第12話 冒険者狩り 2

「さあ小僧、『お前のスキルを奪うぜ』 エアシューター‼︎」


 直後、タケヤマから小さな緑色の風の渦が扇状にばら撒かれて次々と襲い掛かってくる。

 中級の風魔法だ。

 躱しても躱しても次々とやってくる。

 後ろに下がれば弾幕の密度が薄くなり躱しやすいので、自然と後退してしまう。


 ふと、風の渦が途切れた。


 タケヤマを見ると、別の魔法を詠唱中のようだ。

 今のうちに離れた距離を詰めて攻撃しよう。


「……大地に眠る者たちよ、その怒りを解放し、彼の地を震えさせよ! アースクエイク!」


 しかし、僕が近づくより先に詠唱が完成してしまった。

 上級魔法でも詠唱時間半分だとこんなに早いのか。


 僕の周囲のみ局所的に大地が振動し、不揃いな円柱型の岩の塊が全方位から飛び出してくる。

 宙にでも浮かない限り避けられない。

 僕は岩に突き上げられてダメージを受けてしまう。


 このままではまずい。

 魔法を撃たれないように近付きたいが、まだ距離がある。

 それにエアシューターを連発されると近づけないし、その間にスキル強奪の宣言をされるとスキルが奪われる。

 離れさえすればとりあえず被害は最小限で済む。


 悔しいが、ここは逃げるしかない。



◇◇◇



 タケヤマは追いかけてこなかった。

 さて、逃げたのはいいが、どうしよう。

 実は迷う時間もあまりない。


 頼れるのはあの人しかいない。

 僕のスキルの内容を話すことになるけど背に腹は変えられない。




◇◇◇




「エリアさん、相談があるのですが」


「いいですよ。ではすぐに別室に参りましょう」




 ……なんだか僕の事態を予想していたかのような対応だ。

 まあ、知っていようがどうだろうがこの人しか頼れない。






「サブマスター、エリアです。冒険者クラウスさんも一緒です。入ってもよろしいですか」


「入りたまえ」


 案内されたのはサブマスターの部屋だ。


「とりあえずソファーに座りなさい。クラウス君、何やら思いつめた顔をしているね。しかも少し怪我をしているようだが、どうしたんだ?」


「ええ、実は1、2時間ほど前にスキルを奪われました。タケヤマを殺さないとスキルが戻ってきません。今日中にタケヤマを何とかできませんか?」


「それが冒険者狩りの名前なのか? なぜ名前を知っている? それに今日中にとはどういうことだ?」


「クラウスさん、スキルを奪われて焦っているのはわかるのですが、説明をお願いできますか?」


「ごめんなさい。ちょっと待ってください」



 僕は深呼吸を何度か繰り返す。



「……落ち着きました。では、最初からお話しします。僕は、固有スキルの力で僕に対して悪意をもつ者の名前やレベル、ステータスやスキルなどの情報を見ることができます。今日はラークの森に薬草採取でいたのですが、固有スキル【ギャングスター】を持つタケヤマに襲われました」


「お前の固有スキルで相手の名前がわかるのか。それで、【ギャングスター】というのがスキルを奪うスキルなのか?」


「はい。内容は、相手に対してスキルを奪う宣言を行った後、攻撃を当てた相手からランダムで1つスキルを強奪するというものです。奪ったスキルによる技や魔法は消費MP半分で使用可能です。さらに、技については再発動までの時間が半分になり、魔法は詠唱時間が半分になります。また、相手が死ぬと奪ったスキルは使えなくなります」


「本当だとしたら、なんとも厄介なスキルだな。そして、奪われたスキルを取り返すには殺すしかないのか」


「【ギャングスター】の所持者が死ぬと、奪われたスキルが元の所持者に戻るとありました。もしかしたら他に方法があるかもしれませんが、そこまではわかりません」


「クラウスさん、今日中にというのはなぜですか?」


「僕の固有スキルは【交換】といいます。僕に悪意を持つ者を視界に入れた後、1日1回だけ、そして同じ相手に1回限りですが、ステータスやスキルなどを僕のものと交換できるのです。その相手のステータスも見ることができます。仮面をつけたタケヤマを見たとき、僕はタケヤマとMPを交換しました。そしてその後、タケヤマの『お前のスキルを奪う』という宣言のあと、魔法による攻撃を受けてしまい、【交換】を奪われました。今の僕は自分のステータスが見えません」


