第64話 ホワイトタワー 

 途中でナナさんに引っ張られてしまったが、元々はA級の受付に用事があったのだ。

 A級ともなれば長期にダンジョンに篭ることも多く、また軍や貴族からの依頼もたまにあったりするので、居場所を出来るだけギルドに告げておく必要があるとのことだ。


 あんまりにも連絡がないと捜索隊が組まれて探される羽目になる。

 流石にA級ともなるといなくなるとギルドにとって損失が大きいのだ。

 ちなみに、生きていたらバカ高い実費を後から請求されるようだ。

 分割払い可。

 命に代えられないのでやむを得ない。



◇◇◇



「クラウスさん、長期ですか?」




 もう驚かないが、ギルド本部1階の受付には当然のようにエリアがいる。

 僕の昇格に合わせて支部から異動してきたんだろう。


「ええ、エリアさん、1週間ほどなので長期というわけでもないですが、『ホワイトタワー』の様子を見てこようと思います」


「わかりました。お気をつけて」



◇◇◇



 さて、A級となって最初に挑むダンジョンは『ホワイトタワー』だ。


 上に進んでいくタイプのダンジョンだが、地上から見ても上に伸びているわけではなく、ただの小高い丘だ。


 ダンジョンについては、全てを見通すと言われた固有スキル【賢者の眼】をもつ者が過去にいてダンジョンの謎を紐解こうとしたが、異空間で構成されているのではないか、ということぐらいしかわからなかったらしい。

 結局、神が作ったのではないかと言われるようになって、いまでは物好きな人間しか調べる者はいない。




 ここは全80階で、A級では最少階数だ。

 だいたいA級になりたてはここから始めるようなので、僕も前例に倣うことに。



 アイボリーの毛皮が綺麗なホワイトウルフ。

 出会い頭にいきなり吠えてくる。

 この咆哮を受けると身体がすくんで全ステータスが少し下がる。

 素のステータスが高い僕は何も影響を受けないが、ミストラルさんは少し行動が遅れる。

 接近してホワイトウルフを剣で一撫ですると、そのまま両断。


 さすがのドラゴンブレイド。

 A級ダンジョンの敵でもなんともない。


「予想していましたけれども、やはりクラウスさんの一撃で終わりますね」


 その後もホワイトソーサラーやホワイトリッターなども出てきたが、全て一刀両断だ。


 ダンジョンは上級になればなるほど人型の魔物が多くなる。

 だが人間ではないので、【交換】の対象とはならない。

 残念だ。

 まあ、仮に対象になったとしても魔物専用の汎用スキルとか発動できるのかわからないし、使えたら使えたで僕が魔物として討伐対象にされてしまうかもしれない。

 とか益体やくたいもないことを考えながら進んでいく。

 


 5階の途中の宝箱で「プレイスメント」という宝珠を手に入れた。

 これは任意の場所に帰還の転移陣を設置できるアイテムだ。

 わりと浅い階層で手に入るが、ダンジョンの外には持ち出せない。

 脱出すると消えてなくなるものの、所持していない場合は何度でも最初の宝箱で手に入る。

 そして同じダンジョンでは一箇所にしか使えず、設置した者にしか使えない。


 どこに設置するのかが大事だ。


 何せA級ダンジョンは、最終階のボスを倒して現れる帰還の転移陣以外は設置されていないのだから。



 そこで、帰還石を人数分用意して挑むのが必須になる。

 僕たちも二つ用意してきた。

 今の僕たちなら帰還石を購入する資金は十分にある。

 

 踏破にどれくらいかかるかわからないので、とりあえず1週間分の食料をマジックバッグに詰めてきた。

 ミストラルさんの奉仕の日が週に一度あるためだ。

 今の僕たちならお金で代わりにできるが、ミストラルさんは金を使うのはもっと後にしたいと言っていた。



 罠は【トラップシーカー】で突破し、敵は瞬速連斬で突破する。

 特に変わったギミックはなく、敵は暗闇攻撃が少し多いくらいなのであまり苦労しない。



◇◇◇



 55階の宝箱に、カタリナのピアスが入っていた。

 必ず眠れるという魔道具だ。

 ウォーレンさんとパーティを組んでいた時に『午睡の草原』で発見したものと同じだ。

 あのときは【レアドロップ率上昇Ⅱ】を持つサレンさんがいたからだったんだろう。


 ゾロ目の階はレア宝箱の出現率がわりと高いので、その階でプレイスメントを使うのが定石だ。

 宝箱の中身次第では、帰還石の人数分など余裕で買えるくらいの収入となる。


 だけど、まだ気にしなくていいかな。

 ミストラルさんにも聞いてみたが、『クラウスさんに従いますよ』とのことだった。



 そんなわけで、僕が設置したのはもちろん、80階だ。

 これでボスだけ周回ができる。

 ここまで来るのに四日かかった。

 ダンジョン内には朝昼夜の区別がない。

 いったん最奥まで行けばいいので、ミストラルさんには悪いが強行軍だ。


「【攻撃時MP回復】のスキルを得るときの苦しみに比べれば大したことありません」


 と言っていて、実際にミストラルさんはケロッとした様子だ。

 あの時は青い顔をしながらそれでも根性で攻略していたからね……。

 さすがの僕もあまりやりたいとは思わない……。




◇◇◇




 80階のボスは、ホワイトドラゴン。

 グレートドラゴンの下位種だ。

 光属性のブレスが得意。

 もちろん竜属性。

 お供にワイバーンが2体。

 竜の眷属扱い。

 そして、僕が持つのはドラゴンブレイド。




 うん、一撃なんだ、すまない。

 ドロップは白竜石で、これはレアだ。


 帰還の転移陣が現れる。


「いったんギルドに戻りましょうか」


「そうですね。戦闘であまり苦労しないとはいえ、四日の強行軍は疲れましたし、魔石やドロップアイテムがかなり溜まっています」

 


◇◇◇



 ギルド本部で受付のエリアに会う。


「少し早かったですね。クラウスさん」


「ええ、エリアさん、取り敢えず一回ボスを倒したので疲れて帰ってきました」


「そうなんですか。……非公式ですが、四日で踏破したのは史上最速ではないでしょうか」


「まあその辺はギルドにお任せします。納品所に行ってきますね」


「はい」






◆◆◆◆◆◆


 いつもお読みいただきありがとうございます!


 カタリナのピアスや午睡の草原については第21話に出てきています。

 ミストラルの奉仕については28話を参照してください。

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