第61話 闇の寝所
熱砂の高原も終わったし、5つ目に選んだダンジョンは『闇の寝所』だ。
ここは、初級光魔法の『ライトトーチ』が必須のダンジョンだ。
壁のかがり火台にライトトーチで光を灯せば、次のかがり火台までが明るくなる。
その繰り返しで先へ進んでいく。
光を灯さないで進むと(暗闇に突っ込んでいく勇気もないけど)、いつの間にか直前まで光を灯していた元の場所へ戻される無限ループにハマる。
ライトトーチは【初級光魔法Ⅰ】で使えて消費MPが1なので、光魔法が使えさえすれば負担にはならない。
全50階層とちょっと多いが、1階層ごとは他よりも短めなので全体として他とあまり変わりはない。
出てくる敵は全て闇属性なので光属性攻撃があればあまり苦労しない。
僕はシャインセイバーを使えるが、ミストラルさんも光の矢が使えるので、このパーティにはうってつけのダンジョンだ。
ダークシャーマンやブラックナイト、ダークセンチピードが出てくる。
攻撃の全てに闇属性がのっているので、僕もちょっとした実験をすることにした。
属性攻撃を受け続ければそのうち属性耐性のスキルが生えてくるという俗説だ。
というわけで、僕は道すがらダークシャーマンの闇魔法やダークセンチピードの黒い足ビンタをペチペチ受けながら突き進み、ミストラルさんは青白い顔をしながら攻撃を続けるという修行みたいな行進をしている。
そのため、いつもより攻略ペースは遅い。
そしてなんだかやってることがとても地味だ。
そんな過程をすっ飛ばして相手が持っていればスキルを得られる【交換】は恵まれてるんだな、と思う。
3週間弱かけて最下層にたどり着いたとき、
スキル
【スキル成長速度上昇Ⅲ】(UP)
となってた。
残念ながらミストラルさんに変化はないようだった。
最下層のボスはレッサーヴァンパイア。
口から牙がはみ出している人型っぽい魔物だが、まだ本能のみで動いている存在だ。
そして、光属性攻撃でないとトドメを刺せないという特性を持っている。
というわけで試しに普通に斬って真っ二つにしてみたら、逆再生のように元に戻ってしまった。
でも瀕死なので動きが鈍い。
ミストラルさんが光の矢を一本当てると、レッサーヴァンパイアは光の粒子となって消えて、魔石を残していった。
とりあえず簡単に倒せることを確認して、もう帰還だ。
◇◇◇
珍しくエリアさんが受付にいないので、今日は別の受付嬢が対応してくれた。
胸の名札にアーチェ、と書いてあった。
青い髪のツインテールでクリッとした目をしている。
そして胸が大きくて童顔だ。
とても人気があるらしい。
僕は話したことがない。
メイベルのときのエリアさんみたいに過激なファンがいるかもしれない。
「白いカード……」
と呟いて少しだけ手が止まるアーチェさん。
そして僕の顔をマジマジと見ている。
ああ、しまった。
何も考えずに更新用にカードを出したけど、今の僕はノーブルカードだった。
貴族で冒険者をするのは、よほどの変わり者か、放逐されたとかそんなイメージだ。
まともな貴族なら軍に所属するからだ。
冒険者から貴族になれるのはS級。
そして今いるのはB級の窓口だから、たぶん僕はダメ貴族とか思われている可能性が高い。
そうそういないが、問題を起こされるとギルド的には扱いに困るのがそうした貴族兼冒険者だ。
必ずギルマスが出てくる羽目になる。
貴族兼冒険者はだいたい一般の冒険者より装備がよくて強い従者がついているらしく、低いランクで見たことはない。
昇格基準も一般の冒険者より緩いという噂だ。
それについてはずるい気がしなくもないけど、低ランクの冒険者がトラブルに巻き込まれたら絶対に抵抗できないので、低ランクを守るという意味ではそれでも仕方ない気はする。
◇◇◇
「お待たせいたしました。カードをお返しいたします。一つ伺ってもよろしいでしょうか?」
「はい、なんでしょうか?」
「貴族様専用の窓口はお使いにならないのでしょうか?」
と恐る恐るアーチェさんが聞いてくる。
そんなのあったんだ。
さらに聞いてみると、その専用窓口は個室の立派な応接室で、来るたびお茶菓子とか出るらしい。
それって、僕みたいな準男爵でも同じなのかな?
今度エリアに聞いてみよう。
「貴族になったばかりなので、よくわかっていません。ギルドから案内があったわけでもないですし」
「さようでございましたか。よろしければ私が確認いたしましょうか?」
「いえ、かまいません。どうせ名ばかり貴族ですので」
「……。では、本日のご利用ありがとうございました」
なんだか、敬遠されてる気がする。
普通に対応してほしいけど、まあ無理だよな。
誰だって貴族相手に面倒起こしたくないもんね。
今までおかしな貴族に会った事のない僕は幸運なのかもしれない。
◇◇◇
闇の寝所のレッサーヴァンパイアを倒すこと18回目で、ミストラルさんにスキルが生えてきた。
MPを使い切った状態で攻撃を繰り返すとすぐに光魔法が使えるようになったので、【攻撃時MP回復】で間違いないだろう。
光の矢で遠距離から攻撃できてしかも当たった数だけMPが回復するので、頼もしいレアスキルだ。
そして、休みの日のうちに錬金術のレベルが上がった。
スキル
【中級錬金術Ⅳ】(UP)
休みが明けてまた闇の寝所に向かう途中、ミストラルさんから言わなければならないことがあると言われた。
◆◆◆◆◆◆
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