◾️閑話 交換スキルの犠牲者

side ヒュージス



 俺は4人パーティ『剛力無双』のリーダーのヒュージス。

 B級冒険者だぜ。


 ランベール出身で、ほかのパーティメンバーも同郷。

 同郷どうしで気が合って、主に腕力のみでのし上がってきた。


 ランベールでC級まであがったあと、メイベルに移ってから何年かしてB級に昇格。

 そこで実績を積んで、いずれは王都にと思ってたが、メイベルのギルドに新しくサブマスターと受付嬢のエリアが赴任してきたぜ。



 やたらと目を引く美人受付嬢。

 もう直感で是非とも嫁にするぞ、と思った。



 運命だ。

 そんなガラでもねーが、まあとにかく、エリアに色目を使う奴は片っ端から恫喝おはなししてきた。

 他のパーティメンバーも同じことを思ってたようで、四人で誰がエリアをモノにするか競うこととしたぜ。

 勝つのは俺だけどな。




 メイベルには俺たち以上に強い冒険者はそうそういねーぜ。

 何組かはA級がいたが、エリアにちょっかいをかけるやつはいなかった。


 ただ、いまのところエリアの反応はイマイチだ。

 他の冒険者に対するのと同じ丁寧な対応だぜ。

 直球で食事に誘ってものらりくらりとかわされる。

 一度強引に手を引っ張っていこうとしたが、ギルマスに見つかりやがった。


『ヒュージス、受付嬢を誘うこと自体は自由だがよ、職員に危害を加えるとなりゃあギルドとしても黙っちゃいられねえなあ。それ以上は非行記録になるぜ。俺とやり合うか?』


 ギルマスも引退したとはいえ、元A級パーティの一員。

 しかもかつては名を馳せた『銀の祝杯』で長年盾役を務めたヴェイン。

 威圧感パなかった。


 俺は大人しく引き下がるしかなかったぜ……。




◇◇◇




 しばらくエリアに絡むことはできず、久しぶりにエリアの姿を見たのは、たまたまガキと一緒にエリアがレストランに入って行くところだったぜ。


 これは許されねえ。

 ギルティだぜ。

 『剛力無双』の名をあのガキにもわからせてやろう。

 俺だってまだ食事をしたことがないんだぜ。



 レストランから出てきた小僧の顔をしっかり見る。

 顔は覚えたぞ。

 ただ、エリアと食事をいっしょにしたわりに顔は浮かない感じだ。

 フラれたか?

 しかし釘は刺すぜ。



 次の日、小僧がギルドから出てきてしばらくしたところを狙い、首根っこを摑み薄暗い路地裏に連れ込む。

 そして、小僧を無理やり力任せに振り向かせ腹パンを決めてやったぜ。

 まずは先輩からの最初の挨拶だ。


 大して耐久力がないのか、小僧は吐しゃ物を吐き出しながら膝をついてうずくまる。


「てめえ、受付のエリアと食事しただろ? どうやってエリアを誑かしたんだよ」


 小僧が心外そうな顔を俺に向けてくる。

 なんだその反抗的な顔は。



「エリアはな、Bランクパーティ『剛力無双』の誰がオトせるかで競い合ってんだよ。てめえみたいな駆け出しの冒険者が食事するなんてありえねえんだ。お前F級かE級あたりだろ? 舐めた真似するんじゃねえよ」



 こいつは格好からすればその程度のランクのはずだ。

 それに冒険者養成講座で似たような奴を見た気がするぞ。

 つまり新人だ。

 エリアに近づくとどうなるかも知らんだろう。


 それを身体に刻みつけるべく加減して殴る蹴るを繰り返してやった。



「殺すまではしねえよ。だが、自分の行動には気をつけな。何度でも死なない程度に痛めつけてやるからな。わかってると思うが、このことは誰にも言うんじゃねえぞ」



 俺ぐらいのレベルになると暴力の加減も簡単だ。

 ギルドが目をつけない程度で痛めつけるなんぞ朝飯前だ。


 これでわからせ完了だ。

 あのガキはエリアに近づかないだろう。



◇◇◇



 また1人撃退したことを他のメンバーにも伝えてやる。

 案の定エリアと食事していたことには怒っていたが、俺が可愛がってやったことを話すと、とりあえずはそれでいいか、となったぞ。


 さらにしばらくは他の奴にもやったようにあのガキの見張りだ。 

 懲りずにエリアに接触するかも知れねえからな。



 次の日、案の定あのガキは普段通りにエリアがいる時間にギルドに来やがった。

 学習しねえやつだな。

 ダンジョンで早死にするんじゃねえか?



