第44話 トルテ 2  

 2回目の午睡の草原攻略の2泊目、サレンが見張りをしているクラウスに会いに行っているのを見てたの。


 サレンが近づくたびにクラウスも同じくらいさりげなく下がって距離を取っているのが見える。

 話していることまでは聞こえないけど、クラウスがサレンになびくはずないの。


 そもそもクラウスをもっとよく見ていればわかるはずなのに。







 受付嬢のエリア。







 間違いなくクラウスはエリアが気になっているの。

 クラウスは誰に対しても丁寧な対応をしているけど、受付嬢のエリアにだけは、特別な感情がこもっているの。


 サレンが余裕の表情で戻ってきたの。

 なぜそんな余裕なのかわからないの。

 いくら顔が良くて胸が大きくても、男がそればかりで判断するはずないの。



◇◇◇



 午睡の草原も攻略し、クラウス以外はC級に昇格したの。

 そして、ウォーレンとサレンとクラウスはパーティから抜けたの。

 祝賀会では、クラウスがサレンに牽制していたの。


「サレンさん、ウォーレンさんに付いて行くんですよね」


「ええ、そうよ」


 サレンはこのあと、ウォーレンに付いて王都に行くことになっているはずなの。

 それでもうクラウスにちょっかいを出せなくなるの。



◇◇◇



 C級に上がってから、しばらくミストラルといっしょに『死者の祠』の浅い階層で稼いでいたの。

 並行して前衛の募集をしてみたり、後衛募集のパーティを探してみたけど、どれもイマイチなの。


「ミストラル、クラウスみたいな人見つからないの」


「それはそうでしょう。そもそも前回クラウスさんがパーティに入った事自体が奇跡です。失礼ですがトルテさん、彼からすれば私たちはただの足手まといです。それが分かっているから、パーティ登録を解除した時に誘えなかったのでしょう?」



 このミストラルの悟ったような態度がちょっと腹立つの。

 いつものことだけど。



「クラウスなら、誰が組んでも足手まといに決まってるの。そんなことわかってるの。ミストラルだって、クラウスがいればよかったと思ってるはずなの」


「ええ、正直なところそうです。おそらくクラウスさんなら断らなかったでしょう。優しいですからね。でも、そんな彼につけこむような形になるのが嫌だったんじゃないんですか? 後で彼に嫌われるかもしれないのが怖かったのでは?」



 聖職者はみんなこうなの? 

 やっぱり腹立つの。



「そのうち私たちに合う人が見つかるはずです。それまで我慢しましょう」



◇◇◇



 しばらくして、B級パーティ暁の戦士団がギルドにより捕縛されたの。

 なんだか最近ギルドの内部が騒がしかったのもこのせいだったの。


 トルテとミストラルも暁の戦士団と関わったことがあったか聞かれたけど、特に関わりはなかったの。





 暁の戦士団がギルドにより処刑されて、ギルドのゴタゴタも落ち着いたころ、トルテは一人でギルドの掲示板の前にいたの。

 今日はミストラルがシビルカードの更新でいないの。

 そんな時に限ってパーティの勧誘があるの。




「トルテちゃんよう、俺らのパーティに入らないか? 俺ら魔法使いが足りねえんだ」


 クラウスより不細工なの。

 クラウスより強そうにも見えないの。

 却下なの。


「いやなの。他をあたってなの」


 なんか見知った気配がすると思うほうをみたら見たら、クラウスと目があったの。

 これはチャンスなの。

 今なら言えるの。



 トルテはクラウスのところに駆けて行って、こう言ったの。


「これからこの人と組むの。だから諦めてなの」


 それからクラウスは勧誘にきたパーティを言葉で退けたの。

 そして、手続が終わって戻ってきたミストラルを巻き込んでこのままなし崩し的にパーティを結成したの!

 クラウスはC級に昇格してたの。

 当然なの。



◇◇◇



 新しいパーティで死者の祠を進んでいて、休憩中にクラウスが何を思ったか、アクアセイバーを発動したの。

 確かクラウスは【初級水魔法I】しかないはずなのに、どうして【中級水魔法Ⅲ】で使えるアクアセイバーを発動できたの?

 しかもミストラルが聞き出したところによると、水どころか風、雷、光の中級魔法スキルがあるとか言ってるの。




「そんなことより、どうやって短い期間で魔法スキルのレベルを上げたのか、教えるの!」


 思わず大きな声で聞いてしまったの。

 でも、クラウスの固有スキルだろうとミストラルに諭されたし、よくよく考えればそんな都合のいい方法があればとっくに軍が実践してるはずなの。


 クラウスに頼りすぎていたの。

 トルテはそう反省して、クラウスの攻撃前に魔法を使わせてもらったりして、スキルレベルを上げるのに集中することにしたの。



◇◇◇



 死者の祠から戻ってくると、ギルドマスターから軍からの依頼に参加してくれと言われたの。

 クラウスが目をつけられていたの。

 

 クラウスはアクアセイバーを発動させたうえでブラッドグリズリーを真っ二つにしたの。

 トルテ達からしたら見慣れた光景だけど、周りで見ていた兵士はざわざわしていたの。


「なんだありゃ……」


「あれでC級になったばっからしいぜ」


「マジかよ! どんな訓練してるんだ?」





 クラウスはずーっと浮かない顔をしていたの。

 けど、トルテは慰めの言葉が思いつかなかったの。

 ミストラルは聖メルティア教国へ逃げるよう冗談めかして言っていたが、わりと本気そうな感じだったの。


 諦めた様子のクラウスは、それでも最後までダンジョン攻略に付き合うと言ってくれたの。

 敵を倒すときも一撃を惜しむように戦っていたの。


 しばらくして、ギルドマスターにクラウス1人が呼ばれて戻ってきたとき、少しだけクラウスの表情が明るかったの。

 何か策でもあったのかな。


 

◇◇◇



 クラウスがトーマス商会の依頼のために並んでいる長い列を見て不思議がっていたの。

 そっか、これを見るのは初めてなのね。

 戦いでのクラウスを見てると慣れた感じだけど、冒険者になってからまだ日は浅いもんね。


 この長い列の理由をクラウスに教えてあげていると、エリアから呼ばれたの。


 そして、エリアから軍のスカウトがなくなったことが告げられたの。

 クラウスが飛び上がりそうなくらい喜んでいるのを見ているエリアは、いつもの事務的な笑顔とは違ってたの。


 クラウスの口ぶりからすると、エリアが軍に働きかけた感じだけど、そんなことがただの受付嬢にできるわけが…… 

 そういえばこの国の第三王女の名前って確か…… 

 でもエリアという名前はありふれているの。第三王女にあやかっているだけかもしれないの。





◆◆◆◆◆◆


 いつもお読みいただきありがとうございます!


 トルテの回想続きです。22、23、28~31話に対応する内容です。最後でエリアの正体が…… 

 明らかになるのはまだ先の話です。

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