第23話 再びソロに 

 サレンさんのアプローチをかわし、最後の3日目で何とか9回目のボスも倒してノルマをクリアした。

 僕はレベルが1上がっていた。


 最後のほうは罠の場所もだいたい覚えていたから、ボスまで進むのもスムーズだった。


 無事ボスの魔石を納品して、僕以外の4人はC級に昇格した。

 そして、僕とウォーレンさんとサレンさんはパーティ登録を解除する。

 ここまでがウォーレンさんとの約束だ。

 そこでパーティで最後の祝賀会を行うことになった。




「今まで俺に付き合ってくれてありがとう、みんな。無事にC級になれたのはみんなのお陰だ」


「どういたしましてなの」


「今までお疲れ様でした」


「とりあえずの目標クリアね、ウォーレン」


「おめでとうございます、ウォーレンさん」


「俺とサレンはここで終わりだが、ミストラル、トルテ、クラウスのこの先が上手くいくように祈ってるよ。クレミアン商会をこれからもよろしくな」


「ちゃんと宣伝してるの。買い物のときは安くして欲しいの」


「お世話になりました。ウォーレンさんの人生に光あらんことを」


 パーティがいつも使っている酒場でささやかなお祝いだ。

 僕とトルテさん以外はお酒を飲んでいる。

 ソロでは味わえない体験だ。

 臨時でもパーティを組むのはいいかもしれない、と思ってしまう。


「ウォーレンさん、これからどうするんですか?」


「王都の本店に戻って修行の続きだな。兄貴2人との勝負が待ってる。俺はようやくここからが本番だ。それにしても相棒、助かったぜ。予定より早くC級になれたからな」


「お役に立ててよかったです」


「クラウスくん、私からもありがとう」


「サレンさん、ウォーレンさんに付いて行くんですよね」


「ええ、そうよ」


 心の中では、サレンさんはまだ僕のことを諦めていないようだ。


「クラウス、これからどうするつもりなの?」


「そうですね……。またソロに戻ってとりあえずランク上げですかね。トルテさんとミストラルさんはどうするんですか?」


「詳しいことはまだ決めておりません。前衛を募集するか、どこかのパーティに所属するか、といったところでしょうか」


 この後は一緒に攻略したダンジョンの話をしたり、D級でお得な依頼を聞いたりして時間が過ぎていった。




 祝賀会が終わって家に帰る途中、後ろから声をかけられる。


 サレンさんだ。


「クラウスくん、この間の話考えてくれたかな?」


 サレンさんが近づきながら話しかけてくる。


「ウォーレンさんはどうしたんですか?」


「酒場の2階の部屋で寝ているわよ。珍しくかなり飲んでたからね」


「そうですか。彼氏ほっといていいんですか?」


 さらにサレンさんが近づいてくる。

 前とは違う香水の香りが漂ってくる。


「ふふっ、ウォーレンがね、あなたのことを褒めちぎっていたわ。損得をあまり考えずに他人の評価をするのって珍しいのよ」


「…………」


「そんなあなたに私も惹かれたのかもね」


「ごめんなさい。お断りしま……」


 僕の言葉の途中で、サレンさんが抱きついてきた。

 薄着のせいか大きな胸の感触がわかる。

 うーん、でかい。


 そして、サレンさんの顔が近づいてくる。


 僕はサレンさんの肩を掴んで押し返した。


「キスは初めてかな? 怖いの?」


 挑発されているが、それには乗らない。


「キスもまだですし、恋愛経験もありません。でも、こんな形では嫌です」


(ここまでして落ちなかった男はいないのに、どうして?)


 それはたぶん本人も気づかないうちに【詐術】と【一意専心】が機能していたからだろう。

 だが、仕組みが分かり思考が読める僕には効かない。


「パーティでいる間にあなたから学んだこともありました。だから、僕から一つだけ思うことを話します」


「それは何?」


「サレンさん、なるべく一つの物事に集中したほうがいい結果が出やすいと思います」


「ウォーレンと別れないと付き合わないということかな?」


「サレンさんと付き合うつもりはありませんが、サレンさんが誰かと付き合うなら、一人だけに集中したほうがいいということです。あなたにとってはお節介かもしれませんが」


(そういえばウォーレンのときはウォーレンの事しか考えていなかったわね…… 一つのことに集中した方がいいのかしら……)


 サレンさんの固有スキルについて言及できないので、僕に言えるのはここまでだ。

 今のうちに家に帰ろう。


「それじゃあこれで」


 僕は逃げるように立ち去っていった。



◇◇◇



 家に帰ったら、妹のミリアがいた。


「お兄ちゃん、甘い香水の匂いがするよ。誰か女の子と会ってたの?」


 僕は慌てて【生活魔法】のクリーンをかけて匂いを消した。



◇◇◇



 これでまたソロに戻ったので、僕もC級目指して依頼をこなさないといけない。

 とりあえず通常の依頼はまだほとんどしていないから、そこからだ。


 翌朝、ギルドの掲示板を見ていると新しくラークの森奥の調査依頼が掲示されるところだった。

 僕の錬金術の素材取りでお世話になっている場所に何かあったのかと思って見てみる。

 



『ラーク森奥にて赤い熊の目撃情報あり。その数や巣、縄張りの調査を依頼する。

 なお、討伐は必須ではない』




 たぶん赤い熊とは、赤黒い体毛に覆われているブラッドグリズリーだろう。

 単体だとC級の魔物だ。

 縄張りの外には興味を示さないので、見かけても近づかなければいいから調査のみならD級でも十分ってことか。

 ただ、調査依頼が出るということは数が増えて縄張りが広くなっているかもしれないとギルドか領主が危惧しているのだろう。


 この手の依頼は【探知】や【隠蔽】を持っていればわりと簡単に達成できるから、引き受けることにした。


 

 久しぶりに【隠蔽】の出番だ。

 気配を隠しつつ、ラークの森の奥を探っていく。

 縄張りは、地面に落ちているブラッドグリズリーの赤い体毛を目安にすればいい。


 しばらくして、赤い体毛が見つかった。

 周囲を見るが、熊らしきものはいない。

 体毛を見つけた場所を手書きの地図に書き込んでおく。


 西に進んでいくと、大量の血と体毛が散らかっている場所があった。

 近くの木にも爪痕らしき傷があった。

 同族で縄張りを争ったのかもしれない。

 となると、それなりの数のブラッドグリズリーが発生しているはずだ。

 出来るだけ情報を集めてギルドに渡そう。


 落ちていた魔石をマジックバッグに入れて、さらに西に進み縄張りと思われる範囲と目撃した数を記録していった。


 その日は、ラークの森の西の1/4くらいを調査してギルドに報告した。

 他にもこの依頼を受けた冒険者はいたが、まだ情報が足りないということで明日も引き続き依頼を受けることとなった。





◆◆◆◆◆◆


 いつもお読みいただきありがとうございます!


 役得もたまにはありかな、と。

 唇は守りました。

 エリアさんに知られると大変だからね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る