 奴もこっちを見ている。

 しばらくして諦めたのか小僧は納品所に移動していった。

 そして少し早い気がするがエリアが受付から離れたから、俺たちも今日は引き揚げだぜ。


 次の日も同じ。


 さすがに3日連続もとなると体がなまっちまうから、適当な依頼を受ける。


 1週間の護衛任務だ。

 ランベールまでの往復。

 時々街道に出てくる弱っちい魔物を退治するだけだが、受けておかないと昇格の条件を満たせないからな。



 1週間後帰ってきて、疲れてはいるが依頼達成の報告だ。

 何故だかいつもよりえらく疲れたぜ。

 なんだか街道の魔物もいつもより強い気がした。

 変異種というわけじゃなかったはずだが。

 この依頼何回か受けたが、安パイというやつだ。

 つまりそこそこ安全で身入りもまあまあの楽勝案件なんだぜ。


 だが、なんだかおかしいな。

 報告後にあのガキの姿が見えた気がしたが、仲間も疲れている感じだったのでほっといて休息が大事だぜ。




◇◇◇




 何日かしてギルドの受付に行くと、またエリアに粉かけている愚か者がいる。

 しかも3人パーティで。

 これはまた教育が必要だぜ。

 一度シめた奴らは大体覚えているから、見知らぬコイツらは多分メイベルに来たばかりだろうな。


 いつものようにギルドを出たところで路地裏に連れ込む。


「オイ、面貸せや」


「はあ、なんなんだお前らは?」


「俺たちのこと知らねえのか? 泣く子も黙るB級パーティ『剛力無双』だぜ?」


「あいにくここには来たばかりでな、知らないが、メイベルのB級は随分とお行儀がいいんだな」


「そんなこと言ってられるのも今だけだぜ? お前らランクはいくつだ?」


「C級だが、もうすぐB級の予定さ。んで、先輩方が雁首揃えて何の用ですかね? まさか冒険者ランクでのマウント取りですか? んなしょうもないこたあよそでやってほしいんですがね」


「ふん、口の回るやつらだぜ。お前ら、受付嬢のエリアを口説いていただろ? 金輪際止めるんだな。ま、口で言っても分からねえ奴がメイベルには多いからな、身体に刻んでやってるんだよ。これからオマエラにもな!」


「ほう、やれるものならやってみな。んなことコソコソやってるような輩にあの美人受付嬢がなびくわけねえだろうにな。このことはギルドにも報告させてもらうからな」


「させると思ってるのか? そんな気も起こらないくらい痛めつけてやるよ! 食らいやがれ、『スラストタックル』!」


 まずは中級体術の突進攻撃を食らわせてやる。

 肩を怒らせ相手に突撃するこの一撃で大抵沈むぜっ!


 ガシッ!



 なんだとっ! 

 俺の殺人タックルがヒョロそうなリーダーの両手で押さえ込まれてしまった。


「ええ…… なにこの弱さ。何が『剛力無双』だよ。笑わせるぜ。大した腕力ねえじゃねえかよ。おい、こいつらやっちまおうぜ!」


 おかしい。

 腕力だけならA級にも対抗できる俺の力が大した腕力じゃないだと! 

 しかもC級からの攻撃がやけに重く感じる。

 まるで俺たちの体力が下がったかのようだ。


「ぐっ、こいつらなんで強い……」


「なんだ、この程度でB級か。D級かE級の間違いじゃねえのか? どうやって俺たちに痛い目を見させるつもりだったんだ? 先に手を出したのはそっちだからな。ボコボコにしてからギルドに突き出してやるぜ!」




 ……結局C級のパーティによって拘束されギルドに突き出された。


 そしてこの噂があっという間に広がっていたんだぜ。

 くそっ、あいつらが広め回ったらしい。

 もうメイベルにはいられない。

 現に、実は弱かったという噂を間に受けた何組かのパーティから襲撃を受け、仕返しをされた。


 これに関してはギルマスから『ギルドは生死に関わらない限り関知しない』と告げられている。


 クソがっ! 

 所属する冒険者を守らないで何がギルドだよっ!


