第70話 エルフたちの危機 

 クラウディアさんの【時空魔法】ゲートでエルフの故郷とつないだら、救援を求める音声が聞こえた。

 大変らしいが、僕にはよくわからない。

 エルフは人間世界に不干渉なら、僕もあえて関わらないほうが良さそうだ。


「なにやら大変そうですね。じゃあ僕はこれで……」


「ちょっと待って。あなたも何かの役に立つかもしれない。人間にしては強いし。いっしょに来て?」


「え? 僕を連れて行ってもいいんですか?」


「ああ、人間ってめんどくさい手続きがいるんだったわね」


 そういうとクラウディアさんはいつのまにか現れていた紙に何かを書いて、小さいゲートを開いてその紙を突っ込んだ。


「これでいいでしょ」


「えっと、何をしたんですか?」


「クラウスをしばらく借ります、って書いた手紙をクロスロードの所に送ったのよ。出国には国の許可がいるからね」


 なんかズレてるような……


「じゃあ行くわよ。私が開くゲートの後に続いてくぐってきてね」


 クラウディアさんはすぐ側にゲートを展開し、歩いてくぐる。

 その先は紫の異空間が見える。

 いい経験かもしれない、と思って僕もくぐってみる。



◇◇◇



 少しめまいがする。

 思わず目を閉じてからすぐに光を感じたので目を開けると、そこには濃い緑の森が広がっていた。


「私のゲートが邪魔されてるわね。ただ事では無さそう。ちょっと待って。結界を解くわ。……着いてきて」


 クラウディアさんの後に続くと、また景色が変わった。

 今度は木でできた家が並んでいる。

 見たところ街の規模はメイベルより少し小さいくらいか。

 とても静かだ。

 人がいる気配がしない。



「魔法の精度が落ちている。なぜ? とにかくユグドラシルまで向かいましょう。フロート」



 途端に、僕の体がフワッともち上がり、同じく空中に浮き上がり飛行するクラウディアさんに引っ張られていく。


 これは浮遊魔法ですか? 

 ユグドラシルって何? 

 って聞きたいんだけと、そんな雰囲気でもないので黙ってついていく。



◇◇◇



 しばらくすると、大樹が遠くに見えてきた。


「大きいですね……」


「世界の魔力を供給してるんだから当然よ。ここからなら跳べるわね。手を繋いで。『転移!』」


 クラウディアさんに触れると、また景色が変わる。

 さっきは遠くに見ていた大樹が目の前に現れた。


 根元には黒いエルフが浮かんでいる。

 

 あたりにはエルフたちが倒れている。

 起きている者も息絶え絶えだ。


「マスター! これはいったいどういうことですか!? ユグドラシルが変色しているではありませんか!」


「クラウよ、戻ったか。だが、打つ手はほとんどない。お主の『ラストメテオ』が最後の希望だ。残ったエルフから魔力を集め奴にぶつけるのだ」


「【ドルイドマスター】を持つマスターでも敵わないのですか? ラストメテオを使えば、この場所ごと滅びますよ」


「だが、ユグドラシルは生き残る。創世の世界樹だからな。結界があるから外も多少の被害で済むだろう」


「私死にたくありません!」


「ユグドラシルを死守するのがエルフに課せられた運命、いや罰なのだ。それに、どのみち奴に滅ぼされるからわずかの違いしかない」


「あの黒いエルフはなんなのですか! 見たことありません」


「昔の【ドルイドマスター】が封印していたのだが、私の代で復活してしまった。あと数千年は保つはずだったが……」


「あのスキル…… やばいわね。わかりました。マスター、できるだけ時間稼ぎを。クラウス、すまない、私とここで死んでくれ」


 何一つ分からないがここで僕は死ぬらしい。


 いや、さっきのゲートで僕だけ送り返してくれればいいんですけど。

 あまりに唐突すぎて言葉も出てこない。


 多分あの黒いエルフが世界を滅ぼす的な感じだろうが、雰囲気からするとゲートで逃げても追いかけてきて殺されそうだ。

 エルフなので僕の【交換】が通用しないし、どうにもできなさそうだ。



◇◇◇



 地面まで届く白い髭を生やしたマスターと呼ばれたエルフが黒いエルフの下に向かっていく。


 マスターから放たれる魔法は、歴戦の魔導師を思わせ、一発でもそのへんの街なら壊滅させられる威力があった。

 しかも右手の五つの指からそれぞれ同時に発動している。


 だが、黒いエルフが腕を振り払う仕草をしただけでマスターの魔法がかき消えていった。


「無駄だ。【ワールドデストロイヤー】の前ではそよ風にすぎん」


 逆に、黒いエルフの一本の指先から放たれる細長い光線がマスターに襲いかかる。

 なんとか防御魔法で凌いでいるが、あまり保たないように見える。



「『……漆黒の闇より来たれ、混沌の底から浮き上がれ。集いし星の力、全てを穿ち、全ての者に等しく絶望の終焉を与えん』 みんな、私に魔力を!」


「「「「「いいですとも!」」」」」


 クラウディアさんに膨大な魔力が集まる。

 目に見えるほどの濃密な魔力が渦を巻きはじめる。


「『滅びの化身をいざここに! ラストメテオ!』」


 詠唱不要なはずの【時空魔法】で詠唱を必要とする魔法。

 クラウディアさんの上空の空間が歪みはじめ、あたりの温度が上昇していく。


 現れた巨大な隕石が黒いエルフ目がけて落とされる。

 ユグドラシルごと倒しそうなんだけど……




「砕け散れ、ジェノサイドブレイカー」




 片手を掲げた黒いエルフのわずかな詠唱の直後、隕石に無数の亀裂が走り、跡形もなく砕け散る。

 呆然とするクラウディアさん達に、虹色の魔力の破片が降り注ぐ。



「そんな…… 【時空魔法】最大の禁忌の攻撃が……」

 

「いい加減うっとうしいぞ、カビの生えた老害どもが。我の邪魔をするな、死ね、エルフルーイン!」



 黒いエルフからいくつもの漆黒のドクロのオーラが浮かび、エルフたちに向かっていく。

 回避することもできず、エルフ達は息絶えていく。


「これで静かになったな。ん、なぜお前は無事なのだ? ああ、人間か。なぜここにいる? ここはエルフの領域だぞ」



 僕も来たくて来たわけじゃないんですが。

 見逃してくれませんかね。


「羽虫一匹いたところで変わるまい。そこで大人しく見ていろ。少しでも長生きしたいならばな」


 ちょっとだけ許された。

 というか、黒いエルフの視線だけで僕は動けない。

 これが格の差というものか。

 人間を超越したエルフの存在に、おそらく僕より遥かに高いステータス。


「老害どもよ、我がユグドラシルの呪縛を解き、世界を手にする様子を目に焼きつけながら死ぬがいい。そこの羽虫は記念に始末しないでいてやろう」







◆◆◆◆◆◆


 いつもお読みいただきありがとうございます!


 全くもって主人公の出番がないですが、次話くらいから活躍する予定です。

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