第24話 暁の戦士団 1 

 ブラッドグリズリーの調査の2日目。

 【探知】に数多くの反応があったので巣があるのかもしれないと思い、慎重に近づいていったら、一際大きな反応が現れた。


 ブラッドグリズリーと同じ大きさだが、胸に黄色い三日月の形をした毛が生えている。

 さらに爪が赤い。

 上位種だろう。



 僕と目が合う。

 そいつが上を向いて吠えた。

 野獣の咆哮だ。

 【探知】の範囲を広げると、魔物の反応がこちらに向いて近づいてくる。

 【隠蔽】が通用していない。

 たぶんこの上位種に対しては僕の【隠蔽】のレベルが低いんだろう。



 こうなったら仕方ない。

 もう戦うしかない。

 まずは近くにいたブラッドグリズリー5匹を瞬速連斬と通常攻撃で斬り殺す。


 そして、上位種と相対する。

 今度は僕に向かって直接吠えてきた。


 見えない衝撃波が僕を襲い、周りの木々も同時に震える。

 そして僕の足が少しすくむ。

 腕力も少し下げられてしまった。


 風切り音と共に赤い爪が僕に向かって振り下ろされる。

 すんでのところで何とか躱したが振り下ろされた爪からも赤い衝撃波が発生し、後ろの木に爪痕を残す。


 今度はこちらの番だ。


「清流剣‼︎」


 ブラッドグリズリーは水属性が弱点だ。

 だからその上位種にも効くはずと思い、清流剣で攻撃する。

 右から袈裟がけに斬りつけ、剣がめり込んだところでクレイモアが根本からパキン、と折れてしまった。


 そういえばこんな事が前にもあった気がする……

 


 上位種は右腕を水平に振るって僕を刻みにくる。

 しゃがんで躱したついでに【トラップシーカー】で罠を仕込んでおき、後退する。


 すると上位種は追撃のチャンスと見たか、こちらへ踏み込んでくるがここで罠が発動する。


 発動したのは『泥沼』。

 水魔法が使える者が用意できる罠だ。

 深いぬかるみに足を取られた上位種は踏み込みの勢いのまま前に倒れ、地響きがした。


 すかさず背中の上に乗って、右手に持ち替えたブレイズダガーで三日月の模様があるあたりを突き刺していく。


 3回目あたりで急所に当たったのか、上位種は動かなくなっていた。

 同時に、【弱者の意地】の効果が消えていたので、倒したのは確実だ。

 また、【隠蔽】もレベルが上がっていた。

 

 あとは、最初の咆哮により呼ばれたブラッドグリズリーを倒さないといけない。

 倒した上位種とブラッドグリズリー5体の魔石とドロップ品の赤熊の毛皮をマジックバッグに収納する。


 呼ばれたブラッドグリズリーは僕を見つけるなり襲いかかってきたが全て返り討ちにした。



 そのまま調査を続けてギルドに戻ってくる。

 そして、エリアさんに調査結果を渡す。

 報酬は依頼の基本部分をもらい、情報の重要度を加味して後日追加があるかも知れないとのことだ。


 次は納品窓口で、今回仕留めた魔物を引き取ってもらう。

 魔石とドロップ品をバッグから出して長髪の男性職員に確認してもらい納品書をもらった。

 あの上位種は、B級のグレートグリズリーという名前だった。


 この報酬で新しい剣を買おう。

 もっと丈夫なやつを。

 



◇◇◇




 いつもの武器防具店『蒼剣の煌めき』でB級ボスに耐えられる片手剣を見繕ってもらったら、メタルブレードを薦められた。


 攻撃力は少し控えめだが、耐久力は抜群とのことだ。

 今の僕にはちょうどいい。

 お値段もなかなかのもので、これを購入したから、防具の新調ができなかった。



 武器を新調してから1週間ほどの間に他のいくつかの依頼を終える。

 明日は沈黙の谷の7階から再攻略をしようと思ってギルドを出たら、見知らぬパーティから声をかけられた。





「D級でソロのクラウスだよね。僕たちB級パーティ『暁の戦士団』に入れてあげるよ」


 とっても上から目線だ。

 雲の上にでもいるつもりなのだろうか。


 返事はもちろん、


「せっかくですがお断りします。ソロが楽しい時期なので」


「まあそんなこと言わずにさ。僕たち君のことを買っているんだよ。パーティに加われば、B級昇格まで手伝ってあげられるよ」


 あんたらのお目当ては僕じゃないでしょ。


「自力でできるところまで挑戦したいんです」


「こんなチャンスもうないと思うんだけどな〜。後からやっぱり加入させて下さい、って頭下げても入れてあげないよ?」


「そうならないように努力するつもりです」


「その努力が続くことを祈っているよ」



 暁の戦士団、と名乗る5人組はいったん去っていった。

 




◇◇◇






 クラウスと別れた後の暁の戦士団。


「ディオール、ほんとにあのガキが持ってんのか?」


「フィッチ、ジバンが僕らに嘘をつく理由がない」


「そうだけどよー。あんなヒョロそうなのに、もしかして貴族なのか?」


「いや、よほどの物好きな貴族様でなければ単身で冒険者をするはずがないだろう。まあ、いつものとおりやればいいさ」


「これで俺らもだいぶ楽になるな。荷物の収納を考えなくてよくなる」


「その通りだ。彼には悪いけどね」


「そんなこと思ってねえくせに」


「違いない」


 男たちの笑い声が部屋に響いた。





◇◇◇





 暁の戦士団と会ってから2週間の間、僕はダンジョンには行かず家でひたすら錬金術を使ってポーション類を作成し、合間に冒険者ギルドに行ったり足りなくなった素材を取りに出かけたりしていた。

 おかげで僕の錬金術は【初級錬金術Ⅳ】まで成長した。


 沈黙の谷に向かう前日、ギルドの納品窓口であらかじめ採取しておいた常設依頼の素材を納品しつつ、長髪の男性職員に『明日の昼過ぎ頃からは沈黙の谷の7階に行きますので魔石の買取をお願いしますね』と言っておいた。


 そして次の日、沈黙の谷の7階に転移して少し進むと、ちゃんと暁の戦士団がいた。





「クラウスでしたか。奇遇ですね。最後のチャンスです、僕たちのパーティに入りませんか」


「B級パーティがD級ダンジョンにいるなんて、ホントに奇遇ですね。だけど、お断りします」

 

「はっ、もう少し賢けりゃちょっとだけ長生きできたのによう」


「それはどういう意味ですか、フィッチさん」


「もうすぐ死ぬ貴様には関係ねえよ」


「まあいいじゃないですか、フィッチ。何もわからないまま死ぬのはあまりにも不憫です」


「相変わらず紳士ぶってんな、ディオール。まあいいか。お前、マジックバッグ持ってるだろ。殺して奪うってことだよ」


「誰から僕のマジックバッグについて聞いたんですか」


「ギルド職員のジバンからですよ。いるでしょう、納品窓口に長髪で真面目そうな男の職員が。さあ、時間稼ぎのおしゃべりはここまでです。死になさい、瞬速連斬‼」


 ディオールから瞬速の四連斬が繰り出される。

 が、僕は全て左手のブレイズダガーで防ぎきる。


「これでいいですよね、ヴェインさん」






◆◆◆◆◆◆


 いつもお読みいただきありがとうございます!


 久しぶりにクラウスが悪い人達にからまれます。

 

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