第62話 アーチェとお茶
「お休みの間に受付のアーチェさんにばったり会いましてね、お茶に誘われました」
「そうなんですか」
「それで、アーチェさんは私のことをクラウスさんの従者だと思っていたようでして」
「すみません、僕のカードを見てたせいでしょうか」
「ええ、おそらく。一人でフラフラする貴族なんていませんでしょうし。それでですね、従者でないことは分かってもらえたのですが、クラウスさんのことを根掘り葉掘り聞かれまして」
「何を聞かれたんですか?」
「クラウスさんのこと全般で、一番多く聞かれたのはクラウスさんの女性の好みです。『知りません』『わかりません』でほとんど返しましたけども」
「何でそんなこと聞いてきたんでしょう?」
「クラウスさんが元平民の貴族だから気安く接することができると思ったのでしょうね。カードの履歴から昇格の早さも見たと言ってましたし、将来有望なので先に付きあいたいと思ったのではないでしょうか」
いやでもなあ。
僕にはエリアがいるし。
正式にはまだまだ先だけど……。
彼女に相応しくなるため早くS級を目指さなきゃ。
「アーチェさんは大変人気がありますよ。全然
ミストラルさんがそんなこと言うなんて意外だ。
生臭坊主なのか?
エリアと僕の関係については特に言ってないから、誰とも付き合っていないように見える僕に対して気をつかってくれてるのかもしれない。
「と言うかミストラルさん、アーチェさんの噂とか知っていたんですね」
「とりあえず情報は集めるようにしています。どこで何が役に立つかわかりませんから」
それもそうかもしれない。
僕もダンジョン関連なら調べるんだけど、それ以外はあまり興味がないからなあ……。
◇◇◇
それは置いといて、闇の寝所の攻略の続きだ。
ミストラルさんが【攻撃時MP回復】を修得したけど、僕は闇属性耐性を得るのはとりあえずいったんやめにした。
僕の精神は高くてあまりダメージを受けないし、誰かから【交換】で得られるかもしれないし、そもそも噂レベルの話だったからね。
ここからは、ミストラルさんのスキルのレベルが上がるのを期待してミストラルさんが何かの攻撃をしてから僕がトドメを刺していくことにする。
◇◇◇
あと少しで闇の寝所も終わるかというところで、休みにしている日に買い物に出かけたら、アーチェさんに会ってしまった。
ツインテールは解いているので実は誰だかすぐに分からなかったが、向こうから話しかけてきた。
「クラウスくん、奇遇だね。そこに美味しいパンケーキを出す店があるんだけど、一緒に食べてみない?」
前に窓口で対応してもらったときと違ってえらくフランクな物言いだ。
仕事じゃないから別にいいのか。
さてどうしよう。
よく知らない女の子と二人で食事をするってのもな。
ミストラルさんは教会での奉仕の日だ。
「アーチェさん、さすがに二人で、というわけにはいかないので、他に誰か同席できませんか?」
「私いま一人だしあてはないよ。ちょっとケーキを食べるくらいだから、別に二人でもいいでしょ? それとも彼女から禁止されてるの?」
「別にそんなことはないんですけど……」
「じゃあちょっとだけだから、いいでしょ?」
というわけで、断りきれなくて近くにあるパンケーキ屋に連れて行かれることになった。
せっかく誘ってくれてるのに断るのもなんだか悪い気がしたというのもある。
女性への接し方をもっと学ぶべきかなあ。
ミストラルさんの言うことは正しいのかもしれない。
どうせお腹は空いていたし、いっか。
「私、4人家族なの。お父さんとお母さんと弟がいて、弟はちょうどクラウスくんと同じ年ね。そう思うとちょっと話しやすいかも。クラウスくんは家族は何人なの?」
僕の年まで知っているなんて…… と思ったけど、受付嬢だからそのへんは自由に見れるのかも。
「僕も4人家族です。メイベルに父と母と妹がいます」
「そうなんだ。私と似てるね。あ、クラウスくん袖のボタンが留まっていないわ。私が留めてあげる」
アーチェさんが僕の服の袖のボタンを留めてくれる。
終わり際に僕の手を少しだけ握ってきた。
僕はすぐに手を引っ込める。
「それでね、クラウスくん、『永遠の回廊』の踏破を目指しているんだってね。ミストラルさんから聞いたよ」
さっきのやりとりは無かったかのように話を続けてきたんだけど。
まあ、『永遠の回廊』については隠すようなことでもないし、メイベルの冒険者養成講座のときはみんな『頑張れよ』とか笑いながら言ってくれてたんだよな。
「ええ、そうです。小さい頃からの夢です」
「素敵ですね〜。私も応援したいです。何かあったら協力するから遠慮なく言ってね」
「はあ、はい……」
「最後に聞いていいですか? クラウスさんはどうやって貴族になったんですか?」
んー、何て答えたらいいんだろ。
「依頼で貴族様の護衛をした際に要人を守ったのでその功績で準男爵になりました。でも領地もなくて特に義務もないらしいので、そのまま冒険者を続けています」
「そうなんだね、すごいねクラウスくん。……またお話を聞かせてね」
「はあ、いいですよ」
パンケーキは確かに美味しかった。
アーチェさんの思考は読めなかった。
僕に対する悪意がないことはわかるけど、それ以上のことはわからない。
結局、何だったのかよく分からないまま終わってしまった。
◆◆◆◆◆◆
いつもお読みいただきありがとうございます!
ちょっとだけだから、と言われて、ちょっとだけで済んだためしはないですよね。
先っちょだけだから、と言われて終わるわけがない。
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