 結局、逃げるようにしてメイベルを離れ、ランベールに戻ることになったぜ。

 ここならダンジョンのゴールドラッシュがあるからな。

 生きていくだけならできるんだ。

 いつか返り咲いてやるからな。


 


◇◇◇



 ランベールで過ごして数ヶ月。

 低級ダンジョンを周回しているためか、レベルが上がった気がしないぜ。



 どうもパーティメンバーの腕力や体力が下がっている気がする。

 4人揃って無い知恵を絞り出したのがそういうことだったぜ。

 よくわからんのが一律に下がっているわけでなく、メンバーごとに下がっているだろうステータスがバラバラなことだ。

 ま、自覚している範囲でだが。


 教会で武具が呪われていないか見てもらったんだが、特に何もないということだったぜ。

 仮にあったとしても、実際の解呪にはアホみたいに金がかかるからできないんだけどな。


 呪いがあるかどうかを見るだけなら、教会はただで見てくれる。

 初級の光魔法に呪いを判別するだけの魔法があるらしいんだぜ。

 俺のパーティには光魔法使いはいねえ。


 ステータスを見るには鑑定の宝珠がいるが、そんな貴族しか持ってないような超高級品なんて使えん。

 あとは、ダンジョンで知らぬ間に罠を踏んでマイナススキルがついてしまったか。

 これだともう確認しようがないし、解呪する金もねーし、レベルが上がって力が戻るのを待つしかねーな。


 ほとぼりが冷めて、力が戻ったらまたエリアにアタックするか。




◇◇◇



 いつものとおりゴールドラッシュから帰ってきたとき、偶然にもあの小僧を見つけた。

 そういやあの小僧をわからせてから、なんか調子が悪い気がするがそれはおいといて、訊かなきゃならんことがあるよなぁ!



「お前、いつだったかエリアと飯食ってたやつだよなあ?」


「ええ、そうですけど」


 何てことでもないような感じでガキが答える。

 多少は強くなったか、俺たちの噂を聞いていたか、俺に怯える様子が全くないぜ。

 それもますます気に入らねえ。


「エリアには何もしてないだろうな?」


「あなたには関係ありません」


「なんだと‼」



 ホントに生意気なガキだ。

 もう一度わからせてやる必要があるようだぜ!

 

 しかしガキは落ち着き払って、

 

「いいんですか、次に争いを起こしたら冒険者資格の剥奪ですよね。あと僕はB級です」


 そしてこのガキは自分のシビルカードをこちらにこれみよがしに見せてくる。

 確かにB級だ。

 ほんの数ヶ月程度でどうやってそこまで上がった?


 この記載がホントなら推定D級〜C級下位の俺たち4人ではステータスの差により勝てねえこととなる。



「お、おい、ヒュージス、やめとこうぜ」


 日和ひよった仲間が俺を引き止める。

 イラつくが、確かに『次非行があると冒険者資格の剥奪になる』とギルドからは言われている。



 このクソガキを睨みながら、仲間といっしょに引き下がるしかなかったぜ。



◇◇◇



 ある日の朝。


 起きると頭が痛い。

 咳が出る。

 額のあたりが熱い。


 これは、噂にいう風邪とかいうやつでは。

 しかし、俺は生まれてこのかた、病気になったことはない。

 自慢できることのうちの一つだ。

 なのに、なぜだ。

 俺も惰弱だじゃくな一般人と同じだったのか?


 パーティメンバーが迎えにきたが、こんなに調子が悪くてはダンジョンには行けない。

 初めてのことなので、パーティメンバーに連れられて教会に行く。


 教会では、回復魔法をかけられたのち、『薬をもらい一日安静にしてなさい』と言われたぜ。


 知らんかったのだが、病気になると回復魔法をかけてもらってから薬を飲んで治すのが普通らしいぜ。

 回復魔法では病気は治らんが、体力は戻るので、治りが早くなるってさ。


 結局、次の日になって俺は完全に回復した。

 病気はしたがやはり俺の身体は頑強だ。

 普通は回復に2〜3日かかるらしいぜ。



 しかしこのとき以降、いきなり病気になったり、突然疲れが襲ってきたりすることが起き始めたぜ。


 ったくなんなんだ、ツイてないぜ。




◆◆◆◆◆◆


 いつもお読みいただきありがとうございます!


 最後は、もちろんクラウスが体調が悪くなったり疲れた時にヒュージスと【交換】し始めたからです。


 誰得? なヒュージス視点でした。

 なんで書きたいと思ったのか自分でも謎なんですが……

 

 たぶん試験前日なのにマンガ読んじゃうのと同じような感じです。


 なかなか本編の筆が進まない……


 一応、3話〜6話、48話、67話参照です。

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