「今日はもう【交換】を使っているから、明日までは使えないはずということか。そして明日までに倒せば【交換】による被害者はいない、と。……まあここまで聞いておいてなんだが、にわかには信じられない話だな」


「信じてください‼ このままだと明日になると確実にタケヤマは僕に対して【交換】を使うでしょう。僕の腕力は800を超えていますから、交換されるとタケヤマは手がつけられなくなってしまいます。【交換】スキルでタケヤマは僕の居場所を常時把握できますので、襲われてスキルを奪われ放題です。お願いします、助けていただければ僕にできることなら何でもします!!」


「腕力が800超えだと!? A級上位でも700前後だぞ!! まさかそこまでとは…… 確認させてもらうぞ。隣のヴェイン殿の部屋に行ってくるから、おとなしく待っていろ」




 そういうとサブマスは隣のギルマスの部屋に向かった。

 エリアさんと二人きりだ。


「クラウスさん、私は信じています、あなたの話。秘密にしたいことだったでしょうに、お辛いことをさせてしまいました」


「……僕も助けてほしいので、そのためには仕方ないと思っています。エリアさんが気にすることではありません。むしろこんな話を信じろというのが難しいとすら思っています。できれば僕のスキルは他言しないでほしいのですが」


「もちろんです」


「…………」


「…………」


「…………」


「今は詳しくお話しできませんが、私にも変わった固有スキルがあります。クラウスさんほど便利ではありませんが、クラウスさんが信用できる人間だとわかっています。クラウスさんが自分のことを話したのに私のことを言わないのは不公平だとわかっていますが、信じてください」


「今まで一度もエリアさんのステータスが見えたことはありません。つまり悪意がないということです。だから、僕はエリアさんのことを信用しますよ」


「ありがとうございます」


「…………」


「…………」



 会話が途切れ、沈黙が場を支配する。

 だが、気まずさのない、むしろ心地よい沈黙だった。




 ガチャリ。

 どのくらい時間が経ったかわからないが、ドアが開いてサブマスが戻ってきた。


「待たせたな。ヴェイン殿からステータスの測定器を借りてきたぞ。数少ない貴重品だから本当なら一つのステータスを図るのに金貨3枚必要だが、今回は特別だ。クラウス、ここに手をかざして少し魔力を流してみろ」


 サブマスに言われた通り、水晶の測定器に手をかざし、少し力を入れてみる。

 すると、『817』という数字が浮かんできた。


「……クラウスよ、お前の話が一応正しいとしたうえで話をしよう。確かにこの腕力を冒険者狩りが手に入れたらそこらの衛兵だと手に負えない。それで、そのタケヤマというやつについて他にわかっていることは? MPはクラウスと交換したから50なのだろう?」


「いえ、200です。僕のMPは、前に【交換】スキルを使う機会があったから50から100に戻していました。タケヤマと交換したら、タケヤマのMPは100になるはずなのですが、おそらく2つ目の固有スキル【最大MP2倍】のせいか、200のままでした」


「! 2つも固有スキルなど前代未聞だな。MPは200で消費MP半減か。鍛えた初級スキルがあったら時間回復も含めて長時間使えるな」


「ええ、あと素のステータスはおそらくC級中位といったところでしょうか。それと固有スキルはまだ2つあります。1つは【風神の加護】といって、速さ+50%、風属性与ダメージ2倍、風属性攻撃の消費MP半分、自身に対する風属性攻撃半減、火属性被ダメージ2倍の効果があります。もう一つは【オートヒーリング】で、受けたダメージを1分後に全快させます。汎用スキルは【中級剣術Ⅰ】【中級体術Ⅱ】【上級風魔法Ⅰ】【上級地魔法Ⅰ】もあったはずです」


「……まだあったのか。とんでもないやつだな。これは本気を出さないと無理だな。よし、私が出よう。確実に仕留めるのにあと1人。今から人員を集めるのは無理だし、まとめてスキルを奪われると厄介だからな。それで、タケヤマの居場所はわかっているのか?」





◆◆◆◆◆◆


 いつもお読みいただきありがとうございます!


 前話でタケヤマの最大MPが減っていなかったのは、


 【交換】されて最大MPが100になる→【最大MP2倍】発動→最大MP200になる


 という仕組みです。

 【交換】されるとステータスの再計算が行われます(一部例外あり)。


 なので、もしクラウスが2話で【最大MP半減】を交換していなければ、タケヤマの最大MPは100になり、クラウスも最大MP100になっていました。

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