第43話 トルテ 1 

 私はトルテ。17歳なの。ミラーノからさらに南のホープライトの出身なの。


 トルテが小さい頃、王族がホープライトを訪れた事があったの。

 王国では、王族が何年かかけて各地を必ず訪問する習慣があるの。

 これは昔のポール王の時代に始まって、その先代レオン王が征服した領土の現状確認のためだったけど、今では王族の権威を示すイベントにもなっているの。


 そのとき巡回していたのは王様になる直前のクロスロード第2王子なの。

 ホープライトで王子様と一緒に来ていた軍による模擬戦があって、トルテは宮廷魔術師による魔法合戦に見とれていたの。

 特に若い女性の両の手から同時に繰り出される2つの魔法はとてもかっこよかったの。


「もし魔法系の固有スキルを得たら、絶対に宮廷魔術師になるの!」


 その思いを胸に抱き続け、15歳になったトルテは固有スキルのおかげで地水火風の4つの属性魔法が最初から使えるようになっていたの。


 年に一度ある軍の採用試験に応募しようとしたけど、両親に反対されたの。


「宮廷魔術師は軍のなかでもエリートが選ばれるんだろう。だいたい貴族の子女が多いし、そもそも過酷で危険な軍に入ってお前が耐えられるとは思えない。優雅そうに見えたかもしれんが、裏では厳しい訓練に耐えているんだ。今までは子供の夢と思って何も言わなかったが、よく考えるんだ」


 両親がトルテのことを心配しているのはわかるの。

 でもせめて挑戦はしてみたいの。

 

 ちょうどホープライトで結成されたばかりの冒険者パーティがあると聞いて、親の反対を押し切って加入したの。

 まずはダンジョンを踏破できる体力が必要と思ったの。



◇◇◇



 当初は順調だったの。

 でも、早々にE級に上がってメイベルに拠点を移してからみんなに少しずつ変化が起きていたの。


 D級以下の冒険者は、依頼をこなしたり魔石やドロップ品をギルドに納めるだけでは生活が厳しいから副業をしていることも多いの。

 トルテ達も冒険の傍らで副業を行っていたけど、1人は副業を本業に変えるといって就職してしまい、もう1人は冒険者稼業のつらさに耐えられず脱退してしまったの。


 こうして残り4人になったところで、何とかD級に昇格できたの。

 でもパーティ内に熱意の差があって、結局パーティは話し合いにより解散してしまったの。


 そんなときちょうどウォーレンがギルドの掲示板に魔法使いを募集していたから、ウォーレン、サレン、ミストラルのパーティに参加したの。


 パーティの存続はC級になるまで、とのことで、少なくてもそこまでは道が保証されているの。

 このリーダーの指示は常に的確で、前のパーティより戦いやすかったの。

 ただ、前衛1人のためウォーレンの負担は重くバランスが悪いと思ったから、もう1人前衛を増やすように提案したの。


 そうして新たに加入したのは茶髪で少し癖っ毛がある、どこにでもいそうだけどちょっと顔のいい年下の男の子だったの。


 冒険者を始めたのは最近らしいけど、既に【中級剣術】が使えて【初級水魔法】、さらに【初級錬金術】までも使えるというの。

 そんな人間がなぜソロなのとも思うけど、人に言えない固有スキルがあるかもなの。




◇◇◇




 クラウスという男の子は見た目に反して戦闘では勇猛なの。

 時々前に出過ぎる時があるけど、全ての敵を一撃で倒していくの。


「ウォーレンさん、あの5体は僕に任せて下さい。それと少し離れていて下さい」

 

 力を見せてもらうために潜った『沈黙の谷』では、ワイルドウルフ5体をあっという間に倒してしまったの。

 しかもまだ余力があるというの。

 この強さならソロでもいける、というかトルテたち逆にいらないんじゃないかと思うくらいだったの。

 でも、クラウスは初めてのパーティだったせいか常に低姿勢だったの。

 この実力でその性格ならトルテが彼女に立候補しちゃおうかな。



◇◇◇



 『毒の庭園』のボスのヴェノムトレントもクラウスの一撃であっさり倒せてしまったの。

 かろうじてトルテの水魔法を必要としてくれたけど、本気のクラウスならいらなかったはずなの。



 何度かヴェノムトレントを倒してミストラルが中級光魔法のオーディナリーを修得したことを話すと、クラウスが解呪ができるか聞いていたの。


 なんだかさりげなく聞いているようなふりをして、何かを期待しているような感じが丸わかりだったの。


 結局、解呪ができないと分かったクラウスはこっそりとため息をついていたの。

 何か事情があるのかもしれないけど踏み込んで聞けなかったの。


 

◇◇◇



 午睡の草原に挑み始めたあたりから、サレンがクラウスへの態度を変化させていたの。

 クラウスを気遣うような行動が少しずつ多くなっていったの。

 それは、おそらくサレンもクラウスを狙っているからなの。

 まったく、ウォーレンという優良物件が既にいるのにどういうつもりなの?



 珍しくクラウスが睡眠の罠に引っかかったときのサレンの態度はあからさまだったの。

 自分の【罠発見】が遅れたことにかこつけてクラウスに誘惑まがいのことをしてたの。

 クラウスにアウェイクをかけて治したのはトルテなのに。


「クラウス、アウェイク1回分貸しにしとくの」


「トルテさん、ありがとうございます」


 お礼がわりに付き合ってくれないかな。

 サレンになびく様子がないだけでもマシなの。

 ウォーレンもサレンに注意すべきなの。


 この後、クラウスは宝箱の罠の解除と解錠をしていたの。

 魔法以外なら何でもできるの。

 なら、魔法の得意なトルテとお似合いなの。





◆◆◆◆◆◆


 いつもお読みいただきありがとうございます!


 離脱したトルテの回想編です。16〜21話に対応する内容です。

 少なからずクラウスに好意を持っていました。

 行動に移すことはなかったですが。

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