第19話 毒の庭園 1 

 ウォーレンさんのパーティで合格をもらった次の日。


 『毒の庭園』の攻略の続きに行くということだ。

 沈黙の谷に続いてステータス異常が特徴のダンジョンだが、D級程度だと頻度も効果もさほど高くないので毒消しを揃えていけば怖くない。

 トルテさんが水魔法の『アンチドート』も使えるし。


 毒の庭園は全11階層。

 転移陣は3,5,9階にある。

 ウォーレンさん達は5階まで既にたどり着いているが、僕は初めてだ。


「ウォーレンさん、先に5階から進んでいてもらえませんか? 僕は追いかけて行きますので」

 

「あのな、こういうときはな、パーティで進行の遅い方に合わせるのが常識なんだぜ。いくら相棒が強いからって、んなことしたら俺らが非常識と思われちまう」


「罠はどうするのよ?」


「サレンさん、僕は罠発見のスキルもあるので大丈夫です。もともとソロで行くつもりでしたし。そもそもウォーレンさんは急いでC級にならないといけないって言ってませんでしたか?」


「クラウスの強さなら大丈夫だと思うの」


「いざとなったら【隠蔽】でやり過ごせますしおそらく大丈夫です」


 というか、マジックバッグに毒消しとポーション類を詰めてるので問題ない。


「しかし、クラウスさんに何かあっても私達には分かりませんし、私は反対です」


「そうだな、ここはやはり全員で最初から進んだほうがいいな。急いでいると言っても一刻を争うとかではないからな。というわけで、みんなで最初からだ。相棒、申し出はうれしいが、かまわないな?」


「ええ、わかりました」


 リーダーのウォーレンさんが決めたので、みんなで1階からだ。




 毒の庭園は、毒を持つ植物が一定間隔で規則正しく生えているのが特徴だ。

 誰かが手入れしているのではないかと思われるほどなので、庭園と呼ばれている。

 色とりどりで見た目はいいが全部毒を持っているので、触るな危険ってやつだ。

 毒になると一定時間HPがじわじわと減り続け、攻撃力も一時的に下がる。


 魔物は、キラービーやスコーピオンなど毒持ちが多い。

 毒攻撃を食らったら確率で毒状態になる。

 


 カラフルな植物を見ながら、現れる敵を倒して行く。

 僕は相変わらず一撃で倒し、ウォーレンさんを手伝いに行くパターンが続く。


 なんというか、こう、やりやすい。

 ウォーレンさんの指示は的確だし、相手の引き付けなどもうまく僕が攻撃しやすい状況を作ってくれているようだ。


 ソロの時はなるべく複数の敵を一度に相手にしないように考えていたが、それもあまり考えなくていいから精神的に楽だ。





-------






 5階の転移陣まで休まずにやってこれた。

 ここからはウォーレンさん達も未経験だ。

 少し休憩してから、先へ進む。


 僕が【探知】を使い、サレンさんが【罠発見】を使いながら少しゆっくりと進んでいく。

 5階からはポイズンワームが現れるようになった。

 その辺に生えている植物の影から奇襲してきたり、毒液をたっぷり吐いてくるちょっと面倒な敵だ。

 倒せば毒消しをドロップするあたりちょっとマシかもしれない。

 

 それでも一撃で倒せることに変わりはないので、苦戦することもなく攻略していく。


 たまに僕かウォーレンさんが毒を受けるので、あまり出番のないトルテさんが嬉しそうに『アンチドート』を使い、減ったHPについてはミストラルさんが『ライトヒール』で回復してくれる。


 9階の転移陣に到着したとき、さすがに全員に疲れが見えていた。

 主に歩き疲れだ。

 もう今日は終わり、と思ったところでサレンさんが疑問を口にした。


「ねぇ、なんかドロップ品がいつもより少ない気がしない?」


 う、誰かに言われるかも、と思ってたけど。


「そういえば9階まで一気に駆け抜けた割には少ないような気がしますね」


 ミストラルさんもか。

 これは言っとかないとまずいかな。


「すみません、僕にドロップ率が下がるスキルがあるかもしれません」


 本当にあるのだけど、この手のスキルは本当にあるかどうかを証明することは難しい。

 剣術や魔法のスキルのような、実際に発動させれば持っているかどうか分かるものならいいが、ステータスが上がるとかそういったスキルは鑑定の宝珠か鑑定系の固有スキル持ちでないと、詳細がわからないのだ。


「ソロでいたときも、なんだか他のパーティと違ってドロップ品がちょっと少ないなあ、と思ってました。ただ、ボスドロップはあったので、大して気にしていなかったのですが……」


 ドロップ率はパーティ内で合計される。

 僕の今のドロップ率は【ドロップ率上昇Ⅱ】と【ドロップ率半減】で40%減少だから、単純に考えてドロップ品による収入が40%減るということだ。


 魔石は必ず落ちるから収入が激減というわけではないが、いずれ高ランクになると金額にだいぶ差が出るかもしれない。


「それがホントでも、少なくなるぶんクラウスにいっぱい倒してもらえばいいの」


 冗談か本気かわからない笑顔でトルテさんが言う。


「ほんとにドロップ率が落ちるかどうかもわからねーし、ボスドロップが減らないなら別に構わないだろ」


 ウォーレンさんがドロップ品の話を終わらせ、僕たちは転移陣から帰還した。






ーーー----





「クラウス君はうまくやっていけているかしら……」


 エリアがクラウスをウォーレンに引き合わせた翌々日、その日の仕事が終わったエリアがサブマスターの部屋でつぶやく。


「エリアリア様、ご心配ですか? しかし、エリアリア様のスキルに従ってクラウスを紹介なされたのでしょう? でしたら、心配なさる必要はないかと」


「……そうね。わかってはいるのだけれども、ついね。最近、自分のスキルのせいなのか、感情なのかわからない時があるわ」


「……さようでございますか」


「もう一度食事でもしてみたいものね。そういえば、冒険者狩りのときの『助けてくれたら何でもする』があったわね…… マジックバッグを渡すときにマリーが使った手だけど、私も使えるかしら……」


「そのような手を使わずとも、エリアリア様のお誘いを断る男性がこの世にいるとは思えません」


「ふふっ、ありがとう、マリー」






◆◆◆◆◆◆


 いつもお読みいただきありがとうございます!


 申し訳程度の恋愛要素その2。

 助けてくれたらなんでもする、なんて言ってはいけませんね……

 当時のクラウス(12話)は固有スキルが奪われて切羽詰まってたので仕方なかったですが。

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