第14話 タケヤマという男 1 

 俺はタケヤマ。20歳。

 暴力団との抗争で刺されて死んじまったはずだった。


 短い人生だった。

 ロクなもんじゃなかったぜ。


 小学生の時、年下の子が自動販売機のお釣りをあさっていたのを見ていたら、その子がコインの返却口から100円玉2枚を取り出すのが見えた。


 そして俺は、その子に近付いてそのお金を取り上げた。

 当然その子は泣いて返してと縋ってきたが、俺は突き飛ばしてそのまま立ち去った。

 

 この時俺は、とても気持ちよかったのを今でも覚えている。


 それから、よその子を殴っておもちゃを取り上げたりするのが楽しくて仕方なかった。

 中学生になると、それでは飽き足らずスーパーや本屋での万引きもやった。

 自然と自分と同じような人間とつるむようになり、タバコも吸い、何度も補導され、隣の中学との傷害沙汰も起こした。


 親も最初のうちは、なんとか俺を矯正しようと説得を繰り返してきたがある時から何も言わなくなってきた。

 多分俺が母親を本気で殴ったあたりからだろう。


 高校には何とか入ったが、すぐに中退し、事件を起こしては矯正施設を出たり入ったりを繰り返した。



 17になったとき、初めて彼女ができた。

 大人しくて物静かで優しくて本が好きな子だった。

 俺の住む安アパートに毎日のように通ってきて、家事をしていく。

 泊まっていくこともあった。


 だが、それも長く続かなかった。

 つい彼女と言い争いになってしまい、カッとなった俺は彼女を殴ってしまったのだ。


 彼女は俺のもとに来なくなり、しばらくして彼女の両親がやってきた。

 どうも俺のことを調べたらしい。

 彼女は外泊先について女友達のところに泊まっていると嘘をついていた。


 彼女の両親は話しているうちに『よくもうちの娘に傷をつけたな』とかなんとか激昂し、俺もつられて激情し先に手を出した。


 こうしてまた、矯正施設に逆戻り。

 それからは、振りこめ詐欺や脱法ドラッグのインターネット販売などにも手を出し、いわゆる半グレとなっていた。


 所属していた半グレ集団が暴力団ともめ事を起こして、俺はそれに巻き込まれた。

 そしてあっけなく死んじまった。



◇◇◇



 それからは、おぼろげにしか覚えていないが、『これから貴方は異世界に転生します。好きなように生きてくださいね』とか言われた後、20歳の体のまま貧しい村の近くに俺は立っていた。

 刺されたはずの傷はなかった。



 異世界に転生か。

 初めて付き合った彼女がそんなようなタイトルの本を読んでいた。

 俺も暇つぶしに読んでみたが、トラックに轢かれたら強い能力をもらって魔王を倒して王女や一緒に旅した聖女と結婚するとかそんなストーリーだった。





 驚くことにこの世界での暮らしに困ることがなかった。

 この世界の常識的なことは最初から頭にインストールされていた。

 【生活魔法】とかいうのも最初から使えた。


 名字は貴族にしかないらしく、名前だけ残ったが、その名前も前世でいう名字だ。

 

 固有スキルとかいうのに意識を向けると、その内容がおぼろげにわかる。

 傷つけた相手のスキルを奪えるというものだ。

 俺の前世?の生き様を反映したようなスキルだ。


 要は異世界版のカツアゲだ。

 この世界に来るときに『好きなように生きてください』と言われてこのスキルっつーことは、そういうことなんだろうな。




 食料や衣服も盗み放題だ。

 セキュリティなんてものはねーから楽勝だ。

 雑貨屋の倉庫から変装用に黒い仮面を盗んでおいた。

 もともと転生時に着ていた黒の上下と合わせてカツアゲのときの格好にしておくぜ。

 



 手当たり次第人を襲ってスキルを奪っていく。

 最初は後ろからスキル強奪の宣言をしてから素手で殴って即逃走していたが、魔法系のスキルが手に入ったらそっちのほうが遠くから簡単に攻撃を当てられることに気が付いて以来、魔法を使っている。


