第63話 2人目と出会う
闇の寝所も無事50回クリアして、僕とミストラルさんはA級への昇格条件を満たした。
受付のエリアを通じて昇格の申請をする。
アーチェさんとは、以前会って以来特に関わりはなかった。
いつも僕がギルドに来る時間にはいつもエリアがいるからだ。
見かけることはあったけど。
それと、エリアにアーチェさんと会ってケーキを食べたことは既に話しているが、特に何ということはなかった。
『正妻の余裕ですわ』とかなんとか言ってた。
僕も別に正妻以外は必要ないと思う。
3日後、A級への昇格が僕たちに通知された。
これで以降はギルド本部に行くことになる。
これでもうギルドでアーチェさんを見ることもないだろう。
◇◇◇
ギルド本部はこれまでの支部とは違ってあまり騒がしくない。
A級ともなればまともな人間が多いんだろうか。
ガハハ、と豪快に笑って所かまわず因縁をつける荒くれ者、とかいるんだろうかと勝手に想像してたけど、これだと【交換】もあまり期待できそうにないなー。
A級になっても、カードの記録が変わるだけで見た目は変わらない。
変わるのは依頼内容に貴族からの指名が増えたり、次の昇格には貴族の推薦が必要なことなどだ。
あ、あとは移動手段がタダになることだ。
A級のカードを見せれば馬車がタダになる。
請求はギルド本部にされているらしい。
ギルド本部1階のA級用の受付に向かう途中で、後ろから声をかけられた。
「クラウスくん、ちょっといいかな?」
声をかけてきたのは、黒髪で活発そうな女の子だ。
「クラウスさん、モテモテですね」
「ミストラルさん、からかわないで下さいよ。……すみません、以前お会いしたことがあったでしょうか?」
なんか段々ミストラルさんの冗談の割合が増えてきている気がする。
こっちが素なのだろうか。
「初めてだよ。ちょーっと話したいことがあるから、着いてきてくれる? ミストラルさんちょっとクラウスくんを借りていいかな? そこのラウンジで私の名前を出せば何でも食べれるから。ナナ=ツキシマね」
「貴族様なんですか?」
「あなたも貴族でしょう? じゃあ着いてきて」
僕はナナさんに手首を掴まれて、2階へと連れていかれる。
ミストラルさんはとってもいい笑顔をしている。
面白がってるな。
◇◇◇
2階のS級用の部屋に連れてこられた。
「さて、クラウスくん、私は月島奈々よ。あなた、転生前の記憶はある? 日本から来たの? 洋風っぽい名前だからヨーロッパあたりかな?」
何を言っているかさっぱりわからない。
だが、転生という言葉を聞いてタケヤマを思い出した僕は身構える。
「あなた、何者なんですか? 僕をどうするつもりですか? どうして僕のことがわかるんです?」
「そんなに身構えなくてもいいよ。もしかして仲間かもしれないと思ったから聞いただけだよ。あなたの【交換】スキルに私は反応していないでしょ?」
確かにそうだ。
自分のスキルやステータスを確認するが、特に変化はない。
目の前のナナさんのことは見えないので、悪意を持っていないことも間違いない。
だが、僕のスキルは一方的に見られている。
どういうことだ?
「大丈夫。あなたのスキルのことは誰にも言わないよ。この世界のルールなんでしょ? 不公平だから私のことも言える範囲で話すね」
転生者ってのはよく喋るものなのか。
ナナさんの話が続く。
「私の名前はこちら風に言うと、ナナ=ツキシマ。S級冒険者よ。【鑑定】スキルと【最大MP2倍】を持っているの。固有スキルは内緒。こことは違う世界からこの世界に呼ばれたの。『第二の人生を好きに生きていいよ』って言われたのを覚えてる。自分のことを【鑑定】で見たら、最大MPが200なの。どうもこれは転生者だけのようだから、あなたもそうでないかと思って声をかけたの」
なるほど。
確かに僕の最大MPは200だからそれを見て同じ転生者かどうか確認したかったのか。
悪意も無いみたいだし、素直に答えてもいいかな。
「ご期待に沿えず申し訳ないんですが、僕の最大MPが200なのは別の理由なんです」
「何でなの? 転生者以外ならあとはエルフの血を引く可能性もあるね。それもそれでレアだけど」
「エルフでもないですよ。そもそも伝説上の種族じゃないんですかね、それ」
「エルフは実はいたりするんだよ。まあそれはいいや。どうしてMPが100を超えているのか、聞いてもいい?」
「ええ、以前他人のスキルを奪う固有スキルを持った転生者に襲われたことがありまして。タケヤマというんですが、その者と最大MPを【交換】したんです。そのとき、【最大MP2倍】(転生者特典)と見えました」
「日本人っぽい名前ね。私の2つ目の固有スキルが【最大MP2倍】だから間違いないわね。そういえばかなり前にメイベルでスキルが奪われる事件が起きてたと聞いたことがあるわ。解決したのは君ってこと?」
「一応は。当時のギルマスとサブマスに助けてもらいました」
「あれさ、返ってきたスキルのレベルが上がってたって話だけど、本当なの?」
「ええ、本当です」
「ふーん。どんな人間だったか覚えてる?」
「そうですね…… あまり素行の良い感じではなかったですね。確かチートスキルがどうのこうのと言ってたような。あと、固有スキルの名前は【ギャングスター】でした」
「ああ、確かにそのスキル名だと素行は良くなさそうね。お友達にはなれそうになかったわね」
「【ギャングスター】ってどういう意味なんですか?」
「そうねえ…… こっちの世界で言うと、荒くれ者とかならず者とか、野盗、強盗とかそんな感じじゃないかな?」
確かに本人の態度もなんかそんな感じだった気がする。
「私の話に付き合ってくれてありがとうね。困ったことがあったら頼ってくれていいわよ。袖振り合うも他生の縁と言うしね。私の名前を出せばギルドは少なからず対応してくれるはずだわ。S級だしね。でも、S級のことは一般に公表してないから、むやみに口外しないでね」
「わかりました。ソデフリアウモタショウノエンというのはそちらの世界の言葉ですか?」
「そうよ。こういう出会いも何かに導かれているのかもね。それじゃあ、お連れの方にもありがとうって伝えておいてくれる?」
「はい」
◇◇◇
S級に会ったのはこれで2人目だ。
『黒騎士』カイさんとは王国武闘会のときに会っているが、話していない。
カイさんは自らS級であることを公表しているが、他の人はそうではないので、誰がS級なのかは分からない。
2階はギルド幹部や軍のお偉いさんも出入りするため、2階に行くというだけではS級かどうかを特定することはできない。
ナナさんについては、自称S級だが僕のスキルを言い当てていたから【鑑定】を持っていて、【鑑定】を持っていればS級は間違いないだろう。
なんせ他人の情報を覗き放題だからね。
ただ、レアスキルを持っていても調子に乗って悪用していると国から粛清されるらしい。
僕も、クロス様から警告を受けたし。
僕は『永遠の回廊』を踏破したいだけで、別に国に逆らいたいわけではないから大丈夫だと思う。
たぶん。
◆◆◆◆◆◆
いつもお読みいただきありがとうございます!
他にも転生者はいるよ、というお話でした。
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