第78話 お子様 

「やっと効いたか。あの方の出番だ」




 別の部屋から出てきたのはワーズワースさんに怒られていた職員だった。

 見た目が派手になってるけど。



「テンプテーション! あたしの虜になりな!」



 桃色の光線が僕に向かって照射される。


 ワーズワースさんに怒られていた職員であり、実はブラックギルドのマスターだった女性の固有スキルは【テンプテーション】。


 対象を洗脳し、意のままに操る。

 発動時に対象が何らかの状態異常にかかっていれば成功する。

 洗脳された状態で濃厚な関係を結ぶと、洗脳状態が通常の状態と認識されてしまいもはや通常の状態異常回復魔法だと治せなくなる。

 【ダンジョンマスター】もそうだが、ずるいスキルだよね。




「拘束を解きな」


「解!」


 『無想封印』が解かれ、五感とスキルが戻ってきた。

 それと、物理的な拘束も解かれた。




「さあ、いい子だからヘルコンドルの羽根をゲットする方法を教えな」



「いい子じゃないです」



「はあ?」



 もういいかな。

 ステータスはみんな僕より低いし、スキルは固有スキル以外いらないものばかりだ。


「こっちですよ」


 僕はブラックギルドのマスターたちの後ろから声をかける。


「クラウスが2人!?」


「死ねっ!」


 反応の早かった五闇衆の一人が短刀を向けて襲い掛かってくるが、僕が展開した【時空魔法】の反射結界で衝撃を弾き返されそのまま気絶する。



「カツミがやられたようだな……」


「フフフ…… 奴は五闇衆の中でも最弱……」


「【浮遊】スキルごときにやられるとは【ニンジャマスター】の面汚しよ……」


「我こそが最強なのだ……」



 五闇衆が好き勝手に何か言ってる。

 カツミとやらより反応が遅かったくせにそのセリフはどうなんだ。



 うるさいので、


「『タイムストップ』」



 時が止まった7人を次々とゲートに放り込む。その先は王都の重犯罪人用の収容所だ。

 バインドチェーンと拷問官が待ち構えている。

 




 『タイムストップ』はもちろん【時空魔法】。

 自分以外の世界の時間を止めようとすると30秒ほどしか止められないが、対象を絞れば10分くらいは止めておける。

 さすがにクラウディアさんの【クロノスマスター】ほどは時を止めておけないが、これでも十分だろう。


 そして、僕は【時空魔法】の『アナザーワン』で召喚していた偽物の僕を解除する。




◇◇◇




 今日の夜、僕は布団に入ってすぐに『アナザーワン』を使い偽物と入れ替った。

 五闇衆が『無想封印』を発動してから、【テンプテーション】をかけられるまでの僕はずっと偽物。

 本物の僕は、存在を隠してずっと偽物の僕の近くにいた。


 【ダンジョンマスター】によって偽物の僕が消えたときは少し焦ったけど、『アナザーワン』から見えた視界をもとにダンジョンの中に転移することができた。

 『アナザーワン』の経験することは僕も同時に経験できる。

 ヴェルーガの永い経験が生み出したこの魔法がとても役に立った。




◇◇◇




「【浮遊】スキルが使えるだけじゃなかったのか…… まあいい。そろそろ奴が私を助けに来るはず」


 厳重な檻の中でブラックギルドのマスターは助けを待つ。





 コツン、コツン、と足音がして大柄な男の人影が現れる。


「助けに参りましたぞ。しかし、警備がザルなのはなぜなのか?」



「それはあなたに会うためにわざとそうしてもらったからです」



「ん、お子様か。いつからそこにいた?」


「ワーズワースさん、そこの人を脱獄させる気ですか?」


「そうだが。邪魔をするな、お子様。元S級の我輩の拳を受けてみよ! 音速の拳、マッハパンチ!」



 普通なら速くて避けられないだろうワーズワースさんの拳。

 だが、僕は手のひらで受け止める。

 ついでにスキルとHPと体力の成長率も交換しておく。


スキル

【ストロングⅢ】(←【ストロングⅠ】)

【バイタルⅡ】(←【体力上昇Ⅴ】)



「馬鹿な! 引退したとはいえ鍛錬は怠っておらぬのに」


「実験台になってもらいます。『アンチカース』!」



 眩い光がワーズワースさんを包み込む。


 光が止むと、ワーズワースさんが呆然としていた。


「『アンチカース』だと…… いや、それより我輩は操られていたのか。なんたる不甲斐なきこと!」


「記憶はあるんですか?」


「そうだ。我輩が何をしたのかも覚えておる。そこの職員と情を交わしたことも。今助けに来ようとしていたこともな。なぜか助けねばならぬと自然に体が動き、疑問にも思わなんだ」



 とにかく、ワーズワースさんは洗脳状態から解放されたようだ。


 ブラックギルドマスターの救出を邪魔する僕に攻撃をしてくる間、ワーズワースさんのステータスを見たが状態異常は何もなかった。

 でも、操られているのは間違いない。


 普通の魔法ではだめみたいなので呪いを解く『アンチカース』を試させてほしいとスタン侯爵に提案して誘い出してみたが、うまくいったようだ。

 ブラマスの思考を読み、夜にワーズワースさんが助けに来ることはわかっていた。




「そんな、私のテンプテーションが解けるなんて! 何のために酔わせた挙句こんなむさ苦しい男とヤったと思ってるんだ!」



 ワーズワースさんにいつも怒られていたじゃん、って思ったが、普段は特に何をさせるでもなく普通に振る舞わせていざという時だけ助けに来るよう命令していたらしい。


 危険なスキルだ。

 最も、内容が危険というだけで捕まったりはしないが、実際に悪用するとなると話は別だ。

 ましてやブラックギルドを率いていたとなるとただでは済まない。



「クラウス、手間をかけたな。我輩を連行していけ」


「何故です?」


「だから貴様は甘っちょろいなのだ。目の前にいるのは重犯罪者を脱獄させようとした犯罪者なのだぞ」






◆◆◆◆◆◆


 いつもお読みいただきありがとうございます!


 テンプテーションもダンジョンマスターもそれだけで主人公として話が書けそうな気がしますが、クラウスの踏み台になってもらいます。


 ↓ 短期集中連載をしています。こちらもよろしくお願いします。 ↓


『こつこつレベル上げ? 周回してレアアイテム? そんなことしなくてもすぐ最強! スキル【リバース】で全く苦戦しません!』


 架空の未来を題材にした現代ファンタジーです。

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