 転生者特典らしく、最初からMPが200あり、奪ったスキルはMPが半分で使えるからわりと魔法使い放題だ。

 すごいぜ転生者特典。


 ただ、宣言はちゃんと相手に聞こえないといけないらしく、そこだけは面倒だ。


 教会の人間も襲っていたら、HPが自動で回復するスキルが手に入っていた。

 最初は効果が小さかったが、段々とスキルが強くなっていた。

 魔法系スキルもそうだが、どうやら同じスキルを奪うと、レベルが上がるようだ。

 もっと奪ってやる。

 モチベーションが上がるぜ。



◇◇◇



 どうやら風系に相性がいい。

 代わりに火に弱いが、そのうち火に強くなるスキルを奪えばオッケーだ。


 この世界は捜査機関が貧弱だ。

 自警団は名ばかりで、警察的な騎士団は王都にしかないようだ。

 このままあちこちうろついて強くなれば俺を捕まえられる奴はいなくなるだろう。




 地方都市メイベルにやってきた。

 やはり人が多い。

 さすがに街中で襲うのは無理だから、人気のないところでやるとしよう。




 ラークの森というところで、ソロの冒険者を見つけた。

 茶髪に白のローブだ。

 弱そうだが、まあ奪ってやろう。



 近付こうとしたが、気づかれたようだ。

 勘のいいやつ。

 スキルを奪う宣言をして、いつものエアシューターを発動する。

 が、少し距離があるせいかなかなか当たらねえ。


 どうせMPはあるし、強くなったばかりの【上級地魔法】を使ってやろう。


「……大地に眠る者たちよ、その怒りを解放し、彼の地を震えさせよ! アースクエイク!」


 おお、思ったより範囲が広いぜ。

 そして攻撃がヒットした。

 スキル【交換】とやらが手に入った。


 途端に自分のステータスやスキルがはっきりと見えた。

 これは便利だ。

 しかもクラウスとやらのも見えるぜ。


 自分に悪意のある相手について、自分と相手の同じ種類のものを一つ交換できる。

 1日1回、同じ相手に1回。

 いったん視界に入れればあとはいつでも発動可能と。

 ま、俺の【ギャングスター】は同じ相手に何度でも発動できるからこっちの方が強いな。



 あ、小僧が逃げていく。

 まあいいか。いつでも交換できるし。



 小僧のステータス高えな。

 腕力とか俺の3倍近くあるし、スキルもやたら多いぞ。

 それに何だよ【時空魔法】って。

 でも、よくみたら、【最大HP半減】とか、いらないスキルもあるな。

 ま、使えそうなやつは全部奪ってやる。

 ランダムってのが問題だが、いらないスキルは返せるしな。

 カススキルだけにしてやろう。



タケヤマ 異世界転生者 20歳 男

LV:52 (転生者特典により最初は50)

HP:2165/2165

MP:160/200

腕力:281

体力:246

速さ:297

器用:213

知性:187

精神:220

スキル

【生活魔法】【中級剣術Ⅰ】

【中級体術Ⅱ】【上級風魔法Ⅰ】

【上級地魔法Ⅰ】【中級光魔法Ⅱ】

【最大HP上昇Ⅱ】【腕力上昇Ⅱ】

【体力上昇Ⅲ】【速さ上昇Ⅰ】

【知性上昇Ⅱ】【精神上昇Ⅲ】

【ドロップ率上昇Ⅰ】

【探知Ⅱ】【不意打ち】

【攻撃時MP回復Ⅰ】

固有スキル

【ギャングスター】

【最大MP2倍】(転生者特典)

【風神の加護】

【オートヒーリング】




◆◆◆◆◆◆


 いつもお読みいただきありがとうございます!


 日本からの転生者タケヤマ視点です。

 だいたい現地主人公に絡んでくる転生者ってドクズか聖人の2択しかないような気がするんですが、クラウスの強化のために今回は前者を選びました。

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