第26話 暁の戦士団 3 

 僕が情報を持って行ったのは、もちろんエリアさんだ。

 ただ、この話をするには【交換】スキルで相手の思考も読めるようになったことも言わなければならない。

 でも、まあ今更だろう。



 以前と同じく、サブマスの部屋に案内される。

 ギルマスも同席した。



 そして、僕は、マジックバッグの所持が暁の戦士団にバレて命を狙われていること、それをギルドのジバンという職員が漏らしたこと、次に横流し品のやり取りが一週間後に行われること、これらは新しく気づいた【交換】スキルの使用法によりわかったことであることを話した。


「居場所だけでなく考えることもわかっちまうのか。絶対に悪意を持てねえな。もうクラウスを倒すには視界に入る前に一撃で、しか思い浮かばねえぜ」


「ギルドマスター。クラウスさんは命を狙われているからここに来ているのですよ。冗談にしても許されるものではありません」


 エリアさんが無表情でギルマスを見る。

 サブマスもギルマスに鋭い視線を向けていた。

 合図でもあればギルマスに襲いかかりそうだ。



「いや、すまねえ。クラウス、すまんこの通りだ。ちょっと事態が重くてな、俺もおかしなことを口走ちまった」


「ギルドマスター、僕もこの使い方がわかって以降、もし僕が僕を倒そうとしたらそれ以外ないなと考えていました。相手からすれば脅威でしょうから、いつか僕を力づくで排除する人が現れるかもしれません」


「…………」


 エリアさんの無表情がさらにキツくなる。

 美人でも怒ると怖いんだな。


「クラウス、勘弁してくれ。そんなつもりじゃないんだ。このままだと俺は生きてこの部屋を出られない」


「いや、すみません。僕も僕自身についてギルドマスターと同じ意見ということを言いたかっただけです。エリアさん、僕のこと心配してくれてありがとうございます。ギルドマスターは僕に悪意を持っていないのがわかっていますから、大丈夫です」


「……わかりました。ギルドマスター、今後は不用意な発言を控えていただくようお願いします」


「承知いたしました」


 ようやく威圧感から解放された気がする。

 重苦しかった……。

 早く本題に戻ろう。




「それで、一週間後のやり取りを確認してもらってから、僕の言うことが嘘でないと信じてほしいのですが」


「もともと疑っちゃいないさ、クラウスよ。だがまあ、目に見える証拠が必要だ。そうだな、王都の本部に連絡して帳簿の確認の人員をよこしてもらうか。名目は臨時の監査とかで。あと、クラウスの命が狙われている件については、少し待ってくれないか。ダンジョンに入らなければ大丈夫なんだよな? 先にそっちを捕まえるとジバンに逃げられるかもしれない」


「はい、彼らはダンジョン内で殺すことにこだわっていました」


「となると、3週間、いや、2週間の時間がほしい。その間ダンジョンに行かず彼らに会わないようにしてほしい。ああ、彼らの居場所がわかるんだったか」


「はい、会わないようにできます。では、ダンジョンに行かない2週間のうちに彼らのステータスやスキルを【交換】して弱体化しておきます。ついでに、家で錬金術の練習でもしています」


「すまんな。ダンジョンに行けない2週間については、暁の戦士団を捕えた後で彼らの財産から幾分か補償ができると思う。他の犠牲者がどれくらいいるかにもよるが。それと、2週間後、ダンジョンに潜って彼らの口から直接先ほどの話が出るよう誘導してほしい。できるか?」


「おそらくできると思います」


「その時は俺も着いていくからな。クラウスが負けるとも思えんが、俺もやつらに鉄槌を下さんとな。さて、忙しくなるな。ジバンの管理する帳簿の再確認と、暁の戦士団と関わって行方が分からない者も全て確認だ。それと一週間後のやつらのやり取りもか。マリー殿、協力を頼むぞ」


「もちろんです、ヴェイン殿」


「それとクラウス、俺のことはヴェインと呼べ。長い付き合いになりそうだからな」


「わかりました、ヴェインさん」




◇◇◇




 というわけで無事にギルドの協力を取り付けた僕は、2週間かけて暁の戦士団といろいろ【交換】した。


体力:840(←350)

速さ:707(←226)

知性:590(←101)

精神:583(←162)

スキル

【中級盾術Ⅳ】(←【ドロップ率上昇Ⅱ】)

