第18話 沈黙の谷 

「頼もしいな。これから頼むぜ、


 いつの間にかウォーレンさんの相棒になってた。

 でも、悪い気はしない。



 そのあとも順調に進んで、2階を少し進んだところでサレンさんが警告を発する。


「ストップ、ウォーレン。5歩くらい先に罠があるわ」


「トルテの魔法で壊してもいい? MPを使わないから逆にもったいないの」


「おう、いいぞ」


 ドスドスドスッとトルテさんの『ストーンバレット』が罠のある場所に命中する。

 すると2メートルほどの落とし穴が現れる。

 底には紫色の毒の水たまりが見えた。


「サレンさん、ちょっと聞きたいことがあるのですが」


「……何かしら?」


「【探知】と【罠発見】のスキルは同時に発動しているんですか?」


「初めてのダンジョンならそうしているわ。ここはもう何回も来ていて、罠の場所はだいたいわかるから、罠に近いと思ったときだけ【罠発見】を使っているわ。MPは節約しておきたいから」


「そうなんですね。ありがとうございます」


 僕は【トラップシーカー】を持っていて試しに使ってみたことがあるが、ちょっと消費MPがきつかった。


 サレンさんの話を聞いて【トラップシーカー】のうち罠発見の部分だけ意識してみると、消費MPが明らかに少なくなった。

 何も全部の効果を一気に発揮させなくてもよかったんだ。

 スキルの使い方には工夫の余地があるな。

 MPの軽減や回復力が弱い僕にとってとても参考になった。



 3階に進むと、ロックタートルが3体現れた。

 動きは遅そうだがなかなか硬そうな茶色の甲羅をしている。

 僕の腕力で斬れるかな?


「相棒、あれはな、まともにやると硬くてだめだから、地魔法を当てて手足を甲羅にひっこめさせたら、そこをひっくり返して……」


 ウォーレンさんが対処法を教えようとしてくれたが、それより先に僕の体が動いていて、ロックタートルの甲羅ごと切り裂いていた。


「それも一撃なのかよ…… どんな腕力してるんだ、相棒よ。そいつはひっくり返して柔らかい腹を狙うのが定石なんだが…」


 ウォーレンさんは半ば呆れたように教えてくれる。

 トルテさんは地魔法の詠唱を止めていた。


「クラウスはすごい脳筋なの」


 自分でも分かっているが、高ステータスで交換できたのが剛力無双だったから仕方ない。


 次はちゃんとやってみよう。

 ウォーレンさんに頼んで残ったロックタートルを任せてもらう。


「トルテさん、地魔法をお願いしていいですか?」


「はいなの。……飛来する石礫、衝撃を与えん、ストーンバレット」


 飛んできた拳大の石で甲羅に衝撃を与えられたロックタートルは、ウォーレンさんの言う通り手足をひっこめた。

 僕は近付いて足で蹴り上げて甲羅をひっくり返し、ブレイズダガーで腹を深く切り裂く。

 ほとんど抵抗もなく斬れた。

 たぶん武器への負担も少ないだろう。

 さっきはクレイモアで無理やり斬ったから、そのうちクレイモアが欠けそうだ。




 最後の一体もストーンバレットを当ててもらって止めを刺そうとしたところ、ミストラルさんからストップがかかった。


「ちょっと待ってください。最初にクラウスさんが倒したロックタートル、ドロップ品がありますよ。……これはレアの甲羅の盾、ですね。もしかして……。クラウスさん、今度はもう一度ロックタートルを甲羅から斬ってもらえませんか?」


