第45話 トルテ 3 

 軍からのスカウトがなくなり、明るくなったクラウスといっしょに六つ子のゆりかごを攻略していたの。

 2日目にして、モンスターハウスを目のあたりにしたの。

 こんなのは軍の管轄なの。

 早く撤退するの。



 でもクラウスはマジカルリングを貸してほしいと言い出して、


「レッドラインからこちらに魔物は来れないんですよね? だったら、ここから攻撃して数を減らせばいいと思いまして」


 と言ったの。

 なんで戦闘になるとこんなに好戦的になるの? 

 いくらクラウスでもこの数は対応できるわけないの。

 さらにクラウスは【攻撃時MP回復】のスキルがあるから大丈夫と言い張ったの。



 どこでそんなレアスキルを手に入れたの、と思うけどそれを聞くよりも早くミストラルが反対したので撤退することになったの。

 でもそれも遅かったみたいで、フリーズクロウが近くに現れ始めレッドラインがさらに広がっていたの。


 クラウスがサンダーウォールで接近や魔法攻撃を防ぎサンダースピアで遠くの敵を貫通し、遅れてやってきた敵をサンダーストームでまとめて薙ぎ払う、を何度も繰り返しているの。



 ありえないの。

 中級の雷魔法ならMP満タンからでも4回が限度のはずなの。

 【攻撃時MP回復】がどれくらい回復するかは知らないけど、これは異常なの。

 しかも雷があまり効かない地属性の魔物もほとんど屠ってるの。

 おそらくトルテより知性のステータスが高いの。

 あと、詠唱速度もトルテと同じくらいだったの。

 いったいいくつスキルを持っているの?



◇◇◇



「死を覚悟しましたが、こうなると余裕ですね。魔法による殲滅戦も可能とは、まだ驚き足りなかったようです。絶対敵に回してはいけませんね。ああ、クラウスさんのそばにいるだけでレベルがどんどん上がっていきますよ」


 ミストラルはそう言いながら魔石やドロップ品を淡々と回収していたの。


 モンスターハウスを消滅させたあと、【撃破時MP回復Ⅰ】が生えていたの。

 クラウスに教えてもらったの。

 っていうか、自分のスキルやステータスが見える、って反則なの。


 でも、トルテのは見えないと言ってたの。

 もし見えたらトルテの固有スキルが他にどんな効果があるのか詳しく教えてもらえると思ったのに、残念なの。


 

◇◇◇



 クラウスが、王国武闘会の週は休みにして自由行動にしたいと言ってきたの。

 戦闘以外ではあまりこういったことを言わないから珍しいの。

 もちろん、了承したの。


 クラウスは毎年家族と観戦していると言っていたの。

 ミストラルは奉仕があるから教会に通っているの。

 トルテも何となく屋台を覗いたり、意味もなくギルドに来てみたりしたの。



 王国武闘会の予選2日目、ギルドでトルテは話しかけられたの。

 パーティなら間に合っているの、と答えようと思ったら、なんと軍のスカウトだったの!



 『クラウスにばかり目がいっていたが、優秀な魔法使いがいると聞いた』、とスカウトの男の人が言っていたの。

 その人のシビルカードには、確かに軍の所属の記載があったの。



 ギルドの別室でスカウトの人と話をしたの。

 トルテが宮廷魔術師を目指していることも知っていて、スキル次第ではそれも可能性があるとも言うの。


 ここはトルテを売りこむチャンス、と思って、15歳から既に地水火風の4つの魔法が使えて、どの魔法を使っても魔法のスキルレベルは4つ全て同時に上がることを伝えたの。


 スカウトの人は、とても驚いた顔をして、『是非とも軍の魔法部隊に来てほしい。活躍次第で宮廷魔術師も夢ではない』、と言ってくれたの。



◇◇◇



 トルテはずっと宮廷魔術師になりたかった。

 これは夢への第一歩なの。



 だけど、ちょっとだけ今のパーティにも未練があるの。

 ミストラルはまあいいとして、クラウスともっといっしょにいたいの。

 顔もまあいいし戦闘以外ではまともな性格だし浪費癖なんかもなさそうなの。


 ただ、強さが明らかにトルテと違うの。

 異次元なの。

 このままいても遠くない将来に足を引っ張るのを目に見えてるの。

 トルテにも夢があるように、クラウスにも夢があるの。

 それを邪魔するようなことになるのもいやなの。



 いろいろ考えているうちに、王国武闘会でテロ事件が起きたの。

 3体の大きな魔物が会場に現れて少しして、魔道具が会場を映さなくなったの。


 テロ事件のあと、ミストラルとギルドに行くと、エリアから伝言があったの。


『会場に居合わせて、現れた魔物の討伐に協力していてさらに軍から要請があったので一時的に協力することになった。無事なので安心してほしい。終われば合流するので待ってほしい』、ということだったの。


 詳細はわからないけど、会場に現れたのはS級の魔物だったと噂が流れていたの。

 噂にクラウスの存在はなかったけど、S級と渡り合っていても納得なの。

 


◇◇◇



 クラウスが戻ってくるまで、ミストラルとまた死者の祠でしばらく稼ぐことにしたの。

 ミストラルが光の矢で攻撃し、残った魔物を火魔法で撃破するの。

 【撃破時MP回復Ⅰ】のおかげで今までよりはMPの心配をしなくてもいいの。

 戦いが楽しいというクラウスの気持ちがちょっとわかった気がするの。



◇◇◇



 クラウスが戻ってきたあと、しばらくしてB級に昇格になったと言ってきたの。

 軍に協力した対価と言ってたの。

 クラウスが今後のことについて、と言ってきたので思わず今のダンジョンが終わってから、て言ってしまったの。

 何を言われるか怖かったし、トルテも言わなければならないことがあるのにもう少し時間が欲しかったの。



◇◇◇



「トルテ、実は軍の魔法部隊に入らないかって誘われてるの」


 六つ子のダンジョンが終わった後、とうとうトルテから切り出したの。

 これでもう後戻りはできないの。


 二人ともトルテの夢のためにと、パーティを抜けることを了承してくれたの。

 クラウスが引き留めてくれないかな…… と思ったけど、それはなかったの。


 残念ながらクラウスはそういうとこ鈍感そうなの。

 トルテもサレンみたいにあからさまなことをしたほうがよかったの? 

 でも、どのみちエリアに勝てる気はしないの。


 このあと送別会をしてもらって、翌日トルテはパーティから抜けたの。


 そしてメイベルの常駐部隊を訪問したの。

 スカウトの人の名前を告げて取り次いでもらったの。


「おう、きたか。歓迎するぞ。厳しくいくからな。まずは基礎訓練、【初級棒術】の修得からだな。後衛でも最低限自衛できるようになってもらうぞ。もちろん魔法の訓練もするからな。宮廷魔術師志望ならそのくらいできんとな」


「はい、お願いしますなの」


 トルテは新しい一歩を踏み出したの。






◆◆◆◆◆◆


 いつもお読みいただきありがとうございます!

    

 トルテの回想編終わりです。

 33~35,42話に対応しています。

 1話で終わるかと思ってたんですが、内容を見返しているうちに追加したいことがどんどん出てきてここまで膨らんでしまいました。

 余力があればいつかifトルテルートも書いてみたいな。

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