第17話 相棒 

「で、俺たちのパーティは前衛を求めてる。D級で【中級剣術】が使えるくらいなら、スキルは前衛として問題なさそうだが、それ、水のローブだろ? そんな装備で大丈夫か?」


 装備の心配をされた。

 前衛なのに物理防御がほとんどないローブって、やっぱり頼りなく見えるかな。


「大丈夫です、問題ありません。体力にはそれなりに自信があります。それよりも精神が低いので、今はこのローブを装備しています。そもそも攻撃を受ける前に敵を倒せばいいですし」


「ほう、言うじゃねえか。期待しとくぜ。で、誰か聞きたいこととかないか?」


 ウォーレンさんがそう言うと、サレンさんが聞いてきた。


「クラウス君、だっけ? 【初級錬金術】持ってるって言ったわよね。それがあるなら別に冒険者をしなくてもいいんじゃないの?」


「そうかもしれませんが、僕は『永遠の回廊』の踏破を目指しています。ですので今のところその道は考えていません」


「ふーん……」


 他に聞きたい人はいなさそうなので、今度は僕から聞いてみる。


「ウォーレンさん達はどうして前衛が必要なんですか?」


「それがな、俺たちの、というか俺の事情でな、俺が20歳になるまでにC級にならなきゃいけないんだ。もうそろそろ時間がなくなってきててな。単純に強い前衛を入れて早期の昇格を狙ってるんだ」


「それで、ソロのあなたにC級昇格までの期限付きで参加してもらいたいの。助っ人なの」


 トルテさんが補足する。

 なるほど、期限付きの助っ人か。

 パーティがどんなものか経験しておくのもいいかもしれない。


「いいですよ。ウォーレンさん達がC級になるまでですね。報酬の配分などはどうなりますか?」


「ありがとう、助かるぜ。報酬はな、稼ぎの2/10を共通経費で積み立てたあと、人数で頭割りだ。端数は共通経費に積み立てだ。うちのパーティにいる間このルールに従ってもらうが、いいか?」


「分かりやすくていいですね。僕はパーティを組んだことがないので、細かいことはそちらのルールに従おうと思います」


「わかった。まあ悪いようにはしないさ。さあ、受付でパーティ登録をしよう。一緒に来てくれ」




◇◇◇




 ウォーレンとクラウスがパーティ登録をしている間。


「なーんか頼りなさそうな坊やねぇ。ホントに【中級剣術】が使えるのかしら?」


「サレンさん、人を見かけで判断するものではありませんよ」


「あの子から魔力はそんなに感じないの」


「さすがに四大属性の使い手のアンタと比べるのは可哀想よ……。他にいないとはいえ、間に合うのかしら……」





◇◇◇




 パーティ登録が終わった後僕の実力の確認とパーティの連携などの調整のため、どこかのダンジョンに行こうということになった。


「クラウス、どこかD級のダンジョンを制覇しているか? ああ、依頼は既に規定数こなしているからそれは気にしなくていいぞ」


「ウォーレンさん、まだどこも挑戦していません。沈黙の谷に行こうと思って、準備をしているところでした」


「そうか。沈黙の谷なら既に俺らはクリアしているから、調整にはちょうどいいか。沈黙の谷に向かおうか。みんな、いいか?」


「クラウス、アンタもしかしてD級になったばかりなの?」


「ええ、そうですよ」


「ねぇウォーレン、ほんとに大丈夫なのぉ?」


「それを確かめるために今から行くんだろ、サレン」


「そうだけどさぁ……」


 サレンさんが明らかに僕に不審を抱いている。

 気にしてもしょうがないが、パーティに加入早々離脱ってのもいやだな。




◇◇◇




 沈黙の谷は全10階層で、4階と7階に転移陣がある。

 僕は転移陣が使えないので全員で最初からスタートだ。

 

 前衛のウォーレンさんと僕で前を進み、その後ろにサレンさん、後衛はミストラルさんとトルテさんがついてくる。


 最初に現れたのはグリーンスライム4体だ。

 左の2体を僕が、右の2体をウォーレンさんが対応する。

 グリーンスライムが魔法の詠唱に入り、緑色の体がうっすらと輝き始める。

 すかさず近寄ってクレイモアで核をたたき切る。

 もう一体は粘液を飛ばしてきたので、躱してからその隙に同じようにたたき切る。

 右を向くとウォーレンさんがちょうど2体を槍で突き殺しているところだった。


「前衛が2人いると随分楽でいいな」


「ええ、僕もそう思います」


「ウォーレン、前から3体来るわよ」


 【探知】を使用しているサレンさんが敵の接近を教えてくれる。

 少ししてやってきたのはバレーバットが3体だ。


「やつの光線を浴びると沈黙にさせられるぞ、気をつけろ。一番左の1体を頼む。トルテ、俺が2体を引き付けるからファイアボールで撃ち落としてくれ」


「はい」


「わかったの」


 左のバレーバットの鼠のような顔の口が大きく開き、淡い緑の光線が発射される。

 躱そうと思ったが、僕の後ろにトルテさんがいたのでそのまま受けることにする。


 すると、技や魔法に蓋をされたような感じを覚えた。

 なんというか、言いたいことが頭でわかっているのに口から出てこないようなもどかしい感じで、技の発動ができそうにない。

 

 が、関係ない。

 僕はバレーバットに軽く斬りかかって真っ二つにした。


「……我が情熱よ、火の玉となれ! ファイアーボール!」


 ウォーレンさんに当たらないよう弧を描きながら二つの火の玉がバレーバット2体にヒットする。

 落ちてきたバレーバットにウォーレンさんが止めを刺していった。


「クラウス、大丈夫なの? 沈黙を治してあげるの。『……雄弁を取り戻せ、フルーエント』」


 トルテさんが火魔法のフルーエントで僕の沈黙を治してくれた。

 もどかしい感じが消えて、すっきりした気分だ。


「私の弓の出番がありませんね。クラウスさん、なぜ避けなかったのです?」


「私の後ろにいるトルテさんに当たるとまずいと思ったからです。僕は通常攻撃がメインですし、沈黙になってもまあ大丈夫かな、と」


「バレーバットの光線の射程は長くないの。あの距離ならトルテに当たらないから次からは避けてほしいの。フルーエントもできればあまり使いたくないの」


「ああ、すみません。僕は山彦水をたくさん作って持ってきているので、次からはそれを使いますね」


「アンタ錬金術が使えるんだったわね。自分で作れれば安く済むでしょうけど、無駄遣いしないように気をつけなさいよ」


「まあそんなに言ってやるな。クラウスはここが初めてなんだぞ。それよりクラウス、次はなんか剣技を見せてくれないか? 疑っているわけではないが【中級剣術】を見ておきたい」


 バレーバットの魔石を拾っていたウォーレンさんが話を逸らしてくれた。



◇◇◇



 しばらく進むと、ワイルドウルフ5体が遠目に見えた。


「ウォーレンさん、あの5体を僕に任せて下さい」


「お手並み拝見といくか」


 MPには余裕がある。

 途中まで【探知】を使っていたが、サレンさんが使っている間僕は使わないことにしていた。

 

「瞬速連斬!」


 僕はワイルドウルフに向かって駆け出し、斬り下ろし、斬り上げ、突き、薙払いの四連攻撃を間断なく繰り出す。

 この技は発動前後にほとんど隙がない。

 瞬く間に4体を倒し、残った1体については……


「地烈打斬!」


 残ったワイルドウルフに剣戟を上から叩きつける。

 ワイルドウルフの胴体を両断し、勢いのまま剣を地面に叩きつけた場所を中心に衝撃波と粉塵が舞い上がる。

 地烈打斬の衝撃波部分には地属性の追加ダメージがついてくる。

 初級の技には基本的に属性攻撃が付いてこないので、中級だとわかってもらえると思う。



 一呼吸くらいのうちに全てのワイルドウルフを倒すと、ウォーレンさんが駆け寄ってきて、飛び上がらんばかりに喜んでいた。


「いやー、これほどまでとはな! エリアさんを信じてよかったぜ」


「これはこれは……。凄まじいですね。我々4人ではこんなに短時間で倒すのは無理です」


「トルテもびっくりなの! 魔法も節約できるの!」


「まだ1階なのにこんな大盤振る舞いしちゃって…… でも強いわね……」

 

 これで少しは印象がよくなっただろうか。

 サレンさんがMPの心配をしていたが、あと2,3セットは撃てる。

 もったいないし、どのみちオーバーキルだからもうしばらくは使わないけど。

 

「頼もしいな。これから頼むぜ、






◆◆◆◆◆◆


 いつもお読みいただきありがとうございます!


 技のネーミングは暫定です。

 カッコいい技名を思いついたら直すかも。

 魔法の詠唱文も考えるのに時間がかかります。

 早くクラウスが無詠唱スキルを習得してくれればいいのに……

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