「わかりました」


 ロックタートルがもう一度手足を出したところで斬ろうと待っていたら、ロックタートルが手足を出したあと足を踏ん張って前に小さく跳んで突進してきた。


 完全に油断しきっていた僕は、ガンっ、という音とともにもろに突進を食らってしまう。


「クラウスっ‼」


 ウォーレンさんが叫ぶが、僕はちょっとよろけてHPがわずかに減っただけですんだ。

 具体的には20くらい。

 体力もB級程度にはあるからね。


 突進後の硬直で動けなくなっているロックタートルを甲羅ごと斬る。

 光の粒子となって消えたロックタートルは、魔石と甲羅の盾を残していった。


「相棒、大丈夫なのか?」


「はい。大丈夫です」


「そのローブでも大してダメージを受けないのかよ…… もう相棒に関しては驚かないことにするぜ。で、ミストラル、何かわかったのか?」


「私の予想通りでしたね。特定の条件下で倒すとレアドロップを落としやすくなる敵がいると聞いたことがあったのですが、ロックタートルがそうだったのですね」


「でもロックタートルを甲羅の上から一撃で倒せるD級って、クラウス以外いないと思うの」


「これで普段より収入が増えるわね。今回は赤字かと思ってたけど」


「じゃあ相棒、ロックタートル担当な」



 ロックタートル担当になったけど、このあと4階に着くまで3体しか出てこずそのうち2体が甲羅の盾を残していった。





 4階の転移陣に着いて休憩をとっているとき、ウォーレンさんが少し悩んでいるようだった。


「どうしようか。予定よりだいぶ早く着いたし、次の転移陣まで一気に進んでもいいものか…」


「ウォーレン、荷物に余裕はあるけど、私のMPが持たないわよ。途中の階で【探知】が使えなくなるかも」


「サレンさん、それなら僕が【探知】を使いましょうか。サレンさんには【罠発見】をお願いできればと」


 僕はまだMPがある。

 最初に中級剣術を2回使った後はMPを使用する行動をしていないので、100以上余っているのだ。


「それならいいか。もう少し休憩したら7階を目指そう」



 しばしの休憩のあと、4階を進んで5階へ降りる。


「相棒、5階からサイレントナイトっつーバックアタックが得意な魔物が出てくるようになる。んで、俺が最後尾に回るから、先頭を進んでくれ」


「わかりました」


 僕は【探知】を使いながら、サレンさんがときどき【罠発見】を使いつつ先へ進んでいく。

 あと少しで6階というところで、後方に敵の反応が2体あった。

 たぶんこれがサイレントナイトなのだろう。


「ウォーレンさん、後ろから2体来ます」


「おう、前方に敵がいないのを確認したらこっちへ回ってくれ」



 後方に回ると、真っ黒な影の騎士っぽい敵とウォーレンさんが戦っていた。

 サイレントナイトの剣には沈黙を付与する追加効果があるので、一応当たらないように気を付けながらサイレントナイトを1体斬り捨てた。

 その後、ミストラルさんの詠唱が完成する。


「……天に仇なす者に裁きの光を与える、ライトボール」


 眩しい光の玉がサイレントナイトにヒットし、動きが鈍くなる。

 その隙にウォーレンさんが槍を勢いよく突き刺して、サイレントナイトは消えていった。


「サイレントナイトの気配を全然感じませんでした」


「【探知】がないと気がつきにくいからな。しかも必ず後ろからくるから、めんどくせえんだ。その代わり、あんまり出てこないけどな」



 このあと7階に到達するまで特に問題は起きなかった。

 甲羅の盾が追加で4個手に入ったことぐらいだ。


 結局この日は、7階の転移陣に到達して僕の力試しは終わりということになった。

 転移陣で沈黙の谷から帰還した後、ギルドで戦利品を換金して今日は解散だ。


「たった1日で7階まで来れるとはな。明日からもよろしく頼むぜ、相棒」


「僕は合格ということですか?」


「もちろんなの。魔物が現れてもすぐにクラウスが倒すからあんまり戦った気がしなかったの」


「私もです。移動時間がほとんどだったような気がしています。毎回このようであればダンジョンも楽でよいのですが」


 そして、ウォーレンさんとサレンさんが2人で去っていく。

 トルテさんによると2人は恋人らしい。


 なぜだかエリアさんのことが思い浮かぶ。

 受付でよく見る笑顔。

 スキルを奪われた際にすぐに対応してくれて、僕を信じているという言葉。




「どうしたんですか、クラウスさん?」


「……いえ、何でもありません」 


 ミストラルさん、トルテさんと別れて僕はもう家に帰ることにした。





◆◆◆◆◆◆


 いつもお読みいただきありがとうございます!


 申し訳程度の恋愛要素ですが、クラウスも普通の男の子なので、思うところがあるのでした。

 主人公が女の子を助けて惚れられる展開が王道だと思うのですが、書いているうちに逆になりそうです。

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