足りないであろう物資の輸送。それと、A級ダンジョンの魔物は弱くて物足りないだろうから魔物の殲滅をしても構わないぞ。魔の聖域の魔物は強いからな」


「ごめんね、クラウス、あなたを利用するような真似をして。でも辺境軍が崩れればこの国の内側に魔物が侵入してしまうわ」


「わかりました。エリアさん、マリー様。お二人には僕が冒険者になりたての時から助けてもらっていますし、力になりたいです」


「……能力はともかく、今時の若者に珍しく義理堅い人間であるな。軍の者たちにも見習ってほしいくらいだ」


「お父様、愚痴を言っている場合ではありません。クラウス殿の協力が得られると分かったのです。早急に準備し、向かっていただきましょう」




 そうして、食糧や武器防具、ポーション、魔道具などをディメンジョンボックスに詰め込んだ。

 精神の値が高いのでどこまで入るのか僕にも分からないが、マジックバッグではあり得ない量が入っている。



「では、行ってきます。あ、すみませんがミストラルさんにはうまく説明しておいてもらえませんか?」


「そのくらい簡単だ。では、頼むぞ」



◇◇◇



 辺境に近い街イーストクロスに転移し、そこから東の辺境の前線基地まで浮遊で飛んでいく。

 一人だから誰にも遠慮せず浮遊で移動できる。

 速度も気にしなくていい。


 10分もしないうちに着いたが、そこでは地獄絵図が展開されていた。

 


◆◆◆◆◆◆


 いつもお読みいただきありがとうございます!


 ランベールについては第35話、スピネルについては第36話参照です。

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