第13話 冒険者狩り 3

 夕方、スラム街の外れに僕とギルマスはいた。


「まだ戻っていないようだな。本当にここがタケヤマの住み家なのか?」


「ええ、奪われる前に僕の【交換】で見ていましたから」


「うわ、お前に悪意を持ったら居場所も筒抜けか。じゃあ証拠を探すか。帰ってくる前に何か見つかるといいがな。見つからなかったら俺はギルマスを首かもしれん」


「巻き込んでしまって申し訳ありません……」


「はっはっは、冗談だ。お、あったぞ。黒い仮面だ。目の下に赤い線があるな。それと黒のジャケットとズボンか。あとは持ち主が帰ってくるのを隠れて待つか」


 小汚いあばら家を出ると、ちょうど黒髪の男がこちらに向かってくるところだった。

 男はこちらに気が付くと踵を返して逃げ出そうとする。


「逃がさんぞ!!」


 ギルマスが素早くナイフを投げ、男の左腕に掠る。


「お前がタケヤマだな? 奪ったスキルを返す気はあるか?」


 男はそれには答えない。

 代わりにスキルの宣言が返ってきた。


「『お前達のスキルを奪ってやる!』 ……風の精霊よ、舞い踊り切り裂け! エアシューター!」


「ディメンジョンボックス!」


 僕は事前に中を空にしておいたディメンジョンボックスを展開し、僕たちに当たりそうなエアシューターを収納していく。

 同時にギルマスが詠唱を始める。


 作戦はこうだ。

 僕のディメンジョンボックスが破裂するまで時間を稼いでおき、その間にギルマスが風魔法『サイレンス』によりタケヤマを沈黙状態にする。

 そのあと近付いて2人でタケヤマを倒す。



 が、ここで大きな誤算があった。



「小僧、お前の切り札がそれか。


 すると、ディメンジョンボックスが消えてしまった。

 おそらく【交換】されたのだ。

 交換されても特に何も感じなかった。

 これはやられてもわからないな。


 僕は襲い掛かってくる風の渦を躱して後ずさる。

 ギルマスは詠唱を止めて避けたり炎の盾で防いでいる。


「クラウス、どうしたんだ!?」


「僕の【時空魔法】を交換されてしまいました。今日は使えないはずのに……」


「くそ、このままだと近づけない。クラウス当たるなよ。なんとか躱し続けろ」


 僕は攻撃が当たったとしても、マイナススキルもたくさんあるから、すぐにタケヤマの強化には繋がらない可能性がある。

 当たらないにこしたことはないが。


 ギルマスはさすがに元A級だけあって見ていて回避や防御に安定感がある。

 前には進めないが、合間を縫ってまたナイフを投げている。



「いやあ、これ便利だわ。わざわざ使い方まで教えてくれるなんて、ありがたいぜ」




 タケヤマはディメンジョンボックスを展開して投げナイフを防いでいく。

 ディメンジョンボックスは無詠唱だから隙もない。

 なんて優秀なスキルなんだ。返せ。


「タケヤマ、もう一度聞くが、奪ったスキルを返す気はあるか? このままではお前を殺さないといけなくなるぞ」


「んなわけねーだろ。返す方法なんてねーよ。奪ったスキルはな、ダブりがあればそのスキルはレベルが上がるんだ。最高だろ? 奪えば奪うほど俺は無限に強くなるからな。まったく異世界に転生してよかったぜ。このままチートスキルで無双してやるよ。ヴェインとやら、お前も強いスキルがあるじゃねーか。きちんと奪ってやるよ。そこの小僧も、残りの使えるスキルをいただいてやるからな」


 何やら万能感に酔いしれている感じだ。

 聞かれてもないことをしゃべり始めた。

 異世界に転生とかチートスキルとか聞きなれない言葉が混じっている。


「……風よ、我が敵の前に立ちはだかり壁となれ、エアウォール」


 エアシューターをいったんやめたタケヤマは僕たちの前に緑の透明な壁を作り出した。

 続けて詠唱に入る。


「まずい、あの詠唱を止めないと!」


 手持ちのナイフがなくなったギルマスが剣と炎の盾を構えて風の壁に突進するが、突き破れない。

 【風神の加護】で強化されているせいか。


「……風の精霊たちよ、我が声の元に集いて天を目指す嵐となれ! サイクロン!」


 直後、僕とギルマスを中心に半径2メートルほどの嵐が発生する。

 轟音とともに飛び交ういくつもの風の刃に切り裂かれ、もちろん回避などできない。

 僕たちは傷だらけになり、膝をついてしまう。


「クソっ、こんなに強いとは…… まだなのか……」


「ふん、雑魚どもが。これでも加減してるんだぜ。死んだら奪ったスキルが使えなくなっちまうからな。元A級でもこんなもんか。これなら俺もS級はすぐだな。S級になって貴族に成り上がりハーレムでも築いて……」