【体力上昇Ⅳ】(←【体力半減】)

【詠唱時防御】(←【知性半減】)

【詠唱短縮Ⅲ】(←【MP回復力半減】)

【精神上昇Ⅳ】(←【消費MP軽減力半減】)

【知性上昇Ⅳ】(←【スキル成長速度半減】)

【麻痺耐性Ⅲ】(←【毒耐性Ⅰ】)

【中級光魔法Ⅳ】(←【生活魔法】)

【中級水魔法Ⅳ】(←【初級水魔法Ⅰ】)

【攻撃時MP回復Ⅲ】(←【状態異常耐性半減】)

【レアドロップ率上昇Ⅱ】(←【ドロップ率半減】)




 一日一回どれを交換しようかなあ、と悩んだ結果がこれだ。

 今回でマイナススキルは一つを残してなくなった。

 ステータスは5人の中から僕より高いものを交換しておいた。

 体力だけは交換していないが、フィッツの【体力上昇Ⅳ】と僕の【体力半減】を交換した結果上昇している。


 個人的に目玉だったスキルは【攻撃時MP回復Ⅲ】だ。

 これは敵に攻撃が当たる度に、自分の最大MPの3%が回復する。

 ディオールが持っていて、彼が技を乱発できていた理由がこれだ。

 僕と戦った時点でもう持ってなかったからすぐにMPが切れたけどね。


 あとは【詠唱時防御】。

 魔法の詠唱中は無防備になるが、このスキルがあれば詠唱中でも防御したのと同じ効果を得られる。

 攻撃を受けるたびにMPが1減る。

 雷の魔法使いが持っていた。


 雷の魔法は、水と風を両方持っていれば使えるようになり、スキルレベルは低いほうに合わせる。

 全ての攻撃魔法に麻痺の追加効果があるが、消費MPが他の魔法より多い。

 暁の戦士団にいた雷の魔法使いは、固有スキルにより雷魔法の消費MPが半分になっていた。


 が、500近くあった知性を交換し、【知性上昇Ⅳ】をもらって【知性半減】を差し上げたので、結局彼の知性は53になっていた。

 ここまで知性が低ければ、追加効果の発動率も低いので、ほぼ無力だ。

 が、状態異常を舐めてはいけないので、念のため【麻痺耐性Ⅲ】ももらっておいた。


 そんな感じで彼らの長所を削りつつ、僕の強化ができあがった。

 


 あとはわざとジバンに向かって明日沈黙の谷に向かうことを話して暁の戦士団を誘い出し、彼らの口から僕の殺害について喋らせそれをヴェインさんが確認する。


 そして、弱体化した暁の戦士団を捕縛し今に至るというわけだ。






◇◇◇






 暁の戦士団は、ギルドの取り調べ(という名の拷問だが……)の結果、メイベルに来る前も含めた10人以上の殺害を認め、メイベルに来てからはジバンと組んで10年以上ギルドの物資を横流ししていたことも認めた。


 暁の戦士団は全員死刑。

 ジバンは20年の強制労働の刑となった。

 

 それと、長年の不正を見抜けなかったため、メイベル支部は本部から毎年の監査の受け入れを3年間義務付けられ、その費用はメイベル支部で負担することが決まり、さらに在庫や帳簿の管理のための人員を増やすこととなった。



 ヴェインさんから、処刑まで一週間あるので、その間に交換できるものがあったらしておけ、と言われた。

 早速、斥候役が持っている【クイックⅠ】(速さ30%上昇)と【速さ上昇Ⅴ】(速さ25%上昇)を交換する。


速さ:735(←707)

スキル

【クイックⅠ】(←【速さ上昇Ⅴ】)


 まだあと6日交換の機会があるが、ここに来て問題が発生した。

 残っているスキルが、僕が使えると思ったスキルばかりなのだ。

 【生活魔法】すら交換で出してしまった。交換の元になるスキル候補がもうない。






◆◆◆◆◆◆


 いつもお読みいただきありがとうございます!


 クラウスの強化回でした。

 強くする塩梅が難しかったです。

 後の展開次第ではちょっと変えるかも。


【体力上昇Ⅳ】(体力+20%)

【精神上昇Ⅳ】(精神+20%)

【知性上昇Ⅳ】(知性+20%)

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