第71話 封印されし存在 

「あの黒いエルフはなんなのですか?」


 マスターはかろうじて生きているが、全てを諦めた様子で僕に答えてくれる。


「人間よ、お主には【鑑定】がないからわからんのか。奴の名はヴェルーガ。固有スキル【ワールドデストロイヤー】を持つ。固有スキルで使用可能な【破壊魔法】を得意としておる。エルフによる世界の支配を唱えておってな。数万年前に当時の【ドルイドマスター】の命と引き換えにユグドラシル内部に封印したのだ」


「マスター、そんなこと聞いたことないですが……」


「クラウよ、【ドルイドマスター】のみが代替わりするたびに記憶を引き継いでいるのだ。ユグドラシルに内蔵された膨大な魔力を糧に、半永久的に閉じ込めているはずだった。どうしてか解放されてユグドラシルから出てきたのだ」


「ユグドラシルを死守するのがエルフへの罰、というのは?」


「昔、エルフはエルフではなく、魔力が突出しただけの人間だった。段々増長したその一族は、その魔力を持って他の人間を虐げ世界を支配していった。そして、支配領域を拡大する中で、ユグドラシルを見つけたのだ」


「「…………」」


「ユグドラシルを見つけた彼らは、その内部にある膨大な魔力に惹かれ、ユグドラシルの力を取り込もうとした。が、逆にユグドラシルに取り込まれ、【ユグドラシルとの絆】というスキルを付与されてしまい、エルフという種族に変貌してしまったのだ」



 エルフが元は人間だったなんて……



「【ユグドラシルとの絆】により、エルフはユグドラシルの影響下にある場所でしか生きられない。そこのクラウディアは、固有スキル【クロノスマスター】により、時空魔法が常時発動しているため、エルフの領域と自分のいる空間を常に接続しているから、外の世界でも活動できているのだ」


「他のエルフなら私ほど長くは外で活動出来ないの」


「ヴェルーガは、エルフが人間だった時のことをどこかで知り、ユグドラシルを破壊し、【ユグドラシルの絆】を断ち切って外の世界へ進出しようとした。しかし、【ユグドラシルの絆】がなくなればおそらくエルフは消滅する。【ワールドデストロイヤー】によりその関係すら破壊してみせる、と主張したのだが、当時の【ドルイドマスター】は賛成しなかったのだ」


 


 僕が話を聞いているうちにユグドラシルと向き合っていたヴェルーガの詠唱が完成する。


「……悠久の時を経て、刹那の邂逅により過去を断ち切れ! ジェノサイドカッター!」


 ヴェルーガが全身を震わせ、渾身の魔法を発動する。


 ユグドラシルとヴェルーガを結ぶ薄く赤い線が現れ、ヴェルーガが右腕を振り下ろすと、プツン、と切れ飛んだ。





「……! そういうことだったのか! 単なる不幸な事故だったというわけか! では、世界を我が手に収めようか。取るに足らぬエルフ、ドワーフ、人間ども、我にひれ伏すのだ!」





◇◇◇





「師匠! なぜですか! このエルフの不遇な運命に甘んじていいのですか?」


「ヴェルーガよ、何度も言っているだろう。力の使い方を誤ったが故の結末なのだ。その責を負わねばならぬのだ」


「もう十分でしょう! 無駄に長い寿命を与えられて、ユグドラシルの領域から出られないまま死ぬ。拷問です。外の世界の人間はとっくに滅びて、過去のことなど知らない新人類が世界を謳歌している。エルフはいつ終わるとも知れぬユグドラシルのお守り。不公平です!」


「いつかはわからぬが、いずれ贖罪が果たされて、エルフが解放される日も来るだろう」


「いつ来るんですか? そんな分からないもののために我々が延々と苦しまねばならないはずがない!」


「それは私にも分からない。だが、いつか来る日のため我らは精進するしかないのだ」


「……わかりました、師匠」








「ヴェルーガ、とうとう儂を超えたな。お前に魔法で敵う者はおるまい」


「本当ですか、師匠! 長かった……。死ねぇ! ハートブレイク!」



 ヴェルーガは血のように赤い剣を魔力で作り出し、自分の師匠の心臓を突き刺した。



「ぐふっ、……ヴェルーガよ、血迷ったか!」


「ずっとこの日を待っていたぞ。私はこの破壊魔法でユグドラシルを破壊し、忌々しい【ユグドラシルの絆】を断ち切ってやるのだ! 師匠、いや、【ドルイドマスター】、あなたは邪魔だ」


「……お前が強いのは認めよう。その破壊魔法は類を見ない強さだ。しかし、それ故に野に放つわけにはいかぬ。お前を倒すことはできぬが、我の結界魔法『断罪の時牢』にて精神が朽ちるまで封印してやる。ついにお前を正しく導けなかった我は罰として先に逝く。許せ、我が弟子よ」


 直後、灰色の檻が現れヴェルーガを包み込み、異空間へと消え去っていった。






 忌々しい【ドルイドマスター】め。こんなところに私を閉じ込めおって。

 奴が命をかけただけあって、結界魔法により施された強固な封印を破れぬ。

 しかも魔力が無尽蔵にあるユグドラシルの魔力を供給元に使うとは、小癪なことをしてくれる。

 頭が硬いくせにこういうところは知恵が回るやつだ。


 まあいい。この『断罪の時牢』の中は時間が進みが遅いようだ。

 いくらでも時間はある。必ず脱出してみせよう。






 発見したことがある。

 限界まで魔法を使い続け、倒れて休み、また魔法を使い続けて倒れて休む。

 最大MPが999だったのが少しだが上昇していたのだ。

 スキルを見ると、【MP限界突破】が増えていた。

 これを繰り返せば私はさらに強くなるだろう。

 この檻を破壊できるまで。




 さらに最大MPを増やす作業の傍ら、檻を見続けて分かったことがある。

 外の時間で言えば数百年に一度だろうか、ユグドラシルから供給される魔力が若干だが弱くなることがある。

 ここを突けば『断罪の時牢』を破壊できるかもしれない。






 ここまで最大MPを増やせば大丈夫であろう。

 【MPバースト】で消費MPを上乗せして破壊魔法の威力を底上げする。

 おそらく後少し経てば、ユグドラシルの魔力が弱まるタイミングがやってくる。

 もしダメでもまたMPを増やして挑戦すればよい。


 …………。


 今だ! 一点集中! 『ジェノサイドスピア!』



 灰色の檻が砕けていき、明るい世界が開けてくる。

 さあ、私を閉じ込めたエルフどもに復讐だ!

 



◆◆◆◆◆◆


 いつもお読みいただきありがとうございます!


 後半からは少し視点が変わりますが、理由は次回のお話にて明らかになります。


 なお、【ドルイドマスター】はマスターの代替わりごとに受け継がれ、後半のやりとりはヴェルーガ封印時のもので、その後マスターは何度か交代しています。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る