第77話 おとり大作戦 

「そんなに一度に納品すれば、羽根の価値が暴落だ。一部の貴族から恨まれるかもな。そうなると少しずつ納品すればいいが年単位だ。それではブラックギルドを釣り出せん」


「どうするのですか?」


「10枚ほどギルドに納品する。するとブラックギルドはおそらく納品者を突き止めにかかるだろう。クラウスにたどり着いたところで捕縛すればよい」


「クラウスに危険が及ぶのではないですか?」


「普通ならそうだが、クラウスだしな。本人が嫌なら別の方法を考えるが、羽根は提供してもらいたい」


「僕ならかまいませんよ。一応準男爵ですし、差し迫ってはいませんが『国難に対処する義務』があるのでしょう?」


「……すまんなクラウス。お主をみくびっていたようだ。無事に解決すれば叙爵を陛下に奏上しようではないか」


「ありがとうございます」


「では、5日後ギルドに納品してくれ。クラウスにたどり着きやすくなるよう細工しておこう。それまでは普段通りに過ごしておいてかまわぬ。それと、パーティメンバーのミストラルは巻き込まれぬよう、しばらく特別奉仕を命じておこう」


「ご配慮いただきありがとうございます」


「万が一人質に取られたりすると面倒だからな。それと帰りにクロエに会っていってやってくれ」


「わかりました」





◇◇◇





 クラウスが去った後の執務室でスタンとマリーは難しい顔をしていた。


「彼に頼ることになってしまいましたね」


「天の配剤かもしれぬ。この長らく悩ましい案件を一気に片付けられるとよいが」





◇◇◇




 ブラックギルドとは、非合法な者たちの集まりを指している。

 ギルド自体は、冒険者、商業、錬金術などがあるが、全て国の管理下に置かれている。


 別に自由に集まって活動すること自体に問題はないが、内容が後ろ暗いものだと総じてブラックギルドと呼ばれる。

 闇ギルドなどと呼ばれることも。



「既に冒険者ギルド本部にも配下の者がいる。このままさらに時間をかけて裏から支配を進めてやろう……」


 クラウスが敵になったことも知らずに、ブラックギルドのリーダーはほくそ笑んでいた。





◇◇◇




 ギルドに納品するまで1日は77階で少し稼いでおき、残りは王都とその周辺の街をひたすら彷徨っていた。

 【時空魔法】の転移は僕が行ったことない場所には行けないので、行ける場所を増やしておこうと思ったからだ。


 ちなみに、【ステルスサーチ】で気配を完全に断ちさらに【時空魔法】で僕の周りの空間を歪め、存在を認識できないようにして行動していた。

 クラウディアさんの王都での家に施されていた措置と同じだ。

 なんかこれって隠密活動みたいでちょっとかっこいいな、とか思いながら転移先を増やしていった。



◇◇◇



 ギルドでヘルコンドルの羽根を納品して3日後。


 宿舎の僕の部屋の周辺に、5人が潜んでいた。

 全員【ステルスサーチ】で気配を完全に遮断している。

 さらに僕の部屋に魔法陣を設置している。

 わざと知らないふりをして部屋でくつろいだあと、普通に布団で寝入った。





「……現世うつしよはかくも生きづらきものなり。されば汝、我欲を捨て、無我無私の境地に至るべし! 『無想封印』!」





 五人が星形の魔法陣の頂点に位置し、奥義を発動する。

 魔法陣が仄暗い光を発すると、僕は何も見えず、聞こえず、匂いもしなくなった。

 唾を飲み込んでみたが、味も感触もしない。

 なんと、スキルの発動もできない。




 僕を襲った五人は、『五闇衆ごあんしゅう』というらしい。全員固有スキルが【ニンジャマスター】だった。

 祖先が遥か東方にあると言われる幻の国の出身で、そこで独自に発達した陣術にわが国の魔法を取り入れた『魔法陣術』を使用できる珍しい固有スキルだ。




 バインドチェーンでぐるぐるに巻かれた僕は、抱きかかえられて王都とメイベルを結ぶ街道の中間地点に運ばれた。



「入れろ」


「ダンジョンマスターが命じる。この者たちを迎え入れろ」


 すると僕と五人はその場から消えてしまった。

 招き入れられた場所は建物の内部のようだが雰囲気はダンジョンのそれだ。


「ひひっ、今夜の獲物はこやつか。顔のいい若造だの。気に食わん」


「無駄口を叩くな」


「はいはい」


 たしなめられた人間を見てみると、固有スキル【ダンジョンマスター】を持っている。

 なんとダンジョンそのものを支配下におき、自由に改変できるとある。

 しかも、ダンジョンの入り口は景色と同化していて、出入りは【ダンジョンマスター】の許可がないとできない。


 これはアジトが見つからないわけだ。

 本人のレベルは低いのが救いか。

 せっかくなのでレベルとスキルを交換しておく。



LV:41(←152)

スキル

【目利き】(←【睡眠耐性Ⅳ】)



 これでダンジョン内の宝箱の中身に悩むことが少なくなるだろう。

 今まで開けた宝箱で怪しいものはディメンジョンボックスに入れっぱなしで、あとでまとめてクレミアン商会でみてもらおうと思ってた。



 ぐるぐる巻きのまま運ばれた僕は、十字の台の上に載せられ拘束された。

 動けない。


 そして、コポコポと口から紫色の怪しい液体を入れられる。

 見た感じ毒薬っぽいが僕に変化はない。


「……おかしい。毒状態にならない」


 だって【ウィークレジストⅤ】があるからね。

 『無想封印』は【ウィークレジスト】の範囲外みたいだけど。


 それから何度も何度もいろんな液体を少量ずつ飲まされた。

 効かないとわかる度に効果が強くなり、最後は一滴でも水源に垂らせば流域にいる人みんな死ぬくらいの毒を与えられていて、投与する側が殺してしまわないか心配になるくらいのものだった。

 そして、めでたく新しいスキルが生えてくる。


スキル

【リボン】(←【ウィークレジストⅤ】)(あらゆる不利な状態異常を無効にする)


 【ウィークレジスト】が進化してしまった。


 このままだと延々と薬を飲まされるだけで話が進まなさそうだったので、紫色をつけた魔力を顔にまとわせてみる。


「やっと効いたか。あの方の出番だ」






◆◆◆◆◆◆


 いつもお読みいただきありがとうございます!


 新しく短編の連載を開始します。本話と同時に投稿しています。


『こつこつレベル上げ? 周回してレアアイテム? そんなことしなくてもすぐ最強! スキル【リバース】で全く苦戦しません!』


 架空の未来を題材にした現代ファンタジーです。しばらくはそちらの連載が中心になると思います。

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