第25話 暁の戦士団 2
暁の戦士団リーダーのディオールが繰り出した瞬速連斬を防いだあと、僕は後ろにいる人間に問いかける。
「これでいいですよね、ヴェインさん」
「うむ、バッチリだ。しかし、全部お前の言うとおりだったな」
『閃影のローブ』で気配を隠していたギルマスが僕の後ろから姿を現す。
「お前ら、全部聞いてたからな。知ってるだろうが冒険者殺しはギルドにとって大罪だ。バレなきゃいいとでも思っていたか? まったくギルドの職員まで抱き込みやがって。もう許さねえからな」
ヴェインさんは現役時代の装備を持ち出してここに来ていた。
激おこだ。
そばにいる僕もヴェインさんの殺気が恐ろしい。
「ギルドマスター、これはちょっとした戯れですよ。彼を勧誘しようとしてもなかなか応じてくれないので、ちょっと強気を演出しただけです」
「ディオール、無駄だ。すでにジバンは昨日の深夜に拘束してあらかた吐かせている。クラウスのことをお前らに教えたことも、以前からギルドの物資を横流ししていたこともな。これ以上俺を怒らせるな」
暁の戦士団はディオールに体を向けて判断を待っていた。
「チッ、2人なら何とかなるだろ。ロートルごと殺せ。いい装備も手に入るぞ」
「「「「おう‼」」」」
「紳士の皮を脱いだか、ディオール。だが、お前らに勝機はないぞ」
そして、僕の後ろからさらに助っ人が来る。
「待たせたな。私も戦うぞ」
サブマスターもやってきた。
「ちっ! このガキから狙って頭数を減らせ!」
そう言いながらディオールが僕に突撃してくる。
盾役のフィッチともう一人の斥候役がヴェインさんとサブマスを抑えにかかり、残りの魔法使い2人は僕に向けて詠唱を開始する。
ディオールはレベル90。
興奮時に腕力、体力が30%上昇し、知性、精神が20%減少する固有スキル【紳士の本性】を持っている。
だが、僕も【弱者の意地】でステータスが55%上昇だ。
ディオールのステータスが上がったところで差は埋まらない。
後ろにいる魔法使い2人も事前にほぼ無力化している。
いくら魔法を撃たれても問題ない。
ディオールが斬りつけてくるが、すべて盾代わりの左手のブレイズダガーで受け流した。
フィッチから【中級盾術Ⅳ】を交換しているから、簡単にあしらえる。
あせったディオールは、
「剛力剣! 死ねえ!」
と大きく振りかぶって斬りかかってきた。
この技はそこそこ隙があるものの、腕力を2倍相当まで上げて攻撃できる必殺の技だ。
躱すのは簡単だがせっかく買ったメタルブレードであえて迎え撃ち、弾き返してやった。
「バカな!」
剣撃を弾かれて無防備なところに渾身の蹴りを見舞ってやる。
ディオールは吹き飛び後ろの壁に激突する。
よろよろと立ち上がるディオール。
まだ目の炎が消えていない。
「さっさと回復しろ! 雷魔法を撃て! 何をしてやがる!」
魔法使い2人に怒鳴るが、雷の魔法使いは知性が2けたしかなく回復役も全体回復魔法が使えなくなっていて、ちまちま回復するだけで後手に回っている。
「くそっ、このガキなんて強さだ!」
「クラウスの強さをジバンから聞いていなかったのか?」
フィッツを盾技のシールドバッシュで吹き飛ばしたヴェインさんがディオールに問いかける。
「あいつめ、肝心なところが抜けてやがる。くそっ、瞬速連斬! 清流剣!」
半ばやけくそになって技を繰り出してくるディオールだが、すぐにMPが尽きて動きが鈍くなった。
「もう技も使えないでしょう。大人しくして下さい」
「うるせえ!」
まだ抵抗するディオールの腹と頭を剣の柄で殴り、気絶させる。
ヴェインさんとサブマスもそれぞれ相手を気絶させていた。
魔法使い2人はもう諦めて抵抗せず大人しくしていた。
「久々にいい運動だったぜ。ったく、ジバンのせいで徹夜明けだ。殺さず捕まえるってのは相変わらず難易度が高いな。気分的にもな」
「余罪を吐かせるのですから、勢い余って殺してはいけませんよ、ヴェイン殿」
「分かってるよ。こいつらに殺されたかもしれないやつらのことを思うと、つい、な」
この後5人を連れて帰還し、ギルドの地下に拘束した。
ギルド内部で起こった事件なので、犯人の処罰までギルドの裁定に任されている。
これは昔ギルドが独立組織だった頃の名残だ。
しばらくギルドは慌ただしかったが、概ね予定通りのようだ。
僕は事の始まりである2週間前を思いだしていた。
◇◇◇
暁の戦士団に声をかけられて振り向いた瞬間、ステータスやスキルが浮かんできた。
そして僕はすぐにディオール達の思考を読むことにした。
「D級でソロのクラウスだよね。僕たちB級パーティ『暁の戦士団』に入れてあげるよ」
(こいつがD級のくせにマジックバッグを持ってるクラウスか。茶色の髪に水のローブ、ジバンの言ったとおり間違いないな)
「せっかくですがお断りします。ソロが楽しい時期なので」
「まあそんなこと言わずにさ。僕たち君のことを買っているんだよ。パーティに加われば、B級昇格まで手伝ってあげられるよ」
(ダンジョン内で殺すから昇格できないけどね)
「自力でできるところまで挑戦したいんです」
(若くて青いねー。早くいうことを聞けよ)
「こんなチャンスもうないと思うんだけどな〜。後からやっぱり加入させて下さい、って頭下げても入れてあげないよ?」
「そうならないように努力するつもりです」
(生意気なやつだ。だが外で殺すわけにはいかない。あくまでダンジョン内だ。どこのダンジョンの魔石を納品しているか、ジバンに情報をもってこさせよう)
「その努力が続くことを祈っているよ」
(もうその努力もしなくてよくなるけどな)
◇◇◇
彼らは僕がパーティに加入しようがしまいが、ダンジョン内で僕を殺してマジックバッグを奪うつもりだったのだ。
ダンジョン内の魔物から採れる魔石や素材は、生活に欠かせないものだ。
それをもたらす冒険者が減るのは望ましくないため、ギルドは冒険者間の殺しについては厳しい罰を設けている。
が、ダンジョン内で殺しても、目撃者がいなければ単に行方不明で終わることが多い。
彼らはそれを狙っていた。
また、フィッツの思考からジバンというのは納品窓口の長髪の男性職員ということがわかり、さらに長年暁の戦士団にギルドへの納品物を少しずつ横流しして代わりに金を受け取っていることも分かった。
長年在庫や帳簿の管理を任されていて、信用されているから可能なようだ。
さらにジバンは、今回の僕みたいに珍しいアイテムを持っている冒険者のことも暁の戦士団に情報提供していた。
もちろん、冒険者の情報は本人が明かさない限り秘密なのが当然で、そういった情報が集まるギルドにおいて情報漏洩があったら信用問題にかかわる事件となる。
毎年酒の席で他の冒険者の情報をうっかりお漏らしして処罰される職員がいるくらいだ。
フィッツによると、次は一週間後に物品の受け渡しをするようだ。
僕はこの情報を持って信頼できるあの人のところへ行くことにした。
◆◆◆◆◆◆
いつもお読みいただきありがとうございます!
次の回で暁の戦士団の回が終わります。
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