 突然嵐が止む。

 タケヤマの胸がレイピアで後ろから貫かれていた。




「ぐふっ…… なんだこれは…… いつの間に……」


「残念だが、お前がS級になることは永遠にないぞ。私の『ブラッディローズ』を受けたからな」


 サブマスが炎をまとったスカーレットレイピアをタケヤマの体から引き抜く。

 一突きされ穴の開いたタケヤマの心臓部分から炎が広がり、バラのような形となっていく。

 そして燃え終わったバラは段々黒ずんでボロボロと崩れ落ちていき、タケヤマの心臓部分にぽっかりと穴が開いていた。


「【オートヒーリング】で傷が治るらしいがその前に致命傷を与えれば関係ないだろう? 本来なら実戦で使える技ではないが、素人のお前にはちょうどいいだろう」


 タケヤマの体はそのままドサッと前に倒れこみ、もう動かなかった。


「マリー、少し遅かったではないか。こんなロートルに時間稼ぎをさせおって。小芝居もしてしまったぞ」


「ヴェイン殿、まだそんなお年ではないでしょう。『俺が仕留める』と息巻いていたではありませんか」


「くそう、『サイレンス』が効いていれば俺が倒すはずだったのに……。クラウス、大丈夫か?」


「はい、大丈夫です。作戦を2段構えにしておいてよかったですね」


 サイレンスが発動しても、確率で沈黙が発生しない場合があるため、失敗した場合はサブマスのブラッディローズが2段目の作戦だ。 

 ただ、自身に中級火魔法の『フレイムセイバー』を掛けておいたうえで、発動に溜めが必要な上級剣術なので時間稼ぎと足止めが必須だった。


 仮にサイレンスが成功していたとしても、どのみちサブマスとの挟み撃ちとなるのは確定だったのだけれど。



 相手の背後から大技を発動したのに気づかれなかったのは、サブマスが装備している閃影のローブによる効果だ。

 閃影のローブは【隠蔽Ⅳ】と同じ効果をもつレアな装備品だ。

 タケヤマは【探知Ⅱ】しか持っていないので気付かれる心配はなかった。


 要は正面で気を引いておいて、後ろから不意打ちだ。

 そして【オートヒーリング】を持ち、【風神の加護】で火属性が弱点となるタケヤマに一撃で致命傷を与えるには火属性の大技を持つサブマスが適任だったわけだ。


 ギルマスはそんな大技を使わなくても俺の上級剣術で十分だ、と主張していたけども。


「背後に注意を向けない未熟者で助かったぞ。だがたった2週間ほどでこの強さとはな。本当にS級になれたかもしれん」



 突然、タケヤマの体が光りだし一瞬当たりが眩しくなる。

 すぐに光は収まりタケヤマの体が黒ずみ、ボロボロと崩れ去りやがて灰だけが残っていた。



 

「ギルドマスター!」


「おう、クラウス。俺も分かったぞ。スキルが返ってきたな」


「ええ……」


「どうしたんだ?」


 僕は倒れたタケヤマを見て、軽くため息をつく。


「……【時空魔法】が戻ってきていません。多分、【時空魔法】は【ギャングスター】で奪われたものではなかったからだと思います」


「……そうか」


「僕の読みが甘かったせいです。回数を使い切った【交換】を奪われたから今日はもう使えないと思い込んでいましたので」


「そこまで考えるのは無理だろう。【交換】が奪われた場合どうなるかなどわからないし、仮に気づいていても【交換】を防ぐ方法はそもそもないようだしな」


「敵に使われてあらためて思いましたが、防ぐ方法がないってなかなか凶悪なスキルですね」


「クラウスに悪意を持たなければいいだけの話だ」


「そう言っていただけると助かります」


「ディメンジョンボックスで証拠品を持って帰ってもらおうと思っておったのに残念だ……」


「ヴェイン殿、それはあんまりではありませんか?」


「すまぬ、失言だったな。詫びよう」


「いや、僕もちょうどそう思ってましたし、かまいませんよ」


「そうか。では後始末をするか。クラウス、今日はもう帰ってゆっくり休め。後はギルドの仕事だ。お前には迷惑がかからんようにするから心配するな。ギルドの職員と衛兵を呼んで、領主にも説明がいるなあ……」






◆◆◆◆◆◆


※この話の番外編を書いています。

◆番外編 マリールート

https://kakuyomu.jp/works/16818093083567610939/episodes/16818093083567643770



 いつもお読みいただきありがとうございます!


 【ギャングスター】は、ランダムでスキルを奪うとありますが、実はレア度の高いものから奪う判定を繰り返していきます。

 なので、たいていは固有スキルから判定を開始し、失敗したら次にレアなスキルに判定を行います。

 最後のみ100%成功します。

 クラウスの場合、運悪くいきなり判定に成功されてしまいました。

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