第28話 パーティ再び
C級に昇格したらようやくいっぱしの冒険者として見られることになる。
冒険者の数が一番多いのもC級だ。
B級へのハードルが高いためC級にとどまる者が多い。
それでも生活していけるぐらいの収入はなんとか確保できるので、あえて上を目指さない者もいる。
大怪我などをして冒険者としてやっていけなくなっても、それまでの経験次第ではギルドに雇ってもらえたり他の仕事にもつけたりする。
B級になるには通常の依頼に加え、C級ダンジョンのボスの魔石を100個以上、かつ5か所以上のダンジョンの分だけ必要だ。
通常の依頼も受けられる種類が増える。
護衛依頼も受けられるようになるが、人数指定が多いのでソロの場合は厳しい場合が多い。
そして護衛依頼も最低10回は受けないといけないので、僕にとってはこれが一番きついかもしれない。
◇◇◇
ギルドの掲示板を見ていると、懐かしい声が聞こえてきた。
「トルテちゃんよう、俺らのパーティに入らないか? 魔法使いが足りねえんだ」
「いやなの。他をあたってなの」
トルテさんが勧誘を受けているようだ。
目があってしまった。
すると、トルテさんがこちらへ駆け寄ってくる。
「これからこの人と組むの。だから諦めてなの」
すると、先ほど勧誘していたパーティが僕を睨んでくる。
完全にとばっちりだ。
しかもそのうち一人のステータスが見える。
すかさず思考を読むと『邪魔するな殺すぞ』、と考えていた。
トルテさんを仲間に入れて、いずれはあんなことやこんなことを無理矢理にでもするつもりのようだ。
そいつはC級で、ステータスは全部僕より下だしスキルもいいものがない。
ただ、試したいことがあったから【交換】しておいた。
で、トルテさんのことを知らないわけでもないし、この連中はあまり良くないと思うのでトルテさんに合わせることにした。
「そういうことなので、皆さんここは引き下がってください。ここで揉め事を起こす気ですか?」
ギルドに揉め事がバレれば非行として記録される。
あまり酷いと登録が解除され、魔石や素材の買取が拒否されることになる。
これは、冒険者の登録時にちゃんと説明がある。
また、冒険者を辞めて他の職に就く時、この記録の提出を求められることが多いので、表立って争う者はそうそういない。
住民から通報されても同じなので、ギルド外でも暴れたりする者はあまりいない。
このパーティも大人しく引き下がっていった。
◇◇◇
「クラウス、助かったの」
「あのパーティはあまりよくないと思いましたので。ミストラルさんはどうしたんです?」
「ミストラルはシビルカードの更新で役所に行ってるの。外国人は定期的に審査があるの」
◇◇◇
ティンジェル王国以外の者は、基本的に入国が厳しい。
入国税をまず払わなければならない。
そして、入国できたとしても王国への貢献ができない者は強制的に出国させられる。
貢献とは、だいたいの場合納税だ。
特殊な技術があればその提供でも認められる。
神官なら光魔法を主として回復魔法が使えるはずなので、教会や孤児院での奉仕が求められる。
ミストラルさんの場合は週に一度奉仕をしているが、これでは貢献が足りないので冒険者ギルドへの納品によって補っている。
ギルドからもらう報酬は、税金分が差し引かれておりギルドが代わりに税金を国に納めている。
これが貢献とみなされる。
また外国人がシビルカードの更新をしない場合不法入国者となり、見つけ次第処分しても構わないことになっている。
発見者や処分者には報酬が出る。
外国人って大変なの。
と、トルテさんは説明してくれた。
なかなか博識だ。
◇◇◇
「じゃあ、ミストラルが戻ってきたらパーティー登録をするの」
「ホントにするんですか?」
「なかなかメンバーが見つからなくて困ってたの。クラウスはイヤなの?」
「別にいやではありませんが……」
しばらくしてミストラルさんが戻ってきた。
「お待たせしました、トルテさん。クラウスさんもお変わりないようで何よりです。今日はどうされたのですか?」
「ミストラル、クラウスがパーティに入ってくれるの」
「ええ、いろいろありまして」
「大変ありがたいのですが、良いのですか? クラウスさんの強さですと私は足手まといかと思われますが」
「僕もソロだとまずいなあ、と思うところがありましたので。ウォーレンさんの時みたいにどこかに一時加入も考えているところでした」
「そうですか。それではしばらくよろしくお願いしますね」
「じゃあ3人でパーティ登録するの」
というわけで、再びパーティ結成だ。
活動は明日から、ということで今日は解散した。
準備として、毒消しと光明薬が必要らしい。
光明薬は、状態異常の『暗闇』を治す薬だ。
暗闇は、物理攻撃の命中率が一定時間下がる。
物理主体の僕にはちょっとつらい。
◇◇◇
家に帰ってきて、トルテさんに絡んできたパーティ一人から交換したスキルでの実験をしてみた。
まず交換したのは、相手の【腕力上昇Ⅲ】と僕の【生活魔法】。
そして、すでに持っている【腕力上昇Ⅴ】と統合しようとするが、レベルに差があるスキルの統合はどうなるのか【交換】スキルに意識を向けてみた。
◇◇◇
そもそもレベルのあるスキルに関しては、熟練度とも呼ぶべき見えない数値があるらしい。
スキルのレベルが上がったり上位スキルに変化するには、この熟練度とスキルの使用に関連するステータスとの合計が一定以上必要だ。
そして、レベルアップに必要な熟練度とステータスは個人差が激しい。
いわゆる才能の有無だ。
その上、固有スキルによってはさらに上にも下にも補正がかかる。
それで同種のスキルの統合は、熟練度を合計するということだ。
そして、低いスキルレベルの熟練度を高いスキルレベルの熟練度に足してもレベルアップは見込めない。
というお答えが返ってきた。
◇◇◇
というわけでせっかくもらったスキルだが、二つもレベル差があると統合しても無駄だと思うので、何もせず放っておくことにした。
あとこの仕組みからわかるのは、スキルを強くしたければとにかく技や魔法を使い敵を倒してレベルを上げろ、と言っていた冒険者養成講座の指導はだいたい合っていたということだ。
才能の有無はどうしようもないけど。
◆◆◆◆◆◆
※番外編を書いています。
◆番外編 メルティアの偉大な指導者
https://kakuyomu.jp/works/16818093083567610939/episodes/16818093083567710049
いつもお読みいただきありがとうございます!
やっぱりというかなんというか、パーティ再結成です。
まあ見知っている人がいる方がパーティ組みやすいですよね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます