第15話 タケヤマという男 2
夕方、スラム街の外れにある仮住まいに戻ろうとすると、ちょうど2人の男が出てきた。
1人は小僧だ。
今日会ったばかりでなんでここがわかったんだ?
それともう1人。
知らないおっさんだが、すぐにステータスが見えた。
ヴェイン、元A級でここのギルドマスターか。
っつーことは、小僧が冒険者ギルドに泣きついたか。
1人で何もできないクズ野郎め。
おっさんは俺の変装用の服を手に持ってやがる。
十中八九バレたな。
まだ距離もあるし逃げるか。
俺はすぐに逃げようとしたが、なにか飛んできて左腕に掠る。
チッ、ナイフか。
直後、おっさんの声が聞こえてきた。
「お前がタケヤマだな? 奪ったスキルを返す気はあるか?」
ばーか。返すわけねーだろ。
名前も顔も割れちまったから、何とかして黙らせるしかねーな。
スキルを奪いつくして無能にしてやるよ。
「『お前達のスキルを奪ってやる!』 ……風の精霊よ、舞い散り切り裂け! エアシューター!」
いつものエアシューターだ。
これでやつらは俺に近づけない。
俺の【ギャングスター】はかすり傷でもいいから、これで傷を負うまで放ち続けてやる。
「同じ手は通じないぞ! ディメンジョンボックス!」
小僧が何やら唱えると、薄紫色の空間が現れた。エアシューターがその中へ消えていく。
あれが【時空魔法】のディメンジョンボックスか。
スキルの説明には物を収納できるとあったが、こういう使い方もあるとは。
このままだとさすがにいつか俺のMPが切れるかもしれんし、何を【交換】するか迷ってたが、いただいてやる。
「小僧、お前の切り札がそれか。もらうぞ」
そして、小僧の出していた空間が消え、エアシューターがやつらに届きはじめる。
小僧は慌てて後ろに下がり、おっさんは詠唱を止めて赤い盾を構えた。
おう、これ詠唱なしか。いいな。
おっさんがまたナイフを投げてくるが、小僧の真似してディメンジョンボックスを出して防ぐ。
これ超便利だ。
「タケヤマ、もう一度聞くが、奪ったスキルを返す気はあるか? このままではお前を殺さないといけなくなるぞ」
おっさんがまた聞いてくる。
「んなわけねーだろ。返す方法なんてねーよ。奪ったスキルはな、ダブりがあればそのスキルはレベルが上がるんだ。最高だろ? 奪えば奪うほど俺は無限に強くなるからな。まったく異世界に転生してよかったぜ。このままチートスキルで無双してやるよ。ヴェインとやら、お前も強いスキルがあるじゃねーか。きちんと奪ってやるよ。そこの小僧も、残りの使えるスキルをいただいてやるからな」
ホントは自由に返せるがな。
奪うときとは違ってわざわざ宣言しなくてもいい。
でなけりゃ、レベルアップもしない【生活魔法】が数だけ増えて邪魔くせえだけだ。
ま、んなこと教えてやる義理はねえ。
おっさんも【腕力上昇Ⅴ】やら【バイタルⅠ】、【上級剣術Ⅰ】【カリスマ】【シールドマスター】とか強スキルだらけだ。
奪うのが楽しみだぜ。
が、なかなかエアシューターが当たらない。
ちいっと手間だが確実に当ててやる。
「……風よ、我が敵の前に立ちはだかり壁となれ、ウインドウォール」
おっさんが壁を突破しようとするが、無駄だ。
なんせ耐久力が倍だからな。
無理に突破しようとすればダメージを受け、スキルを奪われるだけだぜ。
そして、風の壁で動きを止めて、避けられない上級の風魔法のコンボだ!
「……風の精霊たちよ、我が声の元に集いて天を目指す嵐となれ! サイクロン!」
奴らを取り囲むように嵐が発生し、ヒュンヒュンヒュンヒュンと風の刃が飛び回る。
そして、スキルが手に入る感覚が2回だ。
ああ、これだよこれ!
何度やっても気持ちいいぜ。
ふん、楽勝だな。
焦って逃げなくてもよかったじゃねえか。
このおっさんも元A級の冒険者らしいが、俺の魔法の前に手も足も出ねえ。
小僧なんぞ論外だ。
こんなヌルい世界なら冒険者に登録すればすぐに上を目指せるぞ。
確かS級になったら貴族になれるらしいな。
貴族になれば権力が手に入る。
半グレにいたときは結局幹部になる前に死んじまったし、権力を振りかざすのも楽しそうだ。
いつか読んだ本みたいなハーレムもやりてえな。
じゃ、奪ったスキルを確認するか。
一つは、【上級剣術Ⅰ】だ。お、当たりだ。
小僧からは、【最大HP半減】だ。
ふざけるな。
外れかよ、ゴミが。
とっとと返して、まだウインドウォールは残ってるし、もう一度サイクロンチャレンジだ!
……次の瞬間、俺の体が軽く後ろからトンっと押されたような感じがした。
少し遅れて胸に鋭い痛みと焼かれるような痛みが走る。
視界の下の端に、赤いオーラをまとった剣の先が見えた。
後ろから刺されたのか。卑怯者め。
一体いつから後ろにいやがった?
う、なんか臭い。
傷口がジュウジュウと音を立てている。
「残念だが、お前がS級になることは永遠にないぞ。私の『ブラッディローズ』を受けたのだからな」
後ろから凛々しい女の声がした。
卑怯者のくせにいい声だ。
ブラッディローズだと?
中二みたいなネーミングだ。
どんな奴か見てえが、もう体が動かねえ。
【オートヒーリング】があるはずなのに、全然回復しやがらねえ。
剣を抜かれた俺の胸から、炎が広がっていて、バラのように見えなくもない。
そういえば初めて付き合った彼女もバラが好きだと言ってたな……。
だんだん意識が遠のいていく。
また死ぬのか……。
あのおっさんの言うとおりスキルを返せばよかったのか?
いや、返したところで許されるはずがねえ。
結局、あのスキルをもらった時点でこうなることが決まってたんじゃねえのか。
そう思って俺は【ギャングスター】に意識を向ける。
『このスキルの所持者が死ぬと、奪われたスキルは元の所持者に返還される』
続きが浮かんできた。
『所持者の次の人生を代償として、奪われたスキルはレベルアップされたうえで返還される』
次の人生を代償として、ってどういう意味だ?
ていうか今更この説明はなんなんだよ。
こんなスキルなら……いらな……かったぜ。くそっ……たれが……。
◆◆◆◆◆◆
いつもお読みいただきありがとうございます!
転生者タケヤマ編終わりです。
最後は、死の直前に判明した固有スキルの効果で迷惑かけた分をお返しして終